◆マーサ村~仁~◆
ーーーーーーーはぁ。
俺空気になってるな。目の前で行われているゼロを歓迎する宴会を隅っこの方で水を飲みながら眺めていた。ゼロは村人の対応に困っているようで、見てて少し面白かった。
「あ、ここの水美味い」
一人寂しく飲んでいると、村長のダンが酒を持ちながら隣に来た。
「あまり楽しそうじゃないな。えーっと……」
「仁です、神谷仁」
「そうだ仁だ!すまんすまん忘れてた。それにしても珍しい名前だな」
「そうですか?」
忘れるって酷いな……というかさっきは俺のこと仁様って言ってたのに、この態度の変わりようはなんなんだ。
「ところで……仁はどうしてゼロ様と旅を」
ダンは、どう見ても普通の少年にしか見えない俺と、神であるゼロが何故共に旅をしているのか気になって仕方がないようだった。
「それにその黒髪……」
ダンは不思議な物を見るような顔で見ている。
「居ないことは無いが珍しいな」
いや、居るんかい!!
内心、俺はダンにビシッと突っ込みをかました。
「そうなんですか…」
「それで話は戻るが…」
ゼロが神様だって向こうも知ってるし、別の世界から来たって言っても信じるだろ。そして俺はダンにこの世界に来た経緯を話した。
「………なるほど。普通なら信じないが…ゼロ様がいることだし不可能も可能なんだろう」
思った通りダンは信じてくれた。
「それで魔法はどうやって学ぶつもりだ?」
「それは………」
一番大事なそこを考えてなかった。どうやって魔法を練習すればいいんだ。
「なんだったら俺が教えてやろうか?」
「え?ダンさん魔法使えるんですか?」
「おぅよ!《炎玉/ファイア-ボール》」
するとダンの手のひらに炎の玉が現れた。
「これって盗賊達もやってたやつですね……やっぱ凄いな」
炎玉をまじまじと見つめた。
「これは攻撃魔法の基本だな。魔法には《攻撃魔法・防御魔法・回復魔法》などがある。さらに《炎・雷・水・風・地・闇・光》の七つあって、使う魔法により《下級・中級・上級・最上級・超級》のランクがある。上級魔法を使えると魔法使いとしてはまぁ立派だろう。ちなみに下級魔法は無詠唱で使えるが、召喚魔法や中級魔法からは詠唱が必要になる。無詠唱でやるのは相当な実力者しかいない。そして超級クラスは世界に数人しか使えない魔法だ。伝説には《神級》と呼ばれるレベルの魔法があるが…これはあくまで伝説だ。ちなみに炎玉は炎属性の下級攻撃魔法。回復魔法や一部の特殊な魔法、身体強化魔法などは無属性魔法になるが」
「なんだか難しそうですね…」
覚えることが沢山ありそうで頭が痛くなる。
「たしかにややこしいが、この世界は魔法だけじゃない。剣の腕を磨く者もいれば、己の拳のみで冒険するものもいる。その者達も魔法は使うが、大体は身体強化の魔法しか使わない」
「なるほど……ダンさんは炎属性以外に使えるんですか?」
「いや、俺は炎属性だけだ。基本一人の人間が使える属性は一つか二つだな。稀に三つ四つ使える奴もいるが……例えば水と地属性を扱える者がオリジナルで氷の魔法を使うこともある」
「それも可能なんですか……なら闇と光を組み合わせることも出来るんですか?」
「いや…まずこの二つの属性を使う者は少ないからな。ましてや一人の人間が闇と光を扱うなど考えられないだろう……ゼロ様が盗賊達を始末した時に使った技は光の魔法のように見えたが…」
「……たぶん違うと思います」
「そうなのか、どおりで魔力が感じられなかったわけだ…あれは魔法だったら最上級レベルろうな…」
「あの人は神ですからね…」
「たしかに…やはり神は偉大だ。我々のような小さな村も救ってくださるとは」
……ただ邪魔だったから殺しただけだとおもうけど。
「少し話がずれたが…それでは仁が何属性を扱えるのか調べてみるか」
「それを待ってました!!」
「それでは少し待っててくれ」
ダンは一旦自分の家に帰り、数分後、透明な玉を持ってきた。
「これは何ですか?」
「これは自分が何属性か調べる《魔法玉》ってやつだ。その玉に手を当て魔力を込める」
ダンがお手本として魔法玉に魔力を込めた。すると透明だった玉が真っ赤に染まる。
「色が変わりましたね」
「俺は炎属性だから赤色。雷=黄・水=青・風=緑・地=茶・光=金・闇=黒に染まる。二属性持ちの奴等は半々に色が分かれるが」
「分かりました!……やってみてもいいですか?」
「あぁ、それじゃ俺がやったようにやってみてくれ。魔力の込め方は、魔法玉に力を入れる感じだ」
ダンが手を離すと、魔法玉は透明に戻る。
ーーーーー少し緊張するな。そして仁が手を当て魔力を込めた。
「!!!…………」
「おぉ!これは……」
魔法玉は綺麗な黄金色に輝いていた。
「まさか光属性とはな」
「はい。自分でも驚いてます」
光属性