十三話 方法はあるはずだ
多額の負債を抱えてしまった翌日。オレは一人で、あの幽霊幼女のいる店へとやって来ていた。
「あの、ええと……すみませーん!」
名前を呼ぼうとして、そう言えば名乗られていないことを思い出す。こちらも名乗っていないのだから、当たり前なのかもしれないが。
仕方なくふわっと声をかけると、床からひょこりと半透明の少女が湧いて来た。この登場がデフォルトなんだろうか。
「わたくしごときになにかご用でしょうか、お客神様」
「ええと、なんかオレの持ち物で、買い取ってもらえるもんないかなーって思ったんですけど」
「なるほど。わたくしごときがお力になれるかはわかりませんが」
そう言って、幽霊幼女はふよふよとカウンターまで漂って行く。後追う形でオレも続き、カウンターに持ち物のほぼ全てをぶちまけた。だいたいはただのお守りや四葉のクローバーなんかだが、マジックアイテム化したものも混ざっている。
少なくてもいいから値がつけばと思ったのだが、幽霊幼女はカウンターの上のものを見ただけで首を横に振った。
「申し訳ございません。わたくしごときでは、このマジックアイテムを買い取ることはできません。他のものは、別の意味で値をつけることはできかねます。できても、本当にごくわずかしか渡せません」
「そう、ですか……」
やはり、ムリか。ヒノの言っていた通り、マジックアイテムはダメだしその他は価値がない。タヌキの置物とか混ざってるんだけど、やっぱ異世界人にはなんだかわからないもんな。くそ、なにか他に方法は……
「あの、聖玉ってこの店ありますか?」
お金じゃなくて、現物を持って行けばもしかしたら。そう思っての質問だ。ここで買ったら、一千万よりは安くて済むかもしれないと考えて。普通なら浅はかな考えなのだが、今回に限ってはそうはならなかった。
そう尋ねた瞬間、幽霊幼女が妙な顔をしたからだ。
「聖玉、でございますか? それぐらいでしたら、存在しなくはないですが……なぜ、そのように珍妙な品を今更うちなんぞでお求めで?」
「珍妙? え、聖玉ってなにか呪いを解くためのアイテムじゃ……」
「いいえ」
断言した幽霊幼女の顔は、ウソを言っているようには見えなかった。
「聖玉は、主に古代では珍重されておりましたが、今ではさほどでもありません。その言い方自体が、死語ですので。聖玉、なんて言い方をなさるような方が、御存命であることはまずないでしょう。数百年は昔の言い方ですからね。聖玉とは」
今で言う、ガラスのことなのです。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「詐欺、だと!?」
「ああそうだ」
大急ぎでテントへ戻ったオレは、幽霊幼女――本名フィルラリーネさんに聞いたことをみんなに話して聞かせた。
「フィルさん――あそこの店主の幽霊さんだけど、あの人によれば、数百年は前の言い方らしい。その言い方は古過ぎて、知ってる人自体がほとんどいないんだってよ」
フィルさんの実年齢が気になったところだが、今はそれどころではない。問題は、オレ達を騙してくれやがったやつのことである。
「ギヤマンみたいなものか。あれも江戸時代ではガラスのことだったからな」
「そういうこと」
つまり、オレ達は騙されたのだ。
そう言った瞬間、全員の顔が怒りに染まった。
「なるほど、なるほど。詐欺ねえ……上等じゃないか。私達を騙そうとするだなんて。おおかた、新米冒険者だと舐められたのだろうな」
ヒノは見たことがないほど、凶悪な笑みを浮かべていた。オレに向けられているわけでもないのに、背筋がぞくぞくするほどの。
「あの野郎、全部ワザとやったってことかよ。ぶつかって来たとこから! ……女の子にあんな覚悟までさせるとは、許せん!!」
「珍しくアリーに超同意だわ。マジ許さねえぞあのハゲ。ぜってぇ潰してやる」
なにを、と言わないところがより怖い。それに、さおりん先輩ならマジでやりそうなところも。
「わ、わたしはその、ぶつかってしまったのは事実ですし、謝ってから潰します!!」
ミーアもミーアで、目がマジだ。そりゃそうだ。一番責任を感じる立場だったのだから、怒るのも当然である。
「でも、具体的にどうするんだよ?」
問題は、そこだ。オレ達がどれほど怒りを募らせようと、できることには限りがある。それにオレ達は、あいつの名前すら本名かどうかすら知らないのだから。
「警察に報告するってのどう?」
「さおりん先輩、多分この世界に警察はいないかと。代わりは……なんだろ、警吏とか騎士ですかね?」
その質問に答えたのは、やはりヒノだ。
「警吏だ。ギルド職員に訊いたことがあるが、たしかギルド会館の真裏だ。ただし、あまり役には立たないそうだがな」
「なんで?」
「金で簡単に事件をもみ消すからな」
「そりゃ役に立たねえな」
癒着し放題かよこの世界の警察的組織……!!
「んじゃどうする? 俺達ってばこの世界で頼れる人とかいなくね?」
「……そうだな、頼れる人はいなくても、協力してくれる人ならいるかもしれんぞ」
「協力?」
「ああ、それはだな――」




