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十話 クモの巣

「みんな! 正気に戻れって! オレだよオレ!! 西嶋晴哉(にしじまはるや)だって!!」


 襲いかかって来る四人に自分の名前を叫んでみるも、効果はなし。というか下手をすると、誰一人としてオレの本名認識してないんじゃねえ? よく考えると、ほぼ初対面からあだ名呼びだったし……


 現状は、最悪と言っていい。異文化研究部のメンバーのうち、オレを除いた四人全員がおかしいのだ。オレのことを、まるで親の仇のごとく扱い、攻撃して来るのだから。


「ミーア、オレだって! ルーヤン先輩!」

「ひええなんかカマキリが変な音出してるキモイィ!!」


 半泣きで錫杖を振り回し、殴りかかって来るミーア。だが、一つ新たな情報が手に入った。種類はカマキリ。いや、だからなにって感じだけど……


 他のメンバーはと言えば、

「ギン! お前曰く心の友のルーヤンだぞ!?」

「ぎゃあ!? 気持ち悪いから近寄ってくんな俺は普通に女が好きなんだよぉ!!」


 涙目で叫ぶギン。どうもホモマッチョに言い寄られているように聞こえたらしい。


「さおりん先輩、オレです、ルーヤンですって!!」

「しゃべんな二酸化炭素が増えるだろうがてめえの存在自体環境にが悪ぃんだよゴミクズ陽一朗」

「一人だけベクトルおかしくないですか!?」


 よ、陽一朗さんどんだけ嫌われてんの……? 普段はギン以外には優しい先輩だよ? そのさおりん先輩がこれって……


「ああもう、ヒノ!! お前の幼なじみの晴哉だ!! わかるだろ!?」

「戯言をほざいてるようだが、やめた方がいい。五年経ったら死にたくなるぞ。五年後の私が言うのだから、間違いない」

「お前はお前でどんな聞こえ方してるん!?」


 ヒノのこちらを見る目は、どうも黒歴史を見る目のようだ。同族嫌悪が一番近いだろうか。


 ここまで来れば、仮説くらいなら立てられる。恐らくみんなが見ている幻覚は、『自分がもっとも嫌いなもの』。ミーアはカマキリが嫌いで、ギンはホモマッチョ――と言うか、言い寄って来る女子じゃない人。さおりん先輩は誰だかわからないが、陽一朗さん。そしてヒノが昔の自分。


「……ナイトメア、か?」


 この状況は、悪夢を視せられているのではないだろうか。それなら、悪夢を視せる力のあるナイトメアで間違いない。つまりオレ以外の四人は、ナイトメアの術中にハマってしまったのである。


「って、それわかっても解けねえぞ!?」


 事前にヒノから聞いた話だと、ナイトメアは治癒師が使える『リカバー』という魔法で祓えるらしいのだ。これは状態異常を治す魔法なのだが、最初聞いた時は盛大にツッコミを入れた。

リカバーって治癒を英訳しただけだし術の名前英語なのかよって思ったし、つーか状態異常って表現がもうもろにゲームだもんな……


 ついでに言えば『プリフィケーション』と言う浄化魔法でも祓えるらしいが、こっちは白魔術師か聖職者じゃないと使えないらしい。


 で、ここまで来れば問題はハッキリしている。その状態異常回復を使える治癒師三人全員が、敵の術中にいるってところだ。


「なにが三人も治癒師がいるんだから楽勝だ、だよ! 全員かかってるし!!」


 つーか、だったらマジでなんでオレだけ……


 そこでハッとしたオレは、一度強引に四人から距離を取った。そして慌てて調べるのは、リュックタイプのカバンの中。


「光ってる……」


 やっぱりと思いながらカバンを漁ると――あった。目的の、光を放っている本体が。


「ドリームキャッチャー……」


 小さな輪っかに糸を蜘蛛の巣のようにかけて作られた、インディアンだかに伝わるお守り。


 同じく光るギルドカードに目を通すと、新たに光る文章が追加されていた。


『ドリームキャッチャー:悪夢を網目にかけ、いい夢だけを通すことのできるお守り。引っかかった悪夢は時が経てば消え去る』


「これのおかげか……」


 昔選択授業の家庭科で、ヒノが作ってくれたお守り。これはたしか、カバンにつけておいたやつだ。このお守りがオレのスキルで本当の力を持ったから、オレだけが悪夢に捕まらずに済んだってわけなのだろう。


 けどそれがわかったところで、他の四人にかかった術を解く術はない。


「いや、でも……もしかしたら」


 オレは再び襲い来る四人を見据えると、イチかバチかの勝負に出た。まずは一番近くにいる、ヒノからだ。


 ヒノは錫杖を構え、冷たい目でこちらを見据えている。見ているだけで底冷えがするその目を見ていたくなくて、オレは決意を固めた。


 突き出される錫杖を、よく見てどうにかかわす。そして手に持ったドリームキャッチャーを、ヒノの額に押し付けた。


「ヒノっ、戻って来い!!」


 瞬間、カッとまばゆい光がヒノの額で炸裂したかと思うと、ドリームキャッチャーになにか小さなものが引っかかっていた。


「……なんだこれ?」


 だいたい五センチくらいの大きさの、黒い馬のようなもの。大きさも相まって、チェスの駒のようにも見える。


「……それがナイトメアの本体だな」


「ヒノっ!?」


 声のした方を見れば、いつの間にか正気に返った目をしたヒノが、ミーアの振り下ろす錫杖を素手で受け止めていた。


「助かった、はーちゃん。ありがとう。私にしたのと同じことを、あとの三人にもしてくれないか? それでみんなも解呪できるだろう。私が動きを止めるから」


「わ、わかった」



◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇



「こ、これで全員……」


 およそ十分後。ナイトメアを全員から祓い切ったオレは、グッタリと地面にへたり込んでいた。


「お疲れさま、はーちゃん」


「お前は元気そうだな……」


 ナイトメアを引き剥がされた他の三人もグッタリしているというのに、なぜかヒノだけは平然としていた。


「いや、私もこう見えてけっこうキツイ。でなければ、リカバーを使って解呪したのだが」


「あー……」


 そういや、それが本来の方法だったっけ。なるほど、そうしなかったのはできなかったから、か。


 とにもかくにも、ナイトメア討伐には成功したオレ達のなのであった。


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