十六話 待ち望んだこの瞬間
「やった、やったぞ! ついに転職可能レベルに到達したぞ!!」
この世界に来てから一か月が過ぎようとしていた頃。オレ達は、ようやく全員が転職可能なまでにレベルを上げていた。
「いやあ、長かったなー。俺めっちゃ疲れたわ」
「てかほぼお前のせいだけどな!!」
元々不向きな職業なうえ、戦闘になかなかちゃんと参加できなかったからである。つーか、勝手にくだらねえ理由で職業決めたギンが悪い。それを言ったらオレ以外全員悪いけど。
「つーか、なんで一番ヒノがレベル高くなってんの?」
それがもっとも不思議なところだ。オレが唯一の前衛なのだから、経験値配分オレの方が高いはずなのに。
「私にも詳しい原因は不明だが、よくバックアタックしてくるモンスターに、錫杖を突き刺していたからではないだろうか」
「そんなことしてたのお前!?」
いつの間に……そういや、オレが倒したはずの数より、実際の数の方が多かった時けっこうあったわ。原因はヒノか。
とにかく。これで全員が転職ができるわけだ。
「いいかお前ら、今度こそ勝手に決めるんじゃねえぞ!? もう二度と同じ苦労はしたくねえ!!」
『はーい』
返って来た雑な返事に心配になるが、今ここでうるさく言うと、ヒノ辺りが逆に勝手に選びそうなので自重。ヒノの場合、話聞くの面倒になったとかそんな理由で行動しかねない。
とりあえずオレ達は、カウンターで転職が可能になったことを伝える。そして渡されたのは、一冊の分厚い辞書のような本。
「これが職業図鑑か」
ヒノが前に読んだと言っていた、職業図鑑である。この中には約二千もの職業が乗っており、一部の特殊例を除き下限レベルを達成していればなれるものだ。
「えーと、白魔術師に戦士、料理人まであるな。ってか、料理人ってどうやって戦うんだ……?」
「ふむ、どうやら主な攻撃手段は包丁らしいな。敵を三枚におろしたり、みじん切りにするようだ。最終奥義は中までこんがりグリルするらしい」
「言葉だけ聞くとマジで料理人だな」
やってるところを想像すると、けっこうえぐいことになりそうだけど。
「つーか、この中で一番攻撃手段謎なのって、看板娘じゃね?」
「なんでマジモンの職業混ざってんの!? いや本来看板娘なんて職業はねえけども!!」
それって普通、店とかにいる名物みたいな女の子のことだよな? 間違ってもなろうと思ってなれるもんじゃないし、あまつさえ攻撃するような職業じゃない。
「図鑑によると、魅了が使えるらしいです。あと、有料スマイルとか」
「それ、モンスターに使って意味あるの!?」
ていうかスマイル有料なのかよ!! ケチだな看板娘!!
どうもこの職業図鑑、普通じゃないらしい。
それでも読むしかないので、しばらく五人で読み込んでみたのだが、なかなかバランスがいいパーティにならない。
「わたし、花嫁になりたいです!」
「相手いないよね!? ってかこれもめっちゃ謎だし!!」
ちなみに、攻撃手段は平手打ちとかキックとか、そんなんばっかりである。
「あ、職業覧にヒモがあるぞ!? 俺の天職じゃね!?」
「てめえをヒモでくくるぞアリー」
さおりん先輩に絶対零度のまなざしを浴びせられたギンは、やっぱりバカなんじゃないかと思う。
「あたし的にはこれがいいわ。巫女。衣裳がかわいい」
「む、さおりん先輩にはこちらの姫騎士の方が似合いそうですよ」
「えー、でも鎧とかかわいくなくない? ヒーちゃんがやれば……ってムリか。絶対胸邪魔になるよね」
「いえ、押さえつければいけるのでは?」
「お前らなんの話してんの!?」
衣装で決めるのもやめてくれないかなぁ!? それ前回の二の舞になるパターンだから!!
「今回は回復役が一人、遠距離攻撃が二人、近距離攻撃が二人くらいに別れてくれって頼むから」
「はーちゃんったらワガママだな」
「この場合、ワガママなのはどう考えてもお前らだから!!」
もう本当にお願いだから、治癒師だけ三人とかの悪夢はやめてくれよ。オレの負担が半端じゃねえんだよ。
それから一時間以上も話し合った結果、ようやく全員の職業に折り合いをつけることができた。
「ど、どうでしょうこれ」
毛皮でできた服をまとうミーアは、召喚士になった。全体的にもふもふしていて暑そうなのだが、どんな不思議素材なのか、そこまででもないらしい。
「似合ってるんじゃね? あたしはなんか微妙な気もするけど。重いし」
さおりん先輩が不満そうに見下ろすのは、騎士の支給服である甲冑だ。これも不思議素材でできているらしく、見た目よりもずっと軽い。最初はかわいくないとごねていたさおりん先輩だが、ギンがエロ衣裳を勧めたことで逆に甲冑の方がよくなったそうな。
「大丈夫ですよ二人共、なに来ても似合います。だって美少女だから!!」
「アリーはなに着てもコスプレみたいになるよね」
「アリー先輩に似合うのは、多分白と黒のボーダー柄の服じゃないかと」
「それ囚人服だよね!?」
二人に残念なものを見る目で見られているギンは、白と銀色を基調とした祭司服である。なんとギンがなったのは、白魔術師。イメージは本人とかけ離れているにも関わらず、異様に適性が高かったのだ。
本人もそれがわかっているらしく、服についてのコメントはない。
「コスプレ云々で言うのであれば、ぶっちぎりは私だと思うのだが」
そうつぶやいたのは、なんというかその、一応レア職に就いたヒノである。なにを隠そう、ヒノが就いた職業は魔法少女なのだから。
赤いヒラヒラのワンピース風の衣装は、意外なことに似合ってはいた。ある意味そこが問題な気もするが。
魔法少女がどんな職業なのかと言えば、魔法の自由度が高い代わりに変身時間が長続きしない職業だ。不便な気もするが、この職業はマジで自由度が高い。魔法で武器も作れるし、攻撃魔法も放てる。ただし、燃費は悪い。
なぜこんな職業に適性があったのかは不明だが、とりあえずバランス的には悪くないので、採用した次第だ。
そして最後はオレなのだが、オレはオレで妙な職業だ。なにせ、奇術師なのだから。
「ヒノ、オレだってけっこう微妙なんだからいいじゃねえか。ほぼマジシャンかピエロだぞこれ」
謎の伸縮自在素材で作られているからまだいいけど、燕尾服って戦うのに向いてないと思う。誰がこんな職業設定したんだろう。つーか、どこから出て来たんだろう。まあ、ピエロメイクさせられなかったから、まだいいけど。
そんなわけでよくわからない組み合わせながらも、オレ達は転職することに成功したのだった。これで明日からは、もっと強い敵がいるところへ行けるぜ!!




