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才人の才人による凡人のための処世術  作者: 西モコナ
第1回、異世界到達。それは森の中だった。
14/21

また、乗っ取りですか! ……いえ、家族からのメール(暗号文)でした。

 第13回目です。どうぞ良しなに。

 今回は少々シリアス展開となっております。

 一般人がこのメールを見たら、何を思うだろう。

 送信元が明らかであるので一先ず安心し送信者に、文字が化けていますよ。内容がわからないので、再送信お願いします、と返信するだろうか。

 一般人の中でも、例えばIQが高いだとか理系の学問を熟知している人は、これが暗号文であると考えるだろうか。

 しかし、きっと暗号文であるとわかったところで解読はできなかいに違いない。

 もしかしたら、クリックすると変なサイトに飛ぶだとか、悪質な乗っ取りだと考えるかもしれない。


(あぁ、私もそんな一般人に生まれていたかったです……)

「プッ?」


 毛玉は私の様子に首を傾げているが、そんなことはどうだっていい。有象無象だ。


 

 我が祖父よ。あなたは一体何をしているのだ。

 もし、この言葉で考えを改める人であれば……。


 私は、1通のメールを前に儚い気持ちになった。

 そのメールの内容はこうだ。




『件名:わが一族、(およ)びそれに連なる者達に通達する。


 本文:この連絡を見た者は至急、本家長男を筆頭とする親族のものと密な連絡を取るべし。

 (ただ)し、それ以外の者には他言無用とする。


 昨日未明、我が直系の孫が1人、神道 物集が詳しい理由もなく行方知れずとなった。

 物集が妻、オルディー・ルア・神道が連絡を取った際、既に地方へ転勤済みだと連絡されたようだ。

 しかし、オルディーは驚くべき感情を物集から読み取った。

 なんと、物集から微弱な狼狽を感じたというのだ。


 わしが自らの手で育てた物集に狼狽させるほどの地方転勤だと? まず、ありえない。

 けれども、オルディーのシックスセンスは、皆も認める力だと思う。

 総合して考えると、物集は妻であるオルディーにさえ嘘をついたことになるのだ。

 孫がわしらに法螺(ほら)を吹くなど今まであったろうか? 事前の連絡もなくいなくなるなどあったろうか?


 無いのだ!

 これは、間違いなく企業の陰謀であろう!

 秘密裏に調査したが、地方の転勤者に”神道 物集”の名は存在せなんだ。それどころか、日本、海外にすらその存在が証明できなかった……。

 あやつのことだ。確かに、どこかで生きてはおるのだろう。だが……!


 わしとしたことが、まさか吹けば飛ぶような子会社の坊主なんぞに後れを取ってしまうとは。ただただ、情けない。

 皆はどうだ? 我らの愛しい物集がその姿を隠してしもうたのだぞ。


 我らが愛し子のために!

 早急に原因を排除し、奪還すべく、多くの同志を求める』




「あぁぁ……。

 (前言撤回です。社長の悪運も今回ばかりは効果がなさそうです)」

「プッ?」





 私は次に訪れたバイブレーションによって覚醒した。

 開いてみると、オルディーからのメールだった。




『件名:ごめんなさいっ! (/_;)


 本文:既にお祖父様(じいさま)からのご連絡をご覧になってしまわれたころかと思いまして、ご連絡させて頂きました。

 本当に申し訳ございません!


 ワタクシがいらぬ心配をお養母様(かあさま)やお祖母様(ばあさま)にお伝えしたせいで、

 まさかこのような事態になってしまわれるなんて……!


 社長さんや社員様方の御身は、我が家の者でなんとしてもお守りいたします!

 本当に申し訳ございませんでした……。

 モズメさんのご無事を心よりお祈り申し上げております』




「っ、はぁぁ~」

「プッ?」


 思わず安堵の溜息が漏れた。

 相も変わらず様子を伺ってくる毛玉。

 多少心が落ち着いてきたので、毛玉を優しい気持ちで見つめることができる。


 が、まだ安心するには早い。


 オルディーの一族は、セシーリアという古くから続くイタリアンマフィアだ。

 イタリア人の裏社会ではこの名を口にするだけで殺される、死神だなどと噂されている実績に溢れたマフィアだ。

 しかし、世論からの知名度も高く、裏社会の人間からするとありえないほどの名声と支持率を得ている。

 その実態は謎に包まれている。

 ビジネスヤクザならぬビジネスマフィアなのだ。



 彼女の一族が動いてくれるのであれば、最悪、死ぬことはないだろう。死ぬことは。

 社長の悪運は尽きていなかったらしい。

 問題は、完全に安全と言えない点だ。



「あ~、オルディーではなく、私自身が1番反省しませんと」


 ほんの些細な気持ちの揺れも隠すべきであった。




 しばらくして、親族関係者から次々にメールが届く。

 内容はどれも暗号文かしているし、近しい親族になっていくにつれ殺伐だ。

 そして、最後の行は必ず『我らが愛し子のために!』でしめられている。


 たった3分で1000を超えるメールデータ。

 数は止まる所を知らず、ますます増加の一途を辿る。


(この分では本家・分家のみならず、その配偶者や子供達・家族にも広がっているのでは?

 海外からはアメリカ、中国、ロシア、フランス、その他主要国から小国、さらにイタリアまで……)



 頭がおかしくなりそうだった。


「そもそもなんですか、愛し子って……。

 28にもなってこんな呼び方をされる日が来るとは。

 これほどまでに強力な精神攻撃は受けたこと、ありませんよ。


 あぁ、いっそ死んでしまえたらどんなに楽でしょうかね……」

「キッ!?」

「ははっ……、真に受けないで下さいよ。冗談です。――5分の1くらいは」

「キー―ッ!?」


 もはやこの勢いを止められる者は地球に存在しない。





 メール嵐から約50分が経過した。

 精神への猛攻撃も緩やかになりつつある。


 現時点のメール総件数は、34,859件。

 内、いくつか家族たちからいくつもの写真が添付されて送られてきた。

 それはある薬品であったり、銃器であったり、虫であったりと様々。


 何に使われるのか、考えるだけで恐ろしい。


「今、私が社長に連絡すればそこから情報が漏れてしまうことでしょう。


 ――司先輩は、私が初めて敵わないと思った方。肩を並べたいと切望したひと。

 どうかご無事で――」


 そう願わずにはいられなかった。


 家族ネタが入ると、ギャグかシリアスになってしまうという凄まじい神道家。

 ちょっぴり、”ふ”な西モコナは最後がお気に入りです!

 今後もどうぞよろしくお願いいたします。

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