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善は急ぎまくれば回れ

続けて

大賢者とは、数年前に突如現れた役職兼称号のことである。魔法職最高の賢者、その賢者のさらに上の存在として位置づけられる。

賢者のくくりを貫き、その上級職としてできた所以は、ひとえにその規格外さである。

数年前に現れた初代大賢者を見た時、人々は思った。

生物としてのレベルが違う、と。

それを皮切りにその後も続々と化け物クラスの人間が世に出てくることになった。彼等は勇者や大賢者などの相応の役職に就き、いずれも無類の強さを誇ったという。

彼等はその圧倒的強さ、成し遂げた偉業などを讃えられ、国家間の政治にも口出しできるほどの権威が与えられた。人類は彼等のお陰で漸く魔王と対峙する力を得たのだ。


しかし、人々は知らない。

その化け物と称された彼等に、1人の師匠がいる事を。

人々は知らない。

彼等が束になっても敵わない、本物の化け物がいる事を。


…………


「だぁかぁらぁ、賢者だっつってんだろ!?」


「だぁかぁらぁ、それを証明できるものを出せつっつってんでしょ!?」


「だぁかぁらぁ、失くしたっつってんだろ!?」


「だぁかぁらぁ、それじゃあ役職わからないっつってんでしょ!?」


「だぁかぁらぁ、賢者だっつってんだろ!?」


無限ループって怖くね?

王都でダントツの知名度を誇るギルド。そのギルドに今朝、1人の訪問客が来た。ぱっと見20代半ばの彼は、どうやら冒険者登録がしたいらしい。早速受付嬢のところへ行き、今の問答が始まる。

初めはお互い穏やかな口調だった。しかしどちらの頭が悪いのか、いつのまにか口調も崩れ、終わりのない無間地獄へとはまっていった。


「な、なあ。あれもう止めた方がいいんじゃね?」


「しるか、飽きるまでやらせとけ」


ギルドのメンバーも大声で言い合う2人に何事かと集まる。しかし、事の真相を目撃してからは全員呆れた笑いをしながらそれを観察することにした。


この言い合いが終わったのはそれから5分後のことである。


「んで、要件は何なんですか。」


「冒険者登録」


「最後に発行したのはいつですか」


「発行つか、学校卒業した時に貰った」


途端に受付嬢が訝しむような目を向ける。


「ほんとですかぁー?役職は?」


「賢者」


淡々と答える男に今度は呆れた眼差しが刺さる。それは受付嬢だけでなく、ギルド全体からくるものであった。


「あのですね、学園卒業時の役職認定は成績上位3人しかうけられないんですよ?」


「まじ?すげえじゃん俺」


「………。しかも賢者は魔法使い職の最高に位置する職業ですよ?学生の域でそこに至るのはちょっと……」


「ん?最高職は大賢者じゃないん?」


「いや、大賢者はもはや別物なので………。とりあえず、学生の頃の役職認定が本当にしろ嘘にしろ、もう一度発行するにはギルド試験を受けて貰う必要があります。」


「よし、じゃあそれ受けよう。」


「ああ、そこは普通に受けるんですね…。ちなみにどこのギルドで受けるんですか?」


「いや、ここにいるんだからここで受けさせてよ」


「いや、何もここで受ける必要はないかと」


「もしもしぃ?話聞いてた?必要もクソも、ここで受けれるんなら受けた方が楽でしょ」


「本当にムカつきますね。……っではなく、知らないようだから教えてあげますけどギルド試験はその名の通りギルドで受ける試験なので、ギルド毎に難易度が異なるんですよ。

確かにここのギルドは国でも、いえ世界でもダントツの知名度を誇り、在籍しているだけで冒険者としての株が上がります。しかし、もちろんその分難易度も高い。ギルド試験の中ではここは間違いなく世界有数の最難関とされる場所です。なんたってここはあの大賢者の1人が創設し」「すごいな。じゃあ試験よろしく」


「この野郎」


眉間に皺を寄せ殴り書きするように書類を記入する受付嬢。


「んで、その試験っていつ受けられんの?」


「望むのであれば今からでも。しかしオススメはしませんよ。タイミングの悪いことに試験管の資格を持っている冒険者が大分出張っています。今からとなると」


「まあ、俺が相手になるわな」


話を遮るように青年の後ろから声が響く。

振り返ると、そこには大柄な体格に赤髪、顔の左サイドに大きな縦の傷跡がある男が立っていた。


「ダリックさん…」


「ようニアルちゃん」


スっと頭を下げる受付嬢ことニアルに片手を上げて挨拶する男。


「あんたが試験管の人?」


「ああ。そうなる。」


「なんだ、いるならいいじゃん。なんで今日オススメしないとか言ったわけよ」


「それは…」


ニアルに向き直る青年。それに対しニアルは少し言いにくそうにする。


「気にしなくていいぜニアルちゃん。事実だからな。」


「ん?どゆこと?」


事情がつかめず首をかしげる青年に、ニアルが口を開く。


「ダリックさんはその……かなり試験に関して厳しい方でして、今迄ダリックさんの試験を受けて合格した人は片手で数えるほどしかいないんです」


「一部にゃ新人殺しなんて異名でよばれてるくれーよ。俺にはもっとかっちょいい異名があんだけどなあ。」


ニアルの言葉に付け加えるようにダリックが言う。


「んで、それを聞いた上で改めて質問だ。今この場にいる試験管は俺だけ。それでもお前、試験受けるか?」


「うける」


即答。今までの話を聞いていたかすら怪しい速度で青年は答えた。その答えに対しダリックは一瞬気の抜けた表情をし、ついで笑みを浮かべた。


「いいね、お前みたいに豪胆な奴は好きさ。試験中もその調子でいてくれることを願うぜ」


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