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けるびむ日記  作者: ける&てと
少年ユールとフィリアの街
7/7

第7話 これからを共に歩む

ユニークアクセスが50を超えました

50人もの方々が見てくださるなんて嬉しい限りでごぜぇます…感謝感謝…

第7話 これからを共に歩む



side:ゴブリンキング


「な、な、なにぃ!我が使い(ペット)だと!?」


目の前の人間を睨みつける

確かに負けた、その上我の身内、配下達を逃がしてもらった

完璧な敗北

だが…だが!


「…我は王だ…膝を屈する事など許される筈も…無い」


最後は消え入るような声になってしまう

情けない…本当に我は情けないな…


うつむいた我の頭にぽすん、と何かが乗る感触…

それは目の前の人間の手で、しかし先程までと違い手甲を外した素手のそれは…悔しい程に暖かかった


「別に私は君に何かを強制させる気はないし、悪い話ではないだろう?」


我の髪を梳きながらそう語る人間


「それに、生きていたら何か成せるが…死んでは何も成せない」


確かにそうである…しかし!


「王ってのは辛かっただろう?」


トクン


言葉が胸の奥に染み入ってくる


「お疲れ様、もう大丈夫だよ」


その言葉は我が一番欲していたかもしれない言葉


『王だから当たり前』『王だから』『王だから』


そう言われてここまで来て…


我の聞きたい言葉を初めて言ってくれたのが人間とは…皮肉だな


「もう解放されちゃっても良いだろう?」


目の前の人間を見上げる

全身ローブに目深に被ったフードのせいで顔が見えなかったが、今、見上げる形となった今はその顔が見えた



その目に浮かぶのは過度な羨望でも重い期待でもなく…労わり



この人間は…人間のくせに…我の事を思ってくれている

なんとも広い心の持ち主だな…


「…言葉巧みに我を誘惑してくるなど…お前は悪魔か夢魔の類いだったのか?」

「おやおや人聞きの悪い…わたしはこれでも聖職者だぞ?」


苦笑を交わす

こんな軽口を叩ける相手も今の今までは居なかった


もはや頭に乗っかった手を払いのける気はさらさら無かった

心地よいと感じ始めている自分もいた


「誰かの手というものはこれほど暖かいものだったのだな…」


人間の手でも、である

同族の手の暖かさなど感じる機会も無かったが…


我の髪を梳く手をとり、眺める

人間は驚いたように我を見、微笑むと


「君の手もきっと暖かいよ」


と今度は人間が我の手をとり指を絡めて握ってきた


…暖かいな…

「暖かいよ」


自分の中で何かが砕け散る音がした

今まで頑なに守ってきた何か

それはプライドであり、義務だった

それが、粉砕される


今、王としての我は死んだ

そう感じた瞬間だった


「人間、我はお前と共に歩んでいきたい」


気がつけば我の口はこんなことを言い出していた

都合の良い手の平返しに我ながら呆れる

しかし人間は


「…私もそれを望んでいるよ」

と顔をほころばせる


その表情にしばし魅入ってしまうほど、その笑顔は優しく…綺麗だった


「わ、私の顔に何かを付いてるのかい?そんなに見つめて」


人間が困った顔で頬を掻く

我は即座に顔を逸らし


「人間、我はお前の名前を知らない…名は何というのだ?」


話題も逸らす


…そんなに長い間見つめていたのだろうか…恥ずかしい…


「あ、ああ!そうだったね、最近自己紹介をするのを良く忘れるんだ…」


恥ずかしそうに頭を掻く人間

何とか誤魔化せただろうか?


