第4話 「「ようこそ、フィリアの街へ」」
最近、湿度が高いので不快ですね
左目が疼きます(まじで)
第4話 「「ようこそ、フィリアの街へ」」
side:ユール
(凄い…)
ケルビムさんが地面をひと蹴りする度に景色がぐんっ、と後ろに流れていく
だけど見上げる顔は涼しげで一切の息切れを感じさせない
…どのぐらいの強さなのだろうか
…位階はどのぐらいなのか
…そもそも何者で、森で何をしていたのか
知らないことの方が多い…というか、名前しか知らないけれどこれだけは言える
多分、良い人だ
今はそれだけで良い、後々知ればいい
『ゴブリンの王が現れた』
かの王の脅威は時間と共に跳ね上がる
この事実を早く街に伝えなきゃ…
この速度でいけばあと少しで街が見えてくるだろう
馬車や馬より格段に速いのだから
小高い丘を越え、遠方に外壁が見える
「あれが?」
ケルビムさんが足を止め、尋ねてきたので頷いて肯定の意を示す
「ん、じゃあここからは口開けないでね」
「?」
何をする気だろう……まさかっ
ドンッ!
景色が先ほど以上の速さで後ろに消えていく
それに加え、身体が気づけば空に舞い上がっていた
振り落とされないように…まぁ、ケルビムさんが支えてくれているから振り落とされることは無いだろうが…しがみつきながら切に思う
『飛ぶなら先に言って欲しい』、と…
決して泣いてなんかいない…これは…汗だ…
………
【フィリアの街 大門前】
side:フィリアの街の門番達
今日も日差しは暖かく
草原に魔物の影もなし
「はぁ、今日も平和だなぁ…」
「おい、1人迷子が出ちまったんだぞ、不謹慎だ」
門番仕事を満喫していた所に水を差してくる同僚
…いい奴なんだが、クソ真面目って所だけは治んないんだよな
「大丈夫だって、『レンジャーズ』が助けに行ったんだろ?奴らは森のプロだ」
「だが…」
「それに迷子になったのは錬金術士さまの弟子だろ?あの森の外縁部なんざゴブリンしか出ねぇし大丈夫だろ、心配しすぎなんだよ、お前は」
「むぅ、確かに…」
ここぞとばかりに畳み掛ける
「心配性なのはお前の悪い癖だぞ」
「…分かった、治すように善処しよう」
「あとそのクソ真面目も…」
「そこは譲れん、諦めろ」
「ちっ…」
相変わらずお堅い奴だな
「ん?」
「お?どうした、クソ真面目」
「おれの名前はクソ真面目では…いや、それは良い、何か嫌な感じがしてな」
「おいおい、怖いこと言うなよ…お前の勘って悪い時ほどよく当たるんだか…ら…なぁ、あれなんだ?」
白い点が空に浮かんでいた…いや、こっちに来る?
「何だ、魔物か?」
「ちょっと待て…『観察眼』」
お、遠見はクソ真面目お得意の技能の十八番だもんな
「見えたか?」
「あぁ、目があったぞ」
「なっ、魔物か!?」
「いや……人…だな……多分」
「はぁ?人は普通は飛べねぇって知ってたか?」
「じゃあ人の形をした何かだな…お、迷子の坊主も一緒だな、ユールだったか?無事だったんだな」
「はぁぁ?じゃああれはレンジャーズか?レンジャーズに羽生えた奴なんていなかったぞ?」
「知らん、俺に聞くな」
そう話している間にも白い点はぐんぐんと近づき、もはや点とは言えない大きさになっている
「門…閉める?」
「ユールをどうする気だ、お前は」
「いや、だって…」
もうかなり近い
「あぁ、人だな…いや人型だな」
「だろ?」
『ドゴォオン!!』
猛烈な勢いのまま、石畳を割って着地する白ローブの人(型の何か?)
