◆マーサ村~ゼロ~◆
「少々疲れるな…」
村人が酒を注ぎ飲み干す。するとまた別の村人が来て酒を注ぎ飲み干す。これをかれこれ一時間は続けていた。
いつまで続くのかと思っていると、次は酒を持った男ではなく、二人の女の子がやってきた。
「盗賊に捕まっていた娘か」
「う、うん!!た、助けてくれてありがとう!」
盗賊に捕まっていた方の女の子がゼロにお礼を言う。そしてもう一人の女の子が口を開ける。
「わ、私は姉のカルナです。妹のウィナを助けていただきありがとうございました」
カルナの方は深々とお辞儀をして顔を上げた。
「さっきの奴等が気に入らなかったから始末しただけだ」
ゼロにとってさっきの盗賊を殺すことは蟻を潰すくらい簡単なことで、そこまで感謝されることではないと思っている。
「はい!……これ助けてくれたお礼!」
ウィナは手に持っていた花飾りをゼロに渡した。
「うむ……これは…どうするのだ?」
「これはね、頭に飾るんだよ」
ウィナはゼロから花飾りを受けとると、ゼロの頭に飾ろうとするが角が邪魔で上手くかからない。
「んーーーっ」
背伸びして必死にかけようとする姿はとても可愛かった。
「どうやらかからないようだな……よし」
ゼロはウィナから花飾りを受けとると、少し離れるよう二人に言った。
「ーーーー牢魔の箱」
ゼロがそう言うと、目の前に真っ黒の箱が出現した。
「真っ黒の箱だーー」
「これは……?」
カルナは不思議そうに箱を見つめ、ウィナが箱に触ろうとするのをゼロが止めた。
「この箱に触れないほうがいいぞ?食われるからな」
「「!!!!」」
二人は少しずつ動き、ゼロの後ろに隠れた。
「まぁ我がいるときは安全だろう。ーーーー開け」
すると箱がギィーッと音をたてながらゆっくり開く。たしかに箱には鋭い牙が何本も生えていて、それを見た二人は「うわっ」と声をあげた。
「この箱に入れて置けば安全だ。我以外のものが開けようとすれば、箱に食われるからな」
ゼロが箱の中に花飾りを入れると、箱はゆっくり閉まり消えていった。
「あんな恐ろしい箱初めて見ました…」
カルナの顔はまだひきつっている。
「あの中は時が止まっているから、何か大事な物をしまうにはピッタリだろう」
二人に牢魔の箱を一つあげようとしたら、全速力で首を横に振ったので止めといた。
「花飾りをくれたことを感謝しよう」
「ぜ、ゼロ様……」
カルナは神様がこんないい人で良かったと心の中で感謝した。
「ゼロ様って明日はどうするの?」
「明日?…………うむ、何もしないと思うが」
「なら明日一緒に森の奥に行こう!」
それを聞いたカルナが目を大きく開いてウィナの口を手で閉じた。
「も、申し訳ありません!助けていただいたのにこんなわがままな事を…」
「んーーーー」
ウィナは口を閉じられてバタバタ暴れている。
「森か………いいんじゃないか?」
「え?」
思いもしない言葉にウィナの口から手を離した。
「我も見てみたいしな」
「やったーーー!!じゃ、私と二人で行こうねゼロ様!」
「あぁ」
ウィナは嬉しそうに何度飛び跳ねている。
「な、なら私も……」
「ん?」
「私も行きたいです!!」
思わず大きな声を出してしまい顔が真っ赤になっている。
「よし、なら明日の朝行くか」
「は、はい!それじゃ明日の朝、この広場で待ってます」
二人と約束し宴会もようやく終わった。そして仁と合流し、どうやら明日の朝仁も行く場所があるらしいので二人は別行動をとることにした。
◆◆◆◆◆◆◆
ーーーーーーー翌朝。
広場で二人と合流し、早速森に向かった。森に入って最初は二人も鼻歌混じりに歩いていたが、奥に進むにつれて雰囲気は暗くなり、二人ともゼロの両手にしがみついていた。
「こんなとこまで初めて来ました……」
「こ、怖いよ…」
言い出しっぺのウィナは泣きそうになっている。
「我がいるから安心しろ」
「は、はい…」
それでも幼い頃から森の奥は危ないと言われ続けていたので、恐怖はすぐに無くならない。すると奥の方から物凄い速さで来る何かを感じた。
「何か来るな」
「もしかして……魔物?」
すると三人の目の前に二つ首の巨大な狼が現れた。
「「きゃぁぁぁ!!」」
二人はゼロに抱き付きブルブル震えている。
「グルルルル…………」
「我とやるのか?」
ゼロの言葉に狼は少し後退りした。
「我の言うことを聞くなら生かしてやろう……聞かないなら」
木々がざわめき、森が恐怖しているようにも感じた。
「………クゥン」
狼もゼロとの力の差が分かったのか、小さくうずくまった。
「よし」
それから数分後。二人は狼の上に乗り先程怯えていたのが信じられないくらい楽しんでいた。
「高いねーーー!!」
「狼さんの毛気持ちいい」
最初は嫌がっていたが、狼も馴れたのか二人と今では仲良くなっているみたいだ。
「これも人間の力か」
ゼロは妙に納得した。
どうやら狼はこの森の主みたいで、魔物が襲ってくることは無かった。
日も暮れて、三人が森の入り口まで戻ると、心配したのか二人の母親と数人の村人が帰りを待っていた。
「ま、魔物だぁ!!!」
狼を見た村人が逃げようとするのをカルナが慌てて止めた。母親も驚いていたが、ゼロがいるので大丈夫だろうと二人を抱き締め先に家に帰っていった。
「ゼロ様ありがとうございました」
「とっても楽しかったぁ!ありがとー!」
ウィナがゼロに抱き付く。
「あ、あぁ……気にするな」
ゼロが抱き付かれて戸惑っていると、それを見てカルナも抱き付いた。
「お、おい?」
「神様がゼロ様で良かったです……」
その時ゼロは不思議な感覚に包まれていた。胸の奥から暖かくなっていくような、よく分からない感覚だ。だが悪くない。
二人はゼロから離れると、狼にも抱き付き別れを言って家に帰っていった。
狼もなんだか照れたように遠吠えをしながら森に帰っていく。
「さて、我も帰るか」
仁の待つ宿にゼロも向かった。