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くねくね

作者: 羽生河四ノ

特に書くことないです。誤字脱字があったら悲しいです。くらいのものです。

 それをどう表したらいいのか?まずそれが私にはよくわからないんだけど、でも私は「くねくね」が好きだ。都市伝説という括りなのか?それとも単にお化けなのか?あるいは怪物なのか?西洋のビックフット的な扱いなのか?まずそれすらわからないんだけど、でもとにかく私は「くねくね」が好きだ。


 『くねくね』というものを知らない人は・・・まあGoogleとかで調べてください。


 おそらく、すぐに出てくるでしょうから。


 で、どうして自分が、どういう経緯で『くねくね』を好きになったのか?それについては定かではない。別に私がくねくねしているものが好きなわけではないし、くねくねしているものを学生時代の多感な時期に半ばトラウマ的なことで得て、それが今に至るまで忘れられなくなった、というわけでもない。子供の頃、私の母が風呂場でくねくねしていたわけでもないし、父が夜、前の部屋くねくねしていたわけでもない。でも私現在はその存在を知っており、そして少なくとも好いている。好意的な印象を持っている。


 恋とは違う、と思う。定かではないが、でも・・・、


 ところで、人間がくねくねを見ると途端に精神がおかしくなるらしい。そういう話をよく聞く。だからおそらく、くねくねっていうものは人間が見てはいけないものなのだろう。

 『人間が見てはいけないもの』

 小説などを読んでいると時たま、そういう表現に出くわすことがある・・・少なくとも私はもっと幼かった頃にそういう表現に出会った事があった。あったと思う。何の本かは忘れたけど。


 「見てはいけないもの」「考えてはいけないこと」「想像するだけで狂ってしまうこと」「それを思っただけで罪なこと」


 しかし、疑問だ。

 これは果たして、本当だろうか?

 そもそも、それが私には信じられない。


 見てはいけないもの。

 それを言うなら、私は小学校の頃見た「水中生物図鑑」のほうがよっぽど見てはいけないものであったような気がする。その図鑑はまず最初が「ヤツメウナギ」から始まるのだ。

 そのページでヤツメウナギがフナか何かわからない魚の腹に潜り込んでいた。そしてやつの尻尾が蠢いていた・・・。

 映画『エイリアン』は作り物であり、それは決して現実ではない。そう考えて『エイリアン』の映画を観た恐怖を緩和させていた私は、その時ヤツメウナギというものの存在に打ちのめされた。


 「地球にすらこんなのがいるんだったら、ああいうのが宇宙にいるのもあながち間違いでは無いのではないか・・・?」


 私のこの想像は突飛だったのだろうか?私はそうは思わない。でも確かに、私以外にも多くの人間があの「水中生物図鑑」を見ていた。小学校六年生の当時の私がいつ何時も観察していた限り、あれを見ても誰も私のように恐怖に震え、その後極端に口数少ない子になる感じにはなっていなかった。当時はそれが不思議で仕方なかった。あまつさえ「なんだこれ、見てみろよ!気持ちわりぃ!」と言って笑い合っている輩すらいた。サイコパスなんじゃないか?将来一家で無理心中とかするんじゃないか?人を殺してもなんとも思わないんじゃないか?と当時の私は彼らを見て奇異に思ったけど、でも現在は当時のそういうことに対しても自分自身程度は納得のいく説明ができるようにはなった。


 アレはおそらく、私だけが『見てはいけないもの』だったのだろうということだ。私以外の他人が『見てはいけないもの』ではなかった。あの時、あの図鑑のヤツメウナギの存在、あれが持つ恐怖は私にだけ作用したのだ。あの時あの小学校の中で、あの六年生の中でおそらく唯一、私だけ、私だけがあの「水中生物図鑑」を見てはいけなかったのだろう。

 