何事も無かったかの様に立ち上がるとこちらを一瞥し、腕の中のガキに声を掛ける
「到着したぞ、ユール君」
「ハイ、ソーデスネ…」
…色々と言いたいことはあるのだが…
……とりあえず、門番としての仕事をするか……
相棒と目配せしあい、タイミングを合わせる
我らがフィリアの街は来るもの拒まず去るもの追わず、どんな人だろうが
「「ようこそ、フィリアの街へ」」
歓迎することにした
………
side:ケルビム
「「ようこそ、フィリアの街へ」」
門番達の声を聞きながらも、冷や汗が止まらなかった
その原因は…着地で砕け散った…
「あのー…この石畳って…」
足元を見ると石畳の幅一杯に蜘蛛の巣状のひび割れが入っていた
ゲームなら起こりえない事だが、現実では当たり前、人間+着込んだ装甲の質量があの速度で突っ込んだら岩だって砕け散るだろう
弁償か…異世界、ってかゲーム世界でいきなりの犯罪行為をしてしまったかもしれない…
だが、門番達は優しく
「あぁ、お気になさらず」
「そのガキ、ユールを助けてくれたのはあんただろ?」
「あ、ああ、一応は私が助けたな」
「ならそんぐらい大目に見てくれるさ」
「それにそろそろ石畳の模様替えも良いと思っていましたから」
「そ、そうか、ありがとう」
せっかくの好意は全面的に受け取っておく主義だ
「ケルビムさん」
くいっ、とローブを引っ張ってくるユール君
「なんだい、ユール君?」
「急いで冒険者ギルドに向かってくれますか?」
ユール君は何か焦っているようで…
「おうおう、どした、坊主」
「何かあったのか?」
門番さん達もユール君の顔を覗き込む
ユール君は一瞬の逡巡の後、門番さん達の顔を見上げる
「ゴブリンの…ゴブリンの王が誕生したかも知れません」
その言葉を聞き『ああ、ゴブリンキング?』ぐらいの軽い返事を返そうと思ったのだが
「なっ!?」「本当か!?」
という門番さん達2人の反応を見て、引っ込める
『え、そんなにヤバイの?』
とは口が裂けても言い出せない雰囲気である
「ジギリタス大森林でか?」
「はい、外縁部にソルジャーが」
「なにぃ!?上位種が外縁部にか?」
「はい」
「と、とりあえずギルドに向かうぞ!」
門番さん達が急ぎ足で門の中、街へと向かったので、その背中を追う
ユール君と門番さん達の3人が話し込む中、私はゲームの中のゴブリンキングについて思い出していた
まず、私1人でも勝てるだろう…時間をかければ、だが
ゴブリンキング自体は魔物の『〜キング』系統の中でも最弱のステータスである
では、何が厄介なのかと言うと…子分モンスターのリポップの速さと量である
圧倒的な量>質の人海戦術
これがゴブリンキングの強さの割に攻略難易度が高めに設定されている理由である
因みに私はソロで…3時間弱かかった
範囲攻撃の数が少ないバトルシスターだから、という理由もあるが、何はともあれ厄介な敵だ
だがしかし、一対多だからこそ厄介であって、多対多で相手取るならそこまで難易度は高くない筈である
なんせ数だけ質は最底辺の魔物、味方で範囲攻撃の飽和攻撃を放てば残るはキングだけである…まぁ、すぐにワラワラと子分が湧いてくるのだが…
と、ここまで考えて門番さん達とユール君の話しに耳を傾ける
「早くキングを見つけねぇと『城』作られんぞ!」
「森の中、深部は落とし穴のオンパレードだと考えたほうがいいな」
門番さん達2人が聞き捨てならない言葉を口にしていた
「城?落とし穴?」
「お?白ローブさんは知らないのか?ゴブリンキングは子分に知恵を授ける、奴らは放っておくと『国』を作り始めるぞ?勿論、防衛用の色々な設備もな」
…なにそれ、こっちのゴブリン超ハイスペックだな…
ゲームの中のゴブリンキングは普通に森の中にいたし、トラップなんて使ってこなかった…
…これは考えを改めた方がいいかも…
無意識の内に『転生俺強』を想像していたのだが…違うかもしれないな…
慢心こそゲーマーを殺す…気を引き締めねば…
今までの自身の失敗(といっても、ゲームの中の事だが)を思い出し、唇を噛む
3人の話を一言一句聞き漏らさないようにしながら
ギルドへの道のりを急いだ