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天竜が為の唄

作者: 薄雀

キラリ、久方ぶりの日の光が地に射す。唖然と見ていた街の民たは余計に口をぽかんと開けてそして、喜んだ。

いつぶりか、ああもう一度日の光を見えることが出来たと大層喜んだ。そして、その街の民たちは己が前に堂々と立つ娘にもう一度視線を移した。キラリ、キラリ、エメラルド色の娘のつけている高価そうな耳飾りは僅かな光で光る。ゆらりゆらり、揺れて幻想的だった。娘の肩のあたりまでの銀糸のような髪は風に靡いて耳飾りと共に揺れる。耳飾りと同じ瞳の色、そして胸元にも同じ色の首飾りが飾られ娘をより一層引き立てる。


この様な場に不釣り合いな真っ白な膝丈のワンピースも、美しい娘も、何より娘が唄う幻想的な唄も全て幻のようだったと後に街の民は語る。



*****


この世界には、魔法が存在しそれを自在に操れるものは少ない。魔を持って生まれた子はある程度の年齢になるととある学園へと入学そして魔を学ぶ。桁外れの魔力を持つといわれる王族、の中の現在王位継承権第一位の第二王子はその学園に通っており日々魔を精進させているらしい。かの王子の名は、リヴァーティリオ・ジ・ルーティン様である。何故、第二王子なのに王位継承権が第一位かというと第一王子が正妃の子ではないからとかではなく…正妃の子であるが如何せん放浪癖のある王子だったからだ。かの王子の名はノアシェーランド・ジ・ルーティン様。彼は幼き頃より王宮外へ飛び出し己がままに行動する。そして、数年前より彼は姿を消した。

第二王子より、魔力も頭脳も優れていたが姿を消せば王位継承もなにもないよって第二王子に移ったのだ。


第二王子こと、リヴァーティリオは金髪碧眼の如何にもな王子様だ。見目麗しく、第一王子には劣るものの一般からみると大変に優秀な王子はモテる。その将来も全てが優良物件というわけで、周りにはいつも貴族子女が集う。数年前まで、かの第一王子も囲まれていたが。リヴァーティリオとは異なり蒼い髪色に金色の瞳を持った彼は冷たい印象を受けるがその逆で誰にでも対等であった。

だからこそ、支持するものも多く皆に信頼されていたのだ。


そんな第一王子にリヴァーティリオは劣等感を抱いていた。兄であり、憧れであった彼がいつしか憎くもなっていた。彼よりも、優れていたかったのだ。誰かに認められたい、そんな願望を密かに持っていた。


そんなある日のこと、学園にひとりの転入生があらわれる。チョコレート色の髪色に、同じ色の優しげな瞳の愛らしい少女。彼女は貴族子女ではないが、その珍しい魔力のためこの学園に転入してきたのだ。なにも後ろ盾のない少女に、第二王子は哀れに思い後見人として付いた。彼女と自然に過ごしていくうちに王子は、いつの間にか虜になっていく……。


『リヴァ様は凄いです。頭もよくて、魔法も素敵です。』

『リヴァ様は何でも出来て羨ましいです』

第二王子は、第一王子に劣等感を抱いていた。故に彼女の零した言葉の数々に嬉しさといつの間にか執着していた。彼女は、己を認めてくれているのだと。


そうして、己の思いを知ったとき少女の周りには数々の優れた男達が集っていることにも気づいた。隣国の王子やその王子についてきた従者であり時期公爵、この国の公爵家の子息、我が従兄弟、その他色々な男達。誰もが心に闇を秘めていて、そしてその心を救ったのは彼女なのだと。


欲しい。彼女の全てが、欲しかった第二王子は彼女に求婚。そして、目出度く結ばれるもののそこでハッピーエンドであれば良かったのだ。しかし、そううまくいくのは物語の中だけだったのだ。

彼女の周りにいた人間は、そうそうたる面々過ぎた。彼女に結果的に振られた形になってしまったことで、隣国の王子は自国へ帰るやいなや戦争を仕掛けてきたのです。

悲劇は始まった、ちょうど3年前の出来事である。


人と人での戦争ならば、ああも悲惨な事にはならなかったであろう。今思い起こせば、そうだ。この世界には昔の昔、食物連鎖の頂点に君臨していた(ドラゴン)がいる。昔では人にとって、畏怖するものだったのに今では魔具を用いれば操ることもできるようになっていた。人よりも数倍、否それ以上の大きな体躯を少量の魔力さえ持っていれば一匹の竜を操れる。しかし、多大な魔力を持っているからとて数匹も操ることは不可能だ。たとえ、第二王子だとて。