「私の名前はケルビム、よろしくね」


再度、手を差し出してくる人げ…ケルビム


その手をとり、我は


「我の名前は『王』、産まれた時からそうとしか呼ばれなかったから『王』だ…だが今日、『王』は死んだ…」


そう、王は死んだんだ…だから…


「そこでケルビムに頼みがある…我の名前を考えてはくれぬか?」



………



side:ケルビム


「我の名前を考えてはくれぬか?」


ゴブリンよ…それは無茶ぶりと言うものだぞ…


いきなりの申し出に硬直する

ゲームキャラに名付けをするのとはわけが違う…

一生の付き合いとなる名前を、私に決めろと言うのか…


「私が決めるのか?…というか私で良いのか?」

「あぁ、ケルビムが良いんだ」


その真っ直ぐな、期待した眼差しを向けられると断りづらいじゃないか…


しばし考え込み…


「ヴァルト…」


頭の中に浮かんできた単語を口に出す

意味は『森』、キングの綺麗な緑色の肌を見て思いついた、思いっきり安易なネーミングであるのだが…


「それが良い、ヴァルト…良い名前だ」


と一瞬で決定されてしまった


「え、本当にそれで良いの?」

「あぁ、良い名前だと思う」


…気に入ってくれたのかな?…


まぁ、私としては他に思い浮かんだ名前も無いので良いのだが…


「我の名はヴァルト、これからよろしく頼む」


頭を下げるキング…ではなく、ヴァルト君


すると次の瞬間、ヴァルト君と私を繋ぐ金色の鎖が現れ…すぐに弾けて消えた


…今のって…


「何だったんだ?」


突然起こった現象に驚いているヴァルト君

だが、私はそれが何かを知っていた


「ヴァルト君、あれは使い魔の契約が成功した証だよ」


「…そうか…」


ヴァルト君の表情は重荷を捨て去った者のそれだった


この小さい身体で苦労してきたんだもんなぁ…


…とりあえずヴァルト君の頭を撫で撫で


「???」


不思議がり、恥ずかしがるヴァルト君の表情をひとしきり楽しんだ後……ヴァルト君の着ている服を眺める


そう、ボロボロである

中身が王子様であるのに、着ている服はボロボロのローブ

もったい無い

非常にもったい無い


ポーチに手を突っ込んで頭の中のアイテムリストを流し見る

ヴァルト君に似合いそうな装備を数着取り出すと、何か不穏な気配を感じたのだろうか、そそくさと逃げようとするヴァルト君の肩をガシリと捕まえる


「ヴァルト君、お着替えしようね?」


手をわきわきさせてヴァルト君ににじり寄る


「ま、まて話せばわか」

「わかりません」


と、ヴァルト君のローブを引っぺがした


「うわぁっ!や、やめろぉ!」

カァと顔を火照らせ、身体を抱くようにして隠すヴァルト君


…おそらくだが、今の私はとても良い表情(悪い人の表情とも言う)をしていると思う


「さ、それも脱ごうか?」



………


着替え中


………



ヴァルト君の着せ替えを充分に満喫した私はヴァルト君を解放する


「もう駄目…我、お婿にいけない…」


と半ば白目を剥き、ぐったりと地面に突っ伏するヴァルト君


「大丈夫、私が貰ってあげるよ」

「うるさいふざけんなばかやろぉ」


その身体は立派な盗賊(ローグ)用の装備に覆われていた


濃い緑色の上下服

やや明るめの鮮やかな緑色のローブを上から羽織る


もう少し肌が見えるような服装の方が健康的な少年っぽくて良いのだが(私の好みである)、一応肌は隠しておく

ヴァルト君の流暢な人語ならゴブリンとばれずに人間に溶け込めるかも…と期待しての措置である

あぁ、楽しかった

いまお肌ツヤツヤだわ


だがそんな時間は長くは続かず…


「そろそろかな…」


お楽しみの時間もひとまずはここまでである

先ほどから『マップ』に敵性を示す赤点ではない、緑点がポツリポツリと現れていた


おそらくはフィリアの街の冒険者達


…とりあえず、何て言い逃れるか考えとくか…


ゴブリンキングを1人で討伐した、なんて言葉が信用される雰囲気では無かったし…


(言い訳…良い言い訳何かないかなぁ…)


徐々にこの場に近づいてくる緑点を見ながらそう思うケルビムであった

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