◆浸入◆
「それじゃあ行きます」
仁とゼロはあれから二日程滞在して、やっと次の場所に向かうことにした。
「ゼロ様、仁さん、また来て下さいね」
カルナとウィナが少し泣きそうな顔をしている。
「あぁ。また来る 」
「ダンさんありがとうございました」
仁はダンにお辞儀し、村人達に見送られながら二人は次の場所目指して森に入っていった。
「それで次はどこに行くのだ?」
「この森を抜けて少し歩くと、ラリム・アルディア王国ってとこがあるみたいなんです。次はそこに行こうかと」
ダンから王国の話を聞き、マーサ村出たらすぐ行こうと決めていた。王国の姫様はとんでもなく美人らしいし楽しみだ。
「何をニヤけているんだ?」
「な、なんでもないです!」
そんな感じで魔物と出くわす事もなく、数時間程歩いて森を抜けた。
「はぁ……やっと抜けた…………おぉ!」
森を抜けると、まるでゲームのようなかなり立派な門が見えた。門には行列が出来ており、皆他のルートから来て、入るための受付をしているようだ。
「人間だけじゃないな」
「…………あ、尻尾生えてる人もけっこういますね」
ラリム・アルディア王国には様々な種族が出入りしており、種族間の差別などは無いように思えた。
「さて、我々も行くか」
行列に並ぼうと前を歩くゼロを仁が全力で止めた。
「ま、待ってください!このまま行っても絶対通してくれませんよ」
「何故だ?」
「マーサ村ではなんとかなりましたが、王国となればゼロ様みたいに普通じゃない人は、王国にとって危険かもしれないと怪しまれますよ!」
「まぁなんとかなるだろ」
ゼロはそう言い切り、行列に向かって歩き出した。
「マジ…………もういっか」
仁も諦めゼロの後を追って行った。
最後尾には、猫耳をした女の子が大量の野菜らしきものを持って自分の番を待っていた。
猫耳可愛いなと仁が見ていると、視線に気付いたのか振り向き仁に軽く会釈。そして、ゼロを見て持っていた野菜を見事に全部落とした。
「あ、この人はその………危険じゃないよ!?とてもいい人だからさ」
どうにかして誤魔化そうとするが、猫耳少女は口を大きく開けてゼロを呆然と見ている。
「なんだ獣人の娘よ」
ゼロに声をかけられ我に返ったのか、顔を真っ赤にしながらあたふたしていた。
「あ、き、綺麗だなと思って……ごめんなさい!」
猫耳少女は地面に頭が付きそうな勢いで頭を下げた。
綺麗か……たしかに怖いっていうより綺麗だよな。仁も改めてゼロを見ると顔立ちから何まで美の塊のようだ。イケメン…羨ましい。イケメンでも不細工でもない自分が情けなくなった。
「綺麗か……怖くないのか?」
ゼロは四枚の翼を少し動かした。
「怖くないです!!怖いというより美しさの方が勝ってます!」
猫耳少女が大声で騒ぐものだから、他の人達も後ろを振り向き皆同じく驚愕した。
「そうなのか。まぁよく分からんな」
ゼロはどうでもよさそうに空を見上げる。
「俺は仁って言うんだけど、この行列って何時間待ち?」
「私はアルシェです。四時間程は待ちますね」
「そ、そんなに……」
仁は力尽きその場に座り込んだ。
「王国には出稼ぎとか、学園に入るためとか色々な理由の人達が来ますからね。私も出稼ぎです………ってあれ?」
持っていたはずの野菜が地面に落ちているのに気付き、慌てて拾うのを仁も手伝った。
「仁さんありがとうございます」
「いや、大丈夫」
野菜を全て拾い、ゼロは何してるのかと振り向くとずっと空を見上げていた。
「そちらの方は………」
アルシェはゼロをチラチラ見ながら言う。
「あー、ゼロ様だよ」
「ゼロ様ですか……人間では無いですよね?」
「うん……そうだね」
すると行列の先の方から兵士が五人歩いてきた。そしてゼロの前に立つと先頭の兵士が口を開けた。
「お、おい」
若干震えながらゼロに声をかけるが、何故か空をボーッと見上げている。
「ゼロ様!!」
仁に言われ我に返ったのか兵士達の方を向いた。
「なんだお前達は」
「お、お前が何なんだ!何者だ!」
どうやら行列の人達が後ろを見ているから、何事かと兵士達が来たようだ。
「我は我だ。それ以外のなんでもない」
「この王国に来た目的はなんだ!」
目的を聞かれゼロは仁を見た。
「え…あ、目的はですね!か、観光ですよ!」
「観光だと?……お前はそこの奴の連れか」
「そうです!」
「そこの娘は?」
兵士が顎でアルシェを指した。
「この子はなんも関係ありません!」
アルシェが何か言おうとしたがそれを止める。
「ならお前達二人は王国に入れる事は出来ない。怪しい奴を入れるわけにはいかん」
兵士達は武器を構え戦闘体制をとった。
「マジかよ」
仁も魔法を使う体制をとろうとすると、後ろから手をゼロに捕まれた。
「ゼロ様!?」
「どうやら我々は正面から入れないようだ」
そう言うと、四枚の翼を動かし空中に浮かんだ。
「どこに行くきだ!」
兵士が叫ぶがお構い無しにどんどん高度を上げていく。
「高い高い高い!!」
「行くぞ」
ゼロは悲鳴をあげる仁と共に王国に向け飛んでいった。
「やっぱ綺麗…」
アルシェがそう呟くと、いつの間にか見とれてた兵士達も我に返り大慌てで王国内に戻っていった。