しかし、彼は自身のコンプレックスであった第一王子の存在がちらついた。あの、第一王子でさえも出来なかったことをと思い戦場にて二匹の竜を操ろうとしたがしかし…二匹とも操ることもできず竜は制御を失い暴走。敵味方関係なく、その命を奪っていった。



そうして撤退せざるをえなくなった両国が去った後には、竜と人の死体の山だったそうです。その後、第二王子は反感を買い自国でもデモが起こり、隣国からの攻撃とどんどんと追い詰められていく。今ではもう、人を殺すだけの毎日で心を失ったといわれています。



愛しい彼女だけに、ただただ執着をして。



*****


この世界でもっとも珍しいと言われているのが銀髪と緑眼だ。といっても、その昔に失われた色のためもはやいるはずもない。その次に珍しい色は、かの第一王子の色だ。髪色も瞳も、ルーティン家のその昔に途絶えたはずだった色が先祖帰りのために彼に現れた。その珍しい色と優秀だった彼を求める国民は多い。きっとどこかで生きていると信じ待っているのだ。この、悲惨な世界を変えてくれる救世主を。


ありふれた色を持つ、とある夫婦。彼らは必死に荷を作っていた。

3年前に始まった戦争は、今現在も続き日折り激しさを増していく。ついにこの村もお終いに近づいている。すぐそこの崖したでは竜達が火吹きをあげ、兵士たちは刃を交わり併せている。そんな、すぐそこで戦をやられてしまえばお終いだ。そうして、数々の村が消えていった。誰もが荷造りをし、出て行った。そうして、この村は閑散としているそんな中、くたびれたローブを目深に被り歩く人影に気付く。よくよく観察してみれば、ズルズルと伸びる裾からのぞく足は細く白い。


「お嬢ちゃん、こんな所あぶねぇ。はよ、逃げな!」

旦那がそう叫ぶことで、妻は娘であることに気付く。

「こんな所に何しに来たんだい?ほら、あたしらといこう!」

「……お気遣いありがとうございます。けれど、……大丈夫です。あちらに、用があるので。危ないことなど、重々承知してます…けれど、決めたんです。」



─────もう、見たくない。こんな世界は。



「あんた、死ぬ気じゃないだろうね!?ダメよ、若いんだから!」

「…死ぬ気ですか?それは、ないですよ。必ず、生きて帰らないと怒られちゃう」


なら、どうして?


「こんな所にいい人がいて良かった。じゃないと、私、きっと諦めてたかもしれません」


ハラリ、風が靡く。砂埃に目を取られ夫婦は目を閉じた。そして、開いた瞬間目の前から娘の姿はなくスタスタと崖の方へ向かう銀髪の娘の姿があった。

「…………銀髪、だわ…」



******



昔話がある。その昔、とある所にひとりの娘がおった。彼女は、美しい銀髪とエメラルド色の瞳を持っていた。彼女の姿はまるで女神のようで、そしてそばにはいつもたくさんの竜達が寄り添い彼女の唄に安らいでいた。

彼女は銀色の竜、天を司る天竜神やその同朋である竜達と共に世界を見守っていた。ある日、人の愚かさによって戦が始まった。彼女は見守った、いつかその愚かさに人は気付くと信じて見守っていた。しかし、それはずっと続いたのだ人はとても愚かすぎたのだ。


怒った天竜神は、空を荒らせ人の世に災いを起こし無理矢理に終わらせた。そして娘は、人に失望して己でこの世をたった。



という、昔話。

夫婦の中にそれが思い浮かぶ。もしや彼女は、死ぬ気などないといっていたがあの娘と同じように失望してこの世を絶つのではないかと思った。


─────神より賜るこの地に 清めの光を授けましょう

   鮮やかに彩る緑たちよ ここに喚ばれ参れ

   荒れた地に 命を灯せよ 神々よ

   この唄聞こえるならば ここに集えよ 


  さぁ、祈りよ 風に乗れ 遠く空の彼方へ行かん

  木よ花よ眠りから醒めたまえ その命を示せよ

  

  我が友よ 聞こえますか? 