 そんなわけで、私は私が見てはいけないものをあの時、図鑑で一つ見た。

 でも別に、どうなったということはない。現に私は別になんともなっていない。まあ若干、私の精神は陰にこもったかもしれない。結果としてその年の冬、私は学校を一回風邪で休んだ。小学校六年間でたった一回だけ。その一回だけだ。おかげで六年間通算の皆勤賞が無くなった。でも、それくらいだ。それに今ではもっと休んでおけば良かったと思っている。社会に出た際、休まないといけない時に無理して来た奴を見て私はそう思った。奴は単に迷惑なだけだった。来ても結局働ける訳もなく、終始休んでいた。『死ねばいいのに』私は思った。そして私もそうなる可能性がある。そう思ったくらいだ。


 まあ、そんな訳で私は「見てはいけないもの」というものが世の中に存在する事、自体が疑問だ。

 それだったら、犬の遺体が草むらで毎日少しずつ腐敗していくあの光景だって見てはいけないものだったし、ブラックバスを釣りに行ったとき沼の真ん中に浮いていた人だって見てはいけないものであったはずだ。一人で森林浴に行って、そこで顔面を陥没させて死んでいた(後で聞くと、クマさんに襲われたらしい)ハイカーの人だって見てはいけないものだったはずだ。

 それに未成年だったのにAV見たのだって『見てはいけないもの』だったし。

 中学の頃、母の田舎から自転車で行ける距離にマンガ倉庫があったので、お盆のある日、そこに一人で自転車で行って、そんでそこで買った同人誌だって本当は『見てはいけないもの』だったはずだ。まあ最も、その帰り道に大雨が降ってきたので結局、同人誌は雨でグシャグシャにされてお釈迦になってしまって、見れなかったけど・・・。

 

 このように『見てはいけないもの』っていうのは、現状世界にも結構あると思う。

 

 それなのに・・・私がくねくねを好きな理由はなんだろう?

 よくわからない。

 もしかしたらジェイソンを「大したこと無い」って思っていて、いざ実際それに会ってみると奇声を上げて逃げ惑い、最後にはあっけなく殺されるやつに心情的には似ているのかもしれない。

 信じることができなくてそれを馬鹿にするやつほど、早く死ぬ。

 バカは死ななきゃ治らない。

 私もその可能性が高い。

 私も『くねくね』のことを馬鹿にしているのかもしれない。

 そんなものはありえない、と。

 だから、それを好いているのかもしれない。

 失礼なことに。


 でも・・・、

 その結論には未だ、違和感が有る。

 

 怖いから信じていない。

 怖いから面白くないという。

 怖いから虚勢を張る。

 怖いから大きな声を出す。

 怖いから己を不必要にアピールしている。

 

 私は、そうなんだろうか・・・?


 そもそも、 

 くねくねに対して私が何をした?

 それについて詳しいことを調べ、ネットかなんかでその存在をアピールしたか?

 2ちゃんねるとかでその板を作ったか?

 ツイッターとかで議論をしたか?

 そんで、喧嘩としかしたか?

 くねくねについてのことで炎上とかしたのか?

 ニコニコ動画でなんかくねくねのことをアップしたりしたのか?

 Facebookとかで何か情報を求めたのか?

 Wikipediaに何かくねくねのことを書き込んだりしたのか?


 ・・・、


 何もしていない。

 私はただ、その存在を好いているだけだ。


 どうしてかもわからないまま。


 何一つわからないまま・・・。




 今年の初夏、私は長年のガラケー生活からスマホ生活に移行した。

 私が自分の携帯をスマホにして一番面白いと思ったのはやはりアプリケーションである。

 外見、メーカー、そしてアプリケーションによって更なる個性化を図っているような気がした。


 そこで私はある日、一つのアプリをインストールした。


 怖い話のアプリだ。


 怖いことが大の苦手である私だけど、でも仕方ない。怖いから見たいということも有る。私は生きていて時々、後悔したい時があるのだ。あえて観て後悔したいのだ。いざ後悔しないといけない時に上手く後悔できないっていうことがある可能性もある。それを防がないといけない。それに単に後悔したい時もある。後悔はした方がいい。後悔しないと人間じゃない。んで、そのアプリを見ると「心臓の弱い方は・・・」とか「閲覧注意」とか「自己責任で」とかそういうタグがついているのがあったりする。


