二十八話 進むべきか進まざるべきか
雪の塔を攻略中のはずだったオレ達は、気がつくと魔王がいそうな扉の前にいた。どう考えても、ありえない。何が起こったのか、さっぱりわからなかった。
「まさかとは思うが……いくらなんでも、この先に魔王がいたりしないよな?」
「んなことあるわけが……ある、わけ……」
否定するだけなら、たやすい。だがそれは、何の根拠もない戯言だ。
辺りをよく見ると、ここは長い廊下の行き止まりだと思われる。反対側にも廊下は伸びているのだが、その先にあるのはただの壁。つまり行ける場所があるとすれば、目の前の巨大な扉の中だけということになる。
「もしこれが魔王のいる扉だとしてさ。他に行く道ないってことは……俺達、詰んでる?」
引きつった笑みでつぶやかれたギンの言葉に、誰も何も言えない。
「……とりあえず、反対側まで行ってみよう」
全員がゾンビのような足取りで、オレの後をついて来る。
五分ほどかけてたどり着いた廊下の先。そこにはやはり、石でできた壁があるだけ。いくらそこを調べようと、隠し扉も何かしらのギミックも、発見することはできなかった。
全員が全力で調べても、何も発見できない。どれだけ時間をかけようとも、出た結論は一つ。
扉の先にしか、道はない。
「ど、どうするんですか、これ……?」
「どうするもこうするも……どうにもできん。今回ばかりは、なぜこうなったのか、完全に不明だからな。こんな話、聞いたこともない」
今回は前回までの反省を生かし、ヒノだけでなく全員で雪の塔の情報を集めた。だがその中に、こんなところに飛ばされるだなんて話は、一切なかったのだ。それどころか、あの塔に挑んだ人の中で、行方不明になった人すらいない。死体すら、全て入り口に強制送還されるのだから。
つまり、まだ誰も見つけていなかったギミックがあったのだ。この世界でオレ達が初めて見つけた、見つけてしまったギミック。それがよりにもよって、こんなものだなんて……
「……これから、どうするん?」
さおりん先輩の問いに即答できる者は、いなかった。
長い沈黙の後、仕方なくオレが口を開いた。このままだと、みんな黙ったままのような気がしたから。
「選択肢、って言えるほど上等なもんじゃないですけど、道は二つ。一つ、助けが来る、あるいは何か起こるのを期待して、ここでひたすら待つ。ただ――」
「その何かが、ポジティブな方向であるとは限らない、か」
「……ああ」
もしかしたら天井が落ちて来るかもしれないし、そのうち大量のモンスターがここになだれ込んで来るかもしれない。それだって、何か、だ。
「二つ目は?」
「二つ目は……イチかバチか、あの扉の向こうに行ってみる」
あの扉が、まだ魔王のいる部屋のものだと決まったわけではない。おどろおどろしく、いかにも魔王がいます! と言った見た目だからって、本当に魔王がいるとは限らないのだ。あの扉の向こうには、ただの悪趣味な変人が住んでいることだってあり得る。
「なあルーヤン。それって、どっちのが生き残る確率高いの?」
「……どっちもゼロに等しい、ってことだけは理解しておいてくれ。それを踏まえたうえで、小数点以下でも生き残れる可能性が高いのは……後者、だと思う。ただ何もせず待つよりも、行動すれば道が拓ける可能性が高い。オレはそう思う」
本当にわずかな違いであっても。行動した方が、きっといい結果を生む。それにもしここで何もせずに全滅なんてすれば、死んでも死にきれないじゃないか。
「……私は、進もうと思う」
静かにそう宣言したのは、やっぱりヒノだった。
「はーちゃんの言う通り、ここで立ち止まっていても、状況が好転するとはとても思えん。むしろ時間が経てば経つほど、悪化するだろう」
今回はそれほどダンジョンに長居する予定はなかったから、精々二日分の食料しかない。そもそもは日帰りの予定だったのだから、これでも多いくらいだ。
もしこの食料がなくなれば、オレ達は動くに動けなくなるだろう。そうなってしまえば、もうおしまいだ。何をすることもできず、死を待つしかなくなってしまう。
「あたしも進んだ方がいい……と、思う」
不安げにではあるが、さおりん先輩も進むことに賛成のようだ。
「ここに突っ立ってても、何も変わんなさそうだし。だったら、進んだ方がマシっしょ」
「俺も賛成」
頷くギンは、未だかつて見たことがないほど真剣な顔をしていた。
「罠でも、これは進むしかないパターンなんじゃないかと思うんだよね。まあただの勘だから、無視してくれてもいいけど」
「たぶん、それで合ってると思うぞ」
それほどゲームをやらないギンがそう思うってことは、伏線がどうとかフラグがどうとか、関係なくそうだってことだ。
「わ、わたしも賛成で……」
おずおずと最後に手を挙げたミーアだけは、みんなが賛成しているからしておこう、というのが見え見えだった。ただそれは、進むのに反対というわけではないだろう。ただ、本当の意味でどちらがいいのか判断を放棄しただけで。
これで形の上では、全員が賛成ということになった。なら、もう道は一つだ。
「……行くぞ、みんな」
『……おう!』
オレ達は巨大な扉の前へと戻ると、ゆっくりとその扉を開けた。