  その傷ついた翼を閉じてこの地に降りよ

  我が友よ 聞こえますか?

  その疲れた御身を休めよ癒えよ

 

「素晴らしい、あのようにスラリと古代語を唄うとは」


ルリラ、リルラ、リーリル、そう唄っていることは聞き取れど夫婦にはその意味がまったく分からなかった。しかし、逃げる途中でこの村に身を寄せたとある古代学者が娘の唄を訳した。

「あれが、古代語だというのかい?あたし、初めて聞いたよ」

「我ら研究してはおりますが、話すことはかなり難しいのです。ああも、スラスラと…歴史書は本当らしい。竜の理解できる言語は古代語なのです。彼女は、竜を呼んでいる?いや、まさか…」


突風が吹き目を捕らえられる。次にまばたきをした瞬間、そこには銀色の竜が佇んでいた。

「…………娘よ、懐かしい唄だ」

竜が口を開く、古代語で紡がれたその言葉を古代学者が意訳した。の前に娘は答えた。

「ええ、あなたが為の唄でしょう?私の先祖から承った唄です」

「久しい、人にまみえることも、唄を聞くことも」

「我、あなたが子。この身、この心、この声はあなたが為にある。天竜様よ、この地に祝福を…」

「…………ならば、唄え。我は久しい唄を聞きたく想う」


*****


──愛を忘れたこの地の民に 真実の愛を伝えよう

 この地に生まれ 育まれた愛しさを 今、伝えよう


 心、通わせば 愛を、知るはず

 過ちに気づき嘆く時 人は愛を思い知る

 尊い命のある限り


 人はこんなにも醜くて 過ちを何度起こすのでしょう

 そのたびに人は愚かさを思い知るのです

 愛を失い 光失い 想うことも忘れた

 憎しみなど忘れて 愛を思い出して


 愛を忘れたこの地の民よ 真実の愛を知りなさい

 この地に生まれ 愛すべき民よ 愛に包まれよう


銀色の竜は、娘を背にのせて大きく飛躍した。そして、壮大なその翼を広げ羽ばたき遠い空を目指した。



竜たちは炎を交え、その鋭い爪で痛々しい傷を付け合う。人は刃を交え、そして命を奪いあう。

「…死ね、」

一閃、かの王子は刃を凪いだ。

「ぐぁっっ!」

鎧を纏った相手国の兵士は、よろめきそして後ろへ倒れた。そしてぴくりとも動かない。

その両手を幾度、赤に染めたのだろうか?どうして、こうなってしまったのかさえも忘れてしまった。ただ、ただ、愛しい彼女に慰めてもらうと心が落ち着き眠れる。ああ、早く彼女の元に帰りたい。

「許さない、俺を弄んだ彼女は」

「彼女は、弄んだわけじゃない。お前が勝手に勘違いしただけだ!」

本来、ここにいるはずのない相手国の王子は今日復讐の為にこの地に赴いていた。

「お前と彼女は国で反感を買っていると、聞いたぞ?婚姻はまだ交わしていないことも知っている。」

「俺を愛するなら、許すがな…」

この場にはいない彼女を今も隣国の王子は憎く思ってはいるがまだ愛していた。

「うるさい、お前にはやらない」


リヴァーティリオは踏み出した、隣国の王子も同時に踏み出し刃がキィィインと交わる。

「愚か」

誰かがそうつぶやいた。騒然としていた辺りはシンと静まり返って、誰しもがその声の主を探す。

また、凛とした声が響いた。

「人は愚か、です。でも、どこかで信じていました。こんな私は哀れでしょう」

この場に不釣り合いなワンピース、そして、失われた銀色をもつ娘。いつの間にか、そこに居てゆったりとした歩調で二人の王子のもとへ向かう。瞳は閉ざされたままどのように歩いているのだろうか?そう疑問に思ってしまうほど。誰しもがみとれるほど美しい娘は一歩、また一歩と歩を進める。


「愛することを忘れてしまったのです」

「…笑わせるな。愛する人はいる!」

「いいえ、誰かではないのです。この世界、この景色、この命、すべてを愛すること」

「なにを、言っている?貴様は、どこから現れた?!戦に女が立ち入っていいなど誰が「お黙りなさい。過ちを犯したことを気づかずまた過ちを犯しますか?」

「過ちだと?」

「ええ、過ち。人は誰しもが一度は過ちを犯します。そうして人は過ちに気づいたとき強くなるのです」


二人の王子の間を通り抜けて、娘は踵を返した。そうして漸く瞳を開く─…。

「欲は満たされた?いいえ、欲とはいつだって満たされることはない。また、新たな欲が生まれる。」

そうして、人は強欲すぎた。何度同じ過ちを犯すのだろう?

