再度、食べられそうな物を探しましょう。
第7回目です。
どうぞ良しなに。
採集したものを多く運べるよう空にしたカバンを背負い、拠点付近は調べ終えているので川辺に向かうことにした。
川辺についてすぐ、川の浅瀬に手を浸し水温を確認する。
すると、驚くことに水に触れている感覚を一切感じない不思議な感覚だった。
一旦、水から手を出してみると、これまた摩訶不思議なことに、手に一切の水滴がついていなかった。
試しに口にしてみたが特に異常はなく、むしろ力がわいてくるような。
「ふむ。これはまた。先ほどまででしたら、地球と変わらないところだろうと思っていられましたのに。
日本の霊山にもこのような膨大な”気”の力は感じませんでしたよ」
そうだ。この川は山に流れる”気”が具現化したものにちがいない。
日本でも安倍晴明がいた平安時代には、山や各地にはいたるところに木の流れる地、龍脈が存在すると考えられていた。
実際、私自身、元から霊感が強いこともあり薄っすらとだが龍脈を肌で感じ、調子のよい日には視界に映すことがあった。
されど、まるで川のように流れる龍脈など聞いたこともない。
何度か気の力を感じ取ったことのある私ですら、ただの川に見えるほど濃く、はっきり映っている。
さらに、日本の龍脈であれば、力の大きさからその場にいるだけで気がみなぎるように感じるのだが、その気配を全く感じない。
だが、実際に口にしてみると湧き上がる泉の如く、力がみなぎる。
この目の前にある川を龍脈と仮定するなら、日本の龍脈は放出型、こちらは内包型のように思う。
そもそもの話、これが実際に龍脈かと問われると違うような……。
正体は依然不明だが、丁度毒消し用に飲んだペットボトルの水がなくなりかけていたので全部飲み干してから、代わりに川の水のようなものを入れることにした。
(もし、これが日本と同系統のものであれば、身体の気の流れを調整してくれますので滋養強壮剤として使えそうです。日本では身体に感じるだけで元気になります。
龍脈付近には悪しきものは近づくだけで浄化されると聞きます。もしかすると、この付近では獣に遭遇できないかもしれません。その分、安全な地ですね。
この川は、どうやら中腹部分のようですし川上に行けば龍穴も存在するやもしれません。
この森の生活に慣れ始めてから探索しに行きましょうか。
龍穴付近に拠点を構えれば今後の生活は安泰と言えます。それまでは1日に1回、この水を汲みに行きましょうかね)
早速、川の水を汲み終えると、もう1度川の水を直に飲み、気を体内に吸収した。ますます力がみなぎる。
この川は現在の仮定で行くと、山の気の流れが具現化されたものなので、決して水ではない。気とはつまり、力の元。
よって、気を汲んだペットボトルは重さをほとんど感じない。ペットボトル本体の重さぐらいだろう。
ペットボトルをカバンに入れ、野草等の発見・採集を再開した。
水を採集してから辺りを見渡したが、これまでに見かけた植物以外は見当たらず、湖の方面にも向かって探したが結果は同じだった。
とりあえず、目に映ったものを採集してはいるが、肝心の水分要素が見つからない。湖の水も川の水と同じ、気でできているものだったのだ。
試しに衣類を着用したまま浸かってみたが、やはり水滴のすの字も見つからなかった。
幸いと言えるのか、採集中に付いた衣類や肌の汚れはすべて綺麗になっており、清潔面は心配ないようだった。
採集物から考えるに、この世界の季節感は春で間違いなさそうだ。これが秋であれば果実もあるだろうが、春には実がなる木が少なく、この地にはないようだ。
ちなみに春になる作物は、甘夏やグレープフルーツ、オレンジ、デコポン、夏みかん、はっさくなどの柑橘類、いちご、キウイ、マンゴー、メロンだ。
柑橘類は山に行けば結構生なっているものであるから、見当たらないのはこの地特有か。
カバンの中を確認しながら今後の行動を考える。
(となると、どうにか水分を捻出して凌ぐほかありませんね。今、持っている飲料と言えばコーヒーぐらいのもの。
ペットボトルの水は使い切って川の水気を入れてますから……おや?)
今、見える範囲のカバンの中身は、気が入っているペットボトルと集めた野草やキノコだ。良が多いので掻き分けても他に入れたあったものは映らない。
しかし、手を奥まで入れて探ると、何か冷たいものが触れた。それを掴むと、まるでペットボトルのような感覚。
不思議に思って掴んでいたものを取り出してみると。
(これは――確かに飲み終えたはずの水……)
感覚通りではあるが全くもって予想外なことに、消費し気を汲んだペットボトルとは別……いや、同じともいえる水が入ったペットボトルがそこにはあった。
同じものを2本入れていた、なんて可能性は皆無。
異世界に来た直後は確かに気が動転していたが、しっかり荷物の確認はできていたはずだ!
(一体、なぜこんなことに。
いや、振り返ってみればペットボトルだけではありません。この世界に来てから持ってきた荷物に異変が起きています。
野草やキノコの採集のみで気にしていませんでしたが、考えてみれば、カバンの中に元から入っていたものとさらに野草類を詰め込んでいるのに、かさばっている気配もなく、重さも感じていませんでした。
そこへ消費したはずのペットボトルが何故か増えている。この現象は、機器類の電池残量と同じような現象です! もしや――)
先ほど完食したお弁当箱を開けてみると。
(っ!)
なんと、そこには確かに完食したお弁当の中身がそっくりそのまま入っていた。
(やはり、元の状態に戻っています。
これはどういうことでしょうか……。
共通点を挙げるとすれば、機器類もペットボトルもお弁当箱も、このカバン自体も全て地球のものであるということでしょう。
しかし、それは現時点に限ればの話。
既にこのカバンの中には森で採集したものも入れています。
……これは調べた方が良さそうですね)
この規則性が日本のものだけに現れるものか否かは、後で拠点についてから調べよう。
先にマップの表示域を広げ、獣道や引っ搔き傷のある木がないかを探す。
しばらく探索し続け、マップは東へ30分ほどの距離(道のりで言うと2400m)分広がった。
この地図は拡大・縮小ができるようで、拡大するとそれこそ湖や川の深水も調べられるようだ。
しかも、普通に眺めれば湖と川以外は見れないが、拡大してよく見てみるとアプリの右上に、湖にも川にもペットボトルのアイコンが表れている。
スライドさせて森の中を見ていくと、野草やキノコのアイコンも出てくる。
試しにタッチすれば詳しい表示が出てきて、採集した土地や時期、名前、種類などの項目が表示された。
けれど、項目以降の字は日本にいたときに1度たりとも目にしたことのない、まるで象形文字のような記載であったため読めない。
(これは、この世界特有の文字でしょうか)
アプリは使えば使うほど性能が良くなりつつあるので文字が化けている可能性は低いはずだ。
そのなこんなで新たな発見が多く見つかった。
そろそろPM4:00になりそうなので、報告書にまとめられるよう今日あったことを携帯のメモアプリに記入しながら帰宅した。
(歩きスマホが通用するのは、異世界ぐらいですね~)