スライムテイム
前話の書き足しをしたため、そちらを先に見てもらうことを推奨しております。
「本当に済まない。僕らの王様のせいで。……これは餞だ、死の世界で生きながらえるための銀貨六枚。あの世で幸せになってくれ」
そんな声が聞こえたような気がする。
もうその声が聞こえたのが数時間前のように感じれる。たかだか三十分前くらいなのに。
でもそんなことを気にしていられない。その三十分間、苦しみを受けているのだから。
体がとてつもないほど痛くて熱い。焼けているような、そんな苦しみをだ。
意識もある。首を切られて死んだはずなのに、だ。そしてそれが消えることがない。
まるで俺を生かそうとしているようだ。
感覚も意識もあるなら俺は幽霊ではないのだろう。ならば、俺はなんだ。
動かない体を酷使して目を開けてみると、そこに広がっていたのは鬱蒼と繁く木たち。
元の世界なら死体遺棄だな、と内心笑いながら、視界の端にあるステータス画面を見つめた。
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カナクラヨウヘイ
職業 1.召喚士LV1
種族 人族LV1
体力 10
物攻 10
物防 10
魔攻 10
魔防 10
俊敏 10
幸運 200
固有スキル 召喚、四聖獣の加護(白虎、朱雀)、鑑定眼、無限倉庫
スキル
称号 異世界人、四聖獣の加護、ハズレ勇者
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変わったのは固有スキル欄と称号の部分。
多分、四聖獣の加護というものが俺を生き返らせたのかもしれない。
まだ痛みは消えない。
これがまだ続くのか。そう思いながら十数分、体感で数時間分待ち、ようやくその痛みは消えた。
その時には体が動くようになり立ち上がることができた。まだギシギシと痛む感じはするが先程よりは至って楽。
辺りを見渡すが何も見えない。それもそうだ、木が邪魔して光も少ししか届いていないのだから。
わかっていたとしてもこの世界に来たばかりで知人もいない。助けてくれる人はいないのだ。
手元にあるのは兵士の誰かが置いていったであろう銀貨が六枚。六文銭を模しているのだろうか。
よく良く考えれば死の世界で生きながらえるための、なんて言葉を出していたような気がする。三途の川みたいなものだろうか。
まあ、いい。お金はある。貨幣価値はわからないが、ないよりはマシだろう。
ステータスを詳しく見る方法もわからないし、スキルの使い方もわからない。
どうしようか、武器すらないのに敵でも現れたら。
それがフラグだったのだろうか。俺の隣の草むらがガサガサと揺れ始めた。
周りを見渡すが何もない。本当に何もない。あるとすれば石や木の棒。
仕方なく数個の石をポケットに詰め、木の枝を構えた。
草むらをかき分け飛び出してきたのは、ドロドロの液体状の何か。でもわかる、スライムだ。
スライムは俺の方に来ることはなく、その場で立ち止まっていた。
それをチャンスと思い近付いてみたが何もない。木の枝で数回、ツンツンと突っついてみる。
ちょっと固まってプルプル震えるだけだ。可愛らしい。
次は石をぶつけてみた。いや軽く当ててみただけだが。ただ可愛らしい姿を見たいためだけに。
ダメージはなさそうで、またプルプル震えた。ちょっと満足したのでスライムをそのままにして歩き始める。
一歩目、後ろを見るとスライムとの距離は変わっていない。
二歩目、同様に変わらない。
少し早足で五歩前に進む。その距離は変わっていない。
次は後ろ歩きで進んでみる。やはりスライムは動いていた。それも俺との距離を一定にするように。
先程のことで怒ったのだろうか。ごめんね、と言いながらスライムを触った。また震える。
そして進む。今度は振り返らず十数歩目。後ろを振り向いた。スライムはいた。それもさっきより近くにいるような気がする。
そして俺は立ち止まったというのに、スライムは止まらない。
遂には俺の足にドンとぶつかった。液状のためふにゃりとした感触とともに形状が少し変わった。
「どうかしたのか?」
そう言いながらスライムに触れてみると頭にアナウンスが流れた。
『スライムとの交友度が一定量を超えたためテイムが可能になりました』
それが聞こえてすぐに激しく震えるスライム。まるで『テイム?』をして欲しいと言わんばかりの行動だ。
「えっと、テイム……?」
何も起こらないだろうとタカをくくっていた。でもそんな俺を裏切るかのようにスライムは輝いた。
光が収束してスライムの姿が現れ始める。
ドロドロだったその体は固まっていき……と思いきや、また溶けだして元の姿に変わった。
何か変わった点があるかと探してみると、震えるだけだったのが、縦に伸びれるようになっていた。
まるでお餅のようだ。ちょっと透明に青が混ざったような色味なので食欲はそそられないが。
ステータスにも従魔という欄が出てきて、スライム(名無し)となっていた。これで仲間になったのだろう。まだまだスローライフまでは時間がかかりそうだ。
呆けていたのかスライムは何度も視界に入ろうとジャンプをしていた。その行動も初めて見たので従魔になったことで、できるようになったのかもしれない。
より可愛らしさを手に入れたスライムを撫でてから俺はまた歩き出した。
数分歩いて、敵と遭遇した。
小鬼だ、緑色の小鬼。RPGでいうところのゴブリンだろう。
石を投げようとポケットをまさぐっている時だった。
俺よりも早い速度でゴブリンがこちらに向かってきた。それを見て俺はガードの体勢をとる。
でもその攻撃は無駄に終わった。
俺の前に出てきたスライムが盾になったから。それもノーダメージで。
それを見て俺は石を投げつける。
守りはスライムに任せ石を投げ続けて数分、ようやくゴブリンの撃破に成功した。
死んだのは間違いないだろう。光に変わって物やお金に変わったのだから。
頭の中でレベルアップのアナウンスだけが響き渡っていた。
明日は不死鳥の召喚士を更新する予定です。
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