微かに零した言葉は、宙へ浮かんだようで。

「これが、最終警告。争いはおやめなさい」

誰かの息を飲む音が響いた。いや、誰かではない…ここにいるすべての者が息を飲んだ。そのエメラルドの瞳に射抜かれ誰も動けない。


リヴァーティリオは、ふるふると揺れた。何かを耐えるかのように小刻みに体が揺れている。そうして、顔をあげた彼はにまり、笑みを浮かべた。

「あの、目障りな女を殺せ!」

号令をかけ、兵士たちへと向いた。兵士たちは、号令にハッと我に帰り各々武器を持ち直し駆けだした。

娘、に近づくと刃をその美しい娘へと振り上げる!

「跪け!誰に刃を向ける?俺を忘れたか?」


娘の前に、とある男が立ちふさがった。リヴァーティリオに仕える近衛騎士へもちろんのこと、その男をしらぬ者はいない。

蒼い髪に金色の瞳、誰もが従ってしまうような雰囲気を纏う麗しい男。リヴァーティリオは、ガクリと膝をついた。

震える唇でこう、問うた。

「兄さん、なんで…ここに?」

そう彼の名は、ノアシェーランド・ジ・ルーティン第一王子だ。

「ああ、馬鹿弟リヴか。なあ、お前付の騎士たちはボンクラか?」

「…!頭が高い、皆跪け!我が兄だぞ?!」

呆然と立ち尽くしていたリヴァーティリオ付騎士や、兵士たちはすぐさま膝をついて最敬礼をする。相手国の兵や、隣国の王子はぽかんと口を開いたまま立ち尽くした。



シンと静まり返るこの空気を終わらせるのは、凛とした声だった。

「………ノア、どうしてここに?」

そう、娘が問うと麗しいその顔を破顔させて朗らかな笑みを浮かべる。そして、心配そうな表情になると声を発する。まるでここに、娘と彼しかいないように。

「リー、心配した。探して、探して、一匹の竜が教えてくれたんだ。優しい唄がきこえた、だから行かないとと。きっとそこに君がいる、そう思って一緒にきた」

そういうと、上を仰ぎ見た先には真っ赤な炎のような体を持つ竜だった。娘は嬉しげに微笑んだ。すると、彼も微笑む。

「偉い?」

「………あの子は、あなたが連れてきたわけじゃない。《…会いたかった、あなたは…巻き込まれていないのね》」

ノアシェーランドにツンと言い返すと、スラスラと古代語を用いて竜と会話をする。

『我も。我らが娘よ』

『俺は、いずれ息子『気にしないで、彼は空気よ』

『そうは言えど、惹かれあう心は運命。楽しみだ』


そう竜は楽しそうに、会話をする。娘はその言葉にムッとするが、笑った。

『我らが、天竜様は?』

『終焉の時が為に』


『よいのか?ソナタは、この世がなくなることを』

ふるふると頭を左右に振り、娘は曖昧に微笑む。

『なくなりません、それを止めるために私はここに』

『俺も、手伝うから大丈夫だ『うるさい、ノア』

しょんぼり、ノアシェーランドは落ち込んだ。


目の前で何が起こっているのか全くわけのわからない彼らは、彼の帰りを待ちわびていたからか歓喜が込み上げていたが状況に追いつけないでいた。

何故か、金色の竜が現れ娘はなにやら言葉を交わす。時たまにノアシェーランドも交わしており、しかしあまり相手にされていない雰囲気が漂う。


「時はきたり、さあ…最後の審判」


娘は見上げていた竜から、こちらへと視線を移して妖艶に微笑んだ。ドキリ、心が跳ねる。何が起こる?

突如、天は陰り辺りは暗くなる。ただ、娘だけは笑みを浮かべている。ノアシェーランドはそんな娘のそばにおり彼女の腰に腕を伸ばし叩かれる。

「痛い!リーはツンデレだね!」「場の空気を読みなさい」


『あの悲劇は見たくない。そなたもそうであろう?』

頭上より響いた古代語、古代語を学んだものには分かるその意味にぴくりと反応するのはほんの一握りの人間だけだった。

リヴァーティリオは、ハッとして頭上を見上げた。

そこには、娘と同じ色を持つ一匹の竜。


「天竜神が何故、ここに…」


その竜は、天竜様と呼ばれるこの世を統べる神である。神に逆らえば天罰が下るそう昔から信じられてはいるがその姿をみた者はこの世にいないはずだった。その竜は、あの悲劇の日から姿を消し二度と現れぬと思われていたかの竜は大きな翼を広げそこにいた。

『我が血流るる娘よ、そなたは何を望む?』


「………私は、美しき世界に戻ることを」

『破滅は始まっている、我には止めることはもうできない』

「…そう、始まったのね」


世界は、破滅を望んだ。醜き人の争いなど、耐えきれなかった。娘は悲しげに呟くとそっとノアシェーランドの衣服の裾をキュッと掴む。ノアシェーランドは、一瞬驚き娘を見て口を開く。

「リー、君はどうしてここに?俺は、リーの手助けの為にここにいる。そうだな、俺は世界が破滅してもいいとさえ思っている。リーとさえ居れれば、ね。」

娘は、目を丸くしてノアシェーランドの瞳を見据える。

口が震え、どうして?と紡いだ。

「俺は、リーが運命の相手なんだ。君の声を聴いた時から俺は君の虜なんだよ。何もいらない、たとえ弟だとしても、母、父だとしても、リーだけいれば」

「………親不孝ね、ノアは」「それでもいいよ、リーが俺のモノになってくれるのなら」

「…うん、ならノアは私のモノよ。初めて、私の世界が広がった瞬間をくれた人。世界は美しいことを教えてくれた人。ノアが教えてくれたこの美しい世界は失いたくない、だから…」


娘は、天竜を見据えると微笑みを浮かべた。

「私は、破滅を止めます」



******



天竜は、天を飛び回る。銀色の体躯がキラキラと煌めいた。美しい歌声が響き渡り、天は光に満ち溢れた。娘の唄は、世界に光を満ち溢れさせた。人々に希望を与え、世界の破滅をとめることが出来たのだ。


天竜から降り立った2人の男女、一人は蒼い髪に金色の瞳を持つ青年。一人は銀色の髪にエメラルド色の瞳を持つ娘。それを、見つめるのは金髪碧眼のリヴァーティリオと相手国の王子、そして兵士たちだ。


「俺たちは、一体何をしていたのだろう?」

ポツリ呟いたリヴァーティリオは突如、背から衝撃を受けて地に倒れ伏せた。

「地に這ったことなど、ないだろう?リヴ、お前は知らなさすぎた。この荒れ果てた地を見ろ、苦しみ喘ぐ民を見ろ、無意味な戦に疲れ果てる兵を見ろ、本当のお前を見ろ、お前は背けたんだ。本当から、事実から、すべてから。」

リヴァーティリオの背を蹴り倒したのは、ノアシェーランドだった。となりには、銀髪エメラルド瞳の娘。

「…ごめん、ごめん…兄さん…」



こうして、長き戦は終わりを告げた。


王宮へ久方ぶりに戻ったノアシェーランドは、王宮を見上げて久しぶりに帰ってきた。そう呟く。

「ノア?」

「リー、俺の父さんと母さんに会ってくれる?」

「……」

「ちょっと、逃げないでよ。さっきのは告白だと受け取ったんだけど!」

「大切な人、それだけ!」

「リーはツンデレだね!」


そんな兄と娘のやりとりを何とも言えない表情で見るリヴァーティリオ。彼はすごく居づらく、そわそわとする。ここは、彼の家だというのに。それも、彼のせいで戦が始まったも同然だということが理由だった。我に返った、漸く己の犯した罪に気づいた彼は、どうしようもない罪悪感に苛まれていた。


「の、ノアなの?ノアシェーランドなの?」

そう、ドレスを身にまとった女性が立ち上がり驚いた。

「やあ、母さん久しぶりだね」

あっけらかんとして言う彼に、母は少し困り顔であなたらしいわ。そう言う。

「リヴのバカがやらかしていることは、知ってた。いつか、気づくと思ってたんだけどね、ダメだった。とうとう世界破滅にまで追い込んでいたし」

いたたまれないリヴァーティリオは、ますます縮こまる。

「うむ、ノアシェーランドよ。我も止めることが出来なかった、故に我にも責務はある」

「そうだね、父さん。止めれただろうに、どうしようもないよ。」

それに驚いたのほ、娘だった。

「ノア!」

「ごめんね、リー。」

「まぁ!ノアシェーランド、その娘さんはどなた?」

「俺の大事な人!生涯を誓ったんだ、許してくれるよね?」

そう問いつつも、否定は認めないという空気が漂う。

「とっても、美しいわ。……銀髪なんて、この世界に居たのね…」

「うん、居るよ。初めて彼女を見たときは驚いた、そして運命だと思った」


娘は出来るだけ存在感を薄くしていたが、その美しさは目を見張るものだ。すぐに気づかれ、キラキラとした瞳でノアシェーランドの母は見てくる。それに、居心地の悪さを感じつつノアシェーランドの後ろに隠れていたがノアシェーランドは運命だとか語り出すものだから彼の腕を掴み抓る。

「イタッ!もう、リーは本当に照れ屋だね!」

娘は、彼はこんな人間だったのだろうか?と想いを馳せた。出会った頃はもっと冷静沈着で無表情だったのに今ではこんなに表情豊で王、つまりノアシェーランドの父は驚きを隠せないでいる。



「リヴァー様っ!ご帰還だと伺いましたわ!」

ドアを思いっきりに開け放ち入ってくる人間、それをジロリと邪魔者が入ってきたと見やるのは王と王妃だ。リヴァーティリオは目をそらし、反省中で彼女には目を向けようとせず、ノアシェーランドは興味がなさげ…全く興味は皆無でつらつらと娘のことを語る。娘はそんな話を止めさせるべくあれやこれやと攻撃を仕掛けるが鍛えてある身体には全く効かない。

「……わぁ!もしかして、ノア様ですか?!私、「あ?うるさい、邪魔をするな」

先ほどまでと打って変わって冷たい表情になると、そう吐き捨てるノアシェーランドに一瞬怯むもどんどんと近づいてくる彼女に不機嫌になるノアシェーランド。

リヴァーティリオに見向きもせず、彼女はノアシェーランドをうっとりとした表情で見つめる。リヴァーティリオよりも、整いすぎた顔とその珍しい王家の色、なによりも上に立つ人間がもつ雰囲気が彼ノアシェーランドは備わっており彼が戻って来た今、彼が王となる可能性しかないのだ。そう、彼女はリヴァーティリオ自身を愛していたのではないことをノアシェーランドは気づいた。ちらり、リヴァーティリオを見やると彼も我に返った今そこまで馬鹿ではなかったらしく……冷めた目つきで彼女を見ていた。


「ふん、貴様。我が弟に媚びを売りあまつさえ俺にまで媚びを売るか?」

そう、ノアシェーランドが言うと彼女の顔が一瞬強張る。

「ち、違います!わ、私は…」

「違う?ならなぜ、弟の方へ行かない?見向きさえもしていないではないか」

「…っ!そ、それは…」



「………ノア、取り込み中だけれど…私、席を外すわ」

異様な空気が流れる中、銀髪の娘はノアシェーランドにそう言う。

「え、待って。どこへ行くんだ?また俺を置いていくのか?」

「…え、付いて来るつもりなの?あなた、王族なのでしょう?しっかりと責務を果たしなさい、これまでの分まで」

ひらひらと、手を振り娘はそそくさと出て行く。唖然とする周囲の中、ただ一人あの娘だけは憎々し気に見ていた。


「とにかく、貴様のせいで戦争が起こったともいえる。貴様の処分は、我が弟が取り決める!以上!」

「え、兄上?!」

早口でそう言うと、ノアシェーランドはあの娘を追って行く。リヴァーティリオがその発言に意見する隙もなく。


「………ええと、ごめん。盲目的に君の優しさに溺れていたみたいだ、本当は愛してなどいなかったのに」

リヴァーティリオは正直に話す。今更思うこと、どうして彼女を愛しているなどと錯覚した?

彼女は般若のような顔をして、ギリッと歯を噛みしめているなどとは誰も知らない。



****


「リー、待って。」

「どうしているの?あなたはこの国の立て直しを手伝いなさい」

「なら、リーは?どこへ?」

「私は故郷へと帰り、傷ついた竜と共に暮らすわ」

「リーは、俺のモノなんだろう?ならどうして離れる」


娘はキョトンとして、どうしてと言いたげな表情を浮かべた。

「私は竜の民、竜の子孫だわ。人里は苦手よ」

「…なら、俺も君と君の故郷へと行く」

「うるさい、ノア。あなたきちんと自覚を持ちなさい。今まで王家の身分をほっぽりだし、あの弟さんにあなたの責務が周りこのような事態になったのではないの?だから、あなたのせいでもあるのよ」

そう娘に言われ、漸く気づいた彼は乾いた笑みを零す。

「ああ、本当だね。やっぱりリーには適わないや」

「あなたなら出来るはず、立て直すことが。簡単ではないけれど、あなたならね」


そう娘は言うと、どこからともなくあの天竜が現れて娘と共に去ってゆく。残されたノアシェーランドは、


「リー、なら俺の責務、立て直しができたら迎えに行ってもいいってことだろう?……それと貴様、俺のリーに何をしようとした?」

ノアシェーランドは振り向いて、そこに立つ女に冷たい表情を浮かべ言った。

「………な、なにもございません…」

「ほう、ならこのナイフは何だ?」

「こ、これは…!」

「リヴめ、逃がしたな。貴様、先程俺は処分を弟に任せると言ったが撤回だ俺が決める。……牢獄行きだ」

え?彼女がそうこぼしたのもつかの間、両側をガッと掴まれ見やると兵士2人が彼女の両側を掴んでいた。一歩、ほかの兵士が現れノアシェーランドに一礼する。

「連れて行け」

ハッと兵士が言うと、彼女は引きずられてゆく。

「いやよ、やめて!私はなにも悪くなんてないわ!」


「ふん、戯れ言を。……さてと、まずは何をしようか」

ノアシェーランドは、娘を迎えに行くための算段を浮かべ笑みを零した。



******



───あなたに会えたことで 愛することを知りました

  世界は色づいてゆく いつか叶う日が来ると願って


  本当は片時も傍にいて欲しくて 本音を隠して突き放した

  それがあなたの為なんだと 心に言い聞かせて


  あなたのことを愛しています 遠く離れていても

  あなたのことを想っています 手が届かなくても

  いつか会えると信じて


「へえ、嬉しいな。リー、そんなに俺のことが愛しい?」

「うるさい!……」

真っ赤な顔の娘に満面の笑みを浮かべたノアシェーランド。

娘は、涙を浮かべ彼が広げた手の中へと駆けてゆく。

「本当は、離れたくはなかったの!」


そうして、娘のその言葉に撃沈したノアシェーランドは娘と共に国へと帰り娘と婚姻を結んだ。

それは、終戦からたったの3ヶ月後という驚異的なスピードである。

「それにしても、早すぎよ」

「ああまず、立太はせずに王を頂戴したのがリーが去った翌日。その後、終戦の証を両国交わしてこれからは友好国とすることにしたのがその翌日。リヴの処分は、一週間の謹慎で終わったら俺と共に各地へ赴き、復興支援をさせて。色々王としての職務をこなしつつ、立ち直らせたよ。」


「リーは、また一段と竜を引き連れているね」

「あらそう?この子たちは私の友人でもあり家族でもあるから。今度は守ってあげないと」

「もう大丈夫だよ、竜を戦に巻き込まないと世界各国で契約を交わしてきてもある」

「それは、本当?!愛してるわ、ノア!」

「それは、なにより」


仲の良い国王夫妻は、世界の英雄として伝説となったのであった。


─終─


実は乙女ゲームのヒロインがやらかした結果の戦争である。転生ヒロインは、色々な攻略対象を手玉にとり一番金持ちであるリヴァーティリオエンドを迎えたがここは現実世界でそう簡単に事態は収集つかなかったのである。

転生ヒロインは、実はノアシェーランドが好みのタイプ。

リヴァーティリオのトラウマ回想シーンに出てくるノアシェーランドがお気に入りだった彼女は、突然帰ってきたノアシェーランドに心をときめかせ愛される娘を殺そうとしたがそそくさと帰られ挙げ句ノアシェーランドによって牢獄行きに。


ざまぁ小説が書きたかった結果、このような小説が完成しました。これはこれで結構気に入ってるのでよしとします。


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