結婚記念日
はじめに
或る男の生涯(23~83)を描く予定です。
どうして人は生きるのかを探求しながら遠大な目的に向かって生きる
様々な障害を如何に乗り切って来たか、食うための手段としてやっては
いけない手段も手に出して生きる様を描き、これから生きる人に少しで
もお役に立てればいいと云う思いで書くつもりです。
「夫婦相和し」
第一話
結婚記念日
謙次とひさが夫婦となった日は、予報ではもうすぐ雨模様だとNHKが
伝えていた昭和28年5月31日だった。
横江家の長男であるのに関わらず加賀家の養子に迎えられるに到った理
由はただ一言「先妻の子」はいらんので後妻の子が跡取りを称していたか
らで、財産と云う程の財産もないので本人も強いて後を取る必要がなかっ
たのが理由だった。
立たされた加賀家の裏土間は暗かった、伴う「新原の小母さん」が
「あら丁度お昼だねえ、まずお水頂戴」
昼食に、ひさを始めお婆とお爺の三人が素うどんに醤油をぶっかけただ
けの昼食を、つるつる食べていたが気配に三人は箸を置く。
「あららよく来たね、どおう、食べんかね」
「良いよ私は、謙次さんどうぞ」
「いや私も今は結構です」
「ひさ、早くお茶でも」
「はい、只今」
「新原の、今日は一寸忙しくてお昼が」
「あれ、忙しちゃったんだね、でもこちらは時間道理に・・・」
と断片の話だったので聞いている謙次には意味不明だった。
「12時半って言ったのに」
「御免なさい、そう聞いて判ってはいたんだけどね」
謙次の方に何度も頭を下げて云ったのはこの家の女主人。
「荷物は?」
「いいえこれだけです」
と謙次は云いながら柳梱を出した、これは新原の小母の息子
良太が自転車で運び込んで着たものでただ一つの荷物だった。
その一つの梱を見てふと灌漑が必然的に謙次に湧く。
今日からこの家の男の一人として生活をともにする者4人の顔が揃い、
何故か息苦しさを肌で感じた謙次は
「もうすぐ着かえますのでそこえ置いておいて下さい」
ちゃぶ台の片点けが終わったひさは云われた梱を大事に扱い
「今日は暑い、暑い」
を連発しているオオ太りの新原の小母を労わってうちわで煽ぐ、
「なんて暑いんだろうね今日は、まだ5月と云うのに」
「梅雨にはいるのかね、蒸し暑い」
と婆がおしぼりと茶を勧める。
この家の家庭事情は知る限り事前に知らされていたので「来た」と云う
灌漑はあったが何故か胸の高まりが沈む事はなかった。
この作品はノンフイクションです、登場人物、場所、団体
など事実とは一切関係ありません。