 私は怖いものが苦手だし、臆病だし、心臓も強いとは言い難いのだけど、でもそういうのも構わず観る。


 差別はいけない。そういうことを学生時代に『どうとく』とかで教わっていたし、実際まあ・・・そう思うからだ。ひとえに教育の賜物だ。

 

 で、やはり、


 怖 い。


 眠れなくなる。

 

 寝ても怖い夢とかも見る。


 おしっこだってしたはずなのに出る。

 

 体がだるい。

 

 肩も重くなる。


 でも、死なない。


 不思議と、死んだことはない。


 不思議と。



 で、


 そのアプリを見ている中で、私にとってとても興味深い、タイトルのものがあった。


 その名も「くねくね」。


 そのアプリによるとくねくねというのは「怪奇生物・化け物」という括りであった。


 もちろん私は一も二もなくその話を見た。


 『くねくね』の話自体はありふれたものであったが、でも私にとって興味深いのは冒頭、書き出しの部分であった。


 その話は「小さい頃、夏休み、秋田の田んぼの多い母の実家で」で始まっていた。


 これは僥倖ではないのか?


 私は思った。


 なにせ、


 私は本籍地は秋田だ。


 私の住民票には一生その記載があるのだ。

 

 そして、


 母の実家は田んぼの多いところだ。


 冬になるとなまはげも出る。


 私は思った。


 くねくねは夏の秋田に出るのか?


 子供の頃、私が育ったあの秋田県に?


 私は、その話を読んですぐ帰省する準備を始めた。お盆で休みだったのも幸いした。


 でも、


 どうしようと思ったのだろう?


 私はどうしようと思ったのだろう?

 

 見るつもりなのか?


 見たら狂うのに?


 私自身その時の私のことを一切理解できなかったけど、でも私は帰省することにした。


  

 

 

 秋田駅について、私は早速レンタカーを借りた。そして母の実家の方面へと車を走らせた。ペーパーゴールドだったので、運転には自信は一切なかったが、オートマだったのでなんとかなりそうであった。まず、エンストしない。車も関東程多くなかったし、道路もなるべく広い道を選んだ。あと、信号も赤だった場合はちゃんと止まったのも良かったのだろうと思う。ハンドルをちゃんと両手で持ったのも良かったのではないかと思う。


 最初は『一度実家に帰って、それから・・・』と思っていたが、新幹線途中で我慢ができなくなってしまったのでこんなことになってしまっていた。


 しかし、考えてみるとわざわざ実家に帰って「くねくねを見たいから帰ってきたんだ!」等と妄言を吐いたら、いくらなんでもここまで育ててくれた両親は悲しむだろうし(実家に毎月お金を入れているため)、それにくねくねを見たら頭がおかしくなって死ぬ可能性だってあるわけだし、なんで途中から、それをわざわざ告げる必要もあるまいと考え直した。


それに、運転中にくねくねを見て、それで間髪入れずに私がおかしくなってしまってハンドルが変な方向に向いて、それで関係ない人が死ぬっていうことを避けないといけない、というくらいの良心とか善意とか感情とかは私にもあった。かろうじて。


 なので、私は車を御所野のイオンに停めて、そこから歩いて母の実家の辺まで行こうという計画を考えていた。我ながら名案だと思った。


 その日の秋田はすごく天気が良かった。

 気温も関東圏ほど暑くなく、私は改めて『ああ・・・地元に帰ってきたんだな・・・』ということを思った。


 御所野のイオンの中のダイソーで「望遠鏡」とあと細々したものを買った。

 イオンについた時はちょうど昼時であり、私自身腹もすいていたが、でも何も食べずに出た。見て狂ってしまうのであればもう関係ないじゃないか?と思われるかもしれいが、でもそれを見た瞬間、おゲロをお戻しになってしまう可能性もあるわけだし、どこぞかしこぞ場所なんか関係なしに吐くのはマナー的に良くないだろう?そういう判断だった。どこで吐いても気にしない東京ピープルではないのだから・・・。しかし、そういう思考は相変わらず田舎者だな。私は私自身のその判断にに対して少し情けなく思った。

 あと、イオンがお盆でどこもかしこも混みまくっていたので、それで嫌気が差したというのもある。


 そんな訳で、外に出て歩いて御所野イオンの坂を下っていると、このあたりは昔と変わらず、少しずつ田んぼ群が見えてくる。そこにいるのだ。くねくねがいるのだ。そう思うと私はこう・・・柄にもなくドキドキした。 

 それが恐怖によるドキドキなのか?それとも恋によるドキドキなのか?それはもはや私にしたらどちらでも構わない。

 イオンの中に入っている『ビレッジヴァンガード』ですら扱っていないようなものに今自分が近づいている。それがたまらなく私を高揚させた。


 それに、


 久々に帰った地元の風景は美しかった。


 こんなところで私は育ったのか。そう思うと子供の頃の私はなんと無為な生き方をしていたんだろうな。そう思った。マンガ倉庫で同人誌をドキドキしながら買っていた自分が恥ずかしくなった。


 とはいえ、実家に帰ろうとは思わない。そして、それはおそらくこの景色が美しいからだろうと思う。

 

 例え、どんなに美しいものであっても、それを三日も見続けていたら嫌気がさしてくる。


 得てして、そういうものだから。


 この風景に耐えられる人だけがここに残ったのだ。


 私は軟弱モノだ。これに耐えられなくて都会に逃げたのだから。


 

 

 あたり一面に田んぼが広がる荒涼としたところに来ると、遠くに何かが見えた。

 遠目でよくわからなかったが、でもそれが白っぽい姿をしているのは視力の悪い私でもわかった。そしてそれはクネクネと蠢いていた。


 マジでか!私は思った。正直あっけなかったくらいだ。


 ダイソーの袋から買ったばかりの双眼鏡を取り出す。


 そしてその封を破いている間に両親のことを思った。


 「お父さんお母さん、ごめんなさい。私は悪い子です。でもこの欲求には勝てません」


 それ以外にも、

 

 「うちって、真言宗だっけ?それとも浄土宗?あれ?浄土真宗?」


 と考えた。


 


 私は、ドキドキしながら、双眼鏡を覗いた。最初に空が見えた。そして次に遠くの建物を見た。山も見えた。どれも綺麗だった。堤防も見えた。天気も相変わらず良かった。


 そして・・・、


 白い・・・くねくねしたものを・・・、


 見た・・・、











 ・・・、






 

 


 あ、あれ?


 私は双眼鏡から目を離した。


 そして自分自身のことを確認した。

 

 違和感がなかった。


 一切・・・。


 あれ?


 狂っていない・・・。


 あれ?


 え?


 なんで・・・?

 

 もう一度、双眼鏡を覗く、くねくねがいる。確かにいる。私は見ている。


 あれ?


 双眼鏡を外す。


 狂っていない・・・?


 あれ?


 なんで?


 なした!?


 なしたや!?


 こえだば話と違うでねが!?


 なした!?


 なしたっ!


 私はもう一度双眼鏡を覗いた。


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 ・・・そのとき、ふと、私の中に既視感が発生した。


 そしてある記憶が一つ私の中に出てきた。中学の頃、マンガ倉庫まで自転車を走らせ、そしてそこでドキドキしながら買った同人誌、しかし帰り道でひどい雨に降られ、もはや、どうにもならない状態になってしまっていた。そして私は泣いた「せっかく心臓が飛び出るほどドキドキして買った同人誌なのに・・・高い金払って買った同人誌なのに、親とかにも内緒だったのに・・・」

そう言って泣いた。泣きながらも自転車をこぎ続けた。そうする意外に術がなかった。少なくとも当時、携帯も持っていない臆病で頭の悪い私にはそれ以外の術がなかった。それにそうしなければ、母の実家にも帰れなかった。帰れなかったらどうなる?大変なことになるではないか?色々な大人に迷惑をかけ、その挙句、私はこっぴどく怒られるだろう。それに同人誌を買ったこともバレてしまうだろう。そうすれば、その後も私は一生、生き恥を晒して生きていかなくてはいけなくなるだろう。


 その恐怖。


 私は、まだ子供だった。しかし、子供には子供なりに世界に対するルールがある。それに、やっていはいけないことをわかっていてそのときそれをやっていたのだから尚更だ。

 だから私はどうしても帰らないといけなかった。あるいは死にたかった。死んだら許してもらえるかも知れないと思った。幸い、道に接している用水路には十分なほど水が流れていた。雨で増水していたのだから当然だ。


 雨の中、死にたい気持ちで自転車をこいでいる私、脆弱な存在だ。とても脆弱だ。だから、もし少し大きな石が道に転がっていたら?もしそれに自転車のタイヤが乗ってしまったら?そしてもし自転車が転倒して私自身横の用水路に落ちたら?そして死んだら?


 許してもらえるかも知れない。


 それに死んだ人の悪口は言わないという美点が日本にはあるんでしょ?


 だったら・・・、


 

 私が行く先にはちょうどおあつらえ向きに少し大きめの石が落ちていた。


 そして私が想像したとおり、それに自転車の前輪が接触すると、私の体はその瞬間大きくはねた。スピードを出して走っていのが良かったのだろう。それに前も見えないほどの大雨、それも幸いしたのかもしれない。


 しかし、


 私の体は、想像したように用水路には落なかった。ただ、田んぼに叩きつけられた。


 一瞬何もわからなくなった。

 

 でも、


 生きていた。


 そして、


 同人誌の入った袋だけが用水路に流れていってしまった。


 私の体は、田んぼの土に強く打ち付けられたが、


 でも死んではいなかった。


 雨が降っていた。


 やがて私が絶望して起き上がると、


 そこに、


 白いくねくねしたものがいた。


 私は近くでそれを見た。


 見た。


 確かに。


 くねくねしたものを見た。


 私はその瞬間、


 思った。


 ・・・狂えば・・・狂えば・・・許してくれるかも知れない・・・。


 私は、



























 


 そうか・・・私は既に・・・狂ってしまっているのか・・・。

 私は双眼鏡を手にしたまま、そのことを思い出した。

 しかし相変わらず、遠くで白いものがくねくねしていた。

 

 私は、


 残念だった。


 とても残念だった。



 それに試しに、


 「何見てんだ?」

 「私も見るー」


 そう言って私に近づいてきた子供(おそらくこの近くの子供、あるいは自分と同じように帰省して来た家の子供)に双眼鏡を渡して見せてみると、二人共、


 「あアあアあアあアあアあア・・・」

 とか、

 「いぎいギイぎいぎイぎいギいギいぎイぎ・・・」

 とか、

 言い出したので、

 間違いないようだった。

 

 私は既に狂ってしまっているのだ。

 

 現にその子供たちが狂ってしまったのを見ても別に驚かなかった。


 私は立ち上がり男の子の方の首に双眼鏡をかけて、その場を離れた。くねくねはまだ、いた。遠くでくねくねとしていた。


 

 

 田んぼ群の近くの少し高台になったところに私の母の母の墓がある。


 私はそこに行き墓に線香を備えた。さっきダイソーで買った物だ。


 線香に火を点け、私は一人、そこで祈った。


 お盆だったが、私しかそこにはいなかった。


 そして、


 私はイオンに向けて歩き出した。


 高台から降りるときも、


 くねくねはまだ遠くに見えた。


 そして、


 さっきの子供たちもくねくねとしていた。


 でも、


 そういう全てをこの風景は受け入れている。


 そう思った。


 その証拠に、私から見るあたりの景色はとても美しかった。  


 なので、


 私はまた、こちらに帰る気が一切無くなった。

 

 

 


 

 

口裂け女とかほど流行らないあなたが私は好きです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] くねくねって何だろうっ?て、予備知識なしで読みはじめたのが逆に良かったのかもしれません。実態のつかめないモノが、徐々に明かされていく正体みたいなのが良いですね。 秋田の片田舎の風情。中学…
2019/11/02 01:47 退会済み
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