一方、そのころ……。
第19回目でーす! 前話が長めだったので今回は短めです。
<オルディーSIDE>
ワタクシはモズメさんへメールを送ってから後ろを振り返った。そこには、モズメさんの上司である社長の上條 司さん、同僚の篝火 銀治さん、金森 天音さん、後輩の難波 雨龍さんがリビングのソファーや椅子に腰かけ今後のお話をされていた。皆さんも片手に携帯電話を持っている。お話の内容から察するにモズメさんへ連絡を取られたようだ。
他の社員の方々は社長さん指示のもと、2階の大広間で待機して頂いている。
屋内にも屋外にも念のため強固な警備を敷いている。マフィアの本拠地だけあって人材には困っていない。
ここは、ワタクシの旧姓の本宅。イタリアンマフィア本拠地、セシーリア家である。
「皆様、この度はワタクシの落ち度でこのようなことになってしまい、大変申し訳ございませんでした……」
「やだっ、もぅ! オルディーちゃんが謝ることじゃないわっ! むしろ謝るべきなのは社長よ! 社長!」
「そうそ。悪いのはぜ~んぶ社長だから! 物集くんがいなくなった分の慰謝料請求しといた方がいいよ~」
「ぅおいっ! コラ! どういう意味だ、お前ら!」
「社長、この結果を招いたのは社長の連絡ミスによるものかと」
「お前、ほんっと物集いねぇと悪魔だな!?」
皆さんのお言葉に重くのしかかっていた罪悪感が緩和される。普通であれば責められてもいいはずなのに、御身よりもワタクシを気にしてくださる。
現状、上條さんの会社はお養祖父さまの手の内にある。ワタクシの携帯電話には1時間前から絶え間なくメールが届き、それらはお養祖父さまの意見に賛同する者たちの返信ばかり。
お養祖父さまの威光が大きいのも確かだが、モズメさんの日頃の行いから信頼や無償の愛を勝ち取られてきたことは言うまでもない。
モズメさんにこの話をすると“過保護なだけです”と言われてしまうのだが、ワタクシはそうは思わない。幼少の頃からモズメさんを見てきてその背中を追ってきたが、追えども追えども追いつくことのできない才能も、カリスマ性も、努力も。そしてあの御家族には失礼な考えではあるが人を慮る情が深いことも。その全てが多くの人々を魅了してやまない。
あの恐ろしい教育を経験していてもなお、弱者の視点を捨てずに持っているモズメさん。あなたの行動は知らず知らずのうちに人々の救いとなっているのだ。
(きっとここにおられる皆様も)
仲良く談笑されている皆さんを眺める。
その表情に呆れはあれども、絶望や失望の色はない。むしろ、この状況を楽しんでいるようにも見える。
(以前と同じ事件が起きてしまって。こちらが慰謝料を支払うべきであるというのに、皆さんは……)
「あら? オルディーちゃん、何か変なこと考えてない?」
「……え?」
「あ~、その顔は確かに“ワタクシのせいで……”なんて考えていそうだね~。これ、社長のせいだよ~。ほら、おいで? あっくんが悪の結社から守ってあげるよ。物集くんの代わりにっ!? 痛っ! ちょ、銀治!?」
「ぬぁ~にが“守ってあげるよ~”よ! あんたなんかに触られる方が可愛そうじゃない! このセクハラ野郎!」
「ハッ! 何言ってんの。あっくんのハグは世の女性のためにあるんだよ? あ、わかった! 実はお前なんかと話しているからオルディーちゃんの気分が悪くなっちゃったんじゃないかな? このオカマ野郎!」
「なんですって!?」
「なんだよっ!?」
「オルディーさん、こんな人たちといるとあなたが汚れてしまいます。僕とあちらでお話しませんか? 物集さんの幼少期時代のお話とか……」
「「おいっ!?」」
「はぁ~、お前ら慰めんのか喧嘩すんのかどっちかにしろよ。つか、雨龍、お前は単に物集の話が聞きたいだけだろ……」
本当にこの方たちは。
「ふふっ」
「「「「?」」」」
失笑を隠し切れないワタクシは皆さんから視線を外し、携帯電話に表示されている“モズメさん”の字を見つめて思う。
(モズメさん。そちらでは健やかに過ごされていますでしょうか。あなたがいなくなってからたった2日だというのに、まるでお祭りのような大騒ぎです。
きっと、平凡を愛するあなたからするとこの一連の騒動は過保護に映ることでしょう。しかし、ワタクシには違うように思います)
だって皆さん笑顔なのだ。
勢いが緩やかになってきたメールの嵐も元を辿ればあなたの行方を案じるがゆえの行動。
“過保護”という言葉は主に子ではなく親に全面的な非がある、ということ。
(こちらの心配はご無用です。必ず皆様を守って見せます。きっとあなたのことですから、今頃お一人お一人に謝辞のご連絡をされていることでしょう。
たった1通のメールを一斉送信すれば済む話なのに)
そんなあなただからこそ。
「皆様、やはりワタクシにモズメさんの妻として謝罪させて頂けませんか?
今回の事件の本当の発端は――」
過保護に見えるほど愛されていると思うのです。
オルディーからすると物集への家族愛は“自業自得”というわけですね~。(笑)