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八話 え、いたの?

「この世界、魔王がいる」


『……は?』


 お風呂事件から三日。雑魚のゴブリン狩りを連日続けていたところ、いきなりヒノがそんなことをみんなに向けて言ったのである。


「ちょっと待て。意味がわからないんだが」


「この世界、魔王がいる」


「一言一句まったく同じことを言ってくれてありがとうでもそう言うことじゃねえ!!」


 魔王。RPGによく出て来るラスボスだ。でなきゃドイツ語かなんかの歌。いやじゃなくて、なんで今更魔王? それ普通、この世界来てすぐわかるやつじゃない?


 オレと同じ疑問をみんなも持ったのだろう。一様に首をかしげ、キョトンとしている。


「とりあえず、魔王って存在そのものについて疑問なやつはいないと思う。ってわけで、その話どっから来たかだけ説明してくれ」


「面倒だな……長くなるから詳細は省くが、ギルドの者や冒険者にそれとなく訊いて回ったのだ。魔物がいつから存在しているかとか、世界を脅かす存在はいるかとかだな。結果、この世界には魔王がいて、半年に一度徴税をするらしい」


「あれか、逆らったやつは殺す系か。それで誰も逆らえずに、重税を課されてるっていう」


「少し違う。逆らったら即死というわけではなく、違う方法を採る。魔王は、太陽を操れるらしい」


「マジの魔王じゃん……」


 太陽を操れるだなんて、規格外もいいところだ。つーか、チートすぎる。やろうと思えば太陽をこの世界に落として、滅ぼすことすら可能なんだから。


「魔王は自分が課した税を払わぬ者がいれば、太陽を隠し世界を暗黒に包み込むとか。その魔王をどうにか倒そうと、世界を上げて組織されたのがギルド、というわけだな」


 と言っても、その試みは数百年以上も成功していないらしいが。


 そう言って、ヒノは話を締めくくった。


 なるほど、魔王か……けどやっぱりこれ、初日にわかるやつだよな。それとも、オレ達がなんかのフラグ立て損ねたとか? いやまあゲームじゃないならフラグもなにもあったもんじゃないが……


「質問いい?」


 ちゃんと手を挙げてから訊いたのは、最近どんどん扱いが悪化しているギンだ。その証拠に、今も一人だけ正座を義務付けられているし。


「なんだアリー」


「魔王がいるってのはわかった。ってことはあれ? 魔王倒さないと地球に帰れないみたいな話?」


「アリーのくせに呑み込みが早いな。アリーにも、脳みそが存在したとは。もったいない」


「俺の扱い酷過ぎると思うんだ」


 切実に言うギンだが、これについては本人が悪い。三日前のお風呂事件、あのあと女子三人に三時間ほど正座で説教喰らってまだ反省してねえし。まあ、オレに飛び火が来なかっただけいいけど。


 ともかく、ギンの言っていることは間違ってないだろう。魔王がいる世界に来てるんだから、魔王を倒さないと帰れない的なやつのはず。これで全然関係ない条件で帰れたら、むしろ驚きだよ。


 ヒノが言いたかったのはそう言うことらしく、最後の懇願はスルーで話を続けた。


「アリーが言った通りだ。恐らくだが、私達が地球に帰るためには魔王を倒す必要がある」


「それ、簡単じゃなくね? あたしらよえーし。あれっしょ、何百年かかっても倒せなかったんしょ、魔王って」


「その通り。それが一番の問題とも言える」


 そうだ。問題はそこだ。何百年単位で誰も倒せなかった魔王を、オレ達ごとき素人の集りが、そうそう倒せるわけがないのだ。


「で、具体的にどうするつもりだ?」


「ノープランだが?」


「またかよ!! お前はもうちょっとプラン練ってから話をしろよ!!」


 いっそすがすがしいほど、なにも考えてなかった。通常運転すぎて、疲れるったらありゃしない。頼むから、せめてなにかひとつでも案がまとまってから話してほしい。


「とりあえず、まずはレベル上げからじゃねえか? オレ達のレベルじゃ、なにをどうあがいたところで、魔王どころかドラゴンも倒せねえだろ」


「ドラゴンが魔王より弱いとは限らないがな」


「そんなのいたら、とっくのとうにドラゴンを魔王にけしかけてるだろうよ」


 共倒れになってくれれば万々歳。最低でも魔王さえ倒れてくれれば、少なくとも重税はなくなるわけなのだから。


「レベル上げって、またゴブリン倒すんですか? でもあれ、ヒー先輩とルーヤン以外まともに経験値入らなくないですか?」


「それはお前が治癒師選んだからだからな?」


 ツッコむと、そっぽを向いてシカトされた。

ミーア、悪いのはどう考えてもお前含めた四人だからな? もっとバランス考えて職業選んでいたら、今よりはマシだったからな?


 口に出そうかと思ったが、言ったところで今更なので飲み込んだ。それよりも今は、どうやって魔王を倒すかである。


「私としても、それは問題だと思っている。もっと経験値効率のいい狩場はないものか――と思い立ち、クエスト掲示板で見つけたわけだ」


「見つけてたのかよ!! だったらさっき言えよ!!」


 あるじゃん!! プラン存在してるじゃん!!


 全力でツッコむオレに対し、ヒノはあくまでも涼しい顔だ。


「いや、これはあくまで念のために色々調べた成果だ。具体的にどうこうしようと思って、ピンポイントで調べていたわけではないからな。偶然と言う他ない」


「さいですか……」


 ヒノの場合、理屈じゃなくて直感で動いてるからなぁ……多分今回のこれも、なんとくなく調べておいた方がいいんじゃないかって思って調べたやつだろう。そして本当に役立つところが、ヒノの恐ろしいところである。


「というわけで、明日はその狩場へ行こうと思う。場所はあの森の向こう、ナイトメアと呼ばれる魔物がはびこるリシュテラの谷だ!」


 嫌な予感しかしない名称に、オレ達は顔を見合わせたのだった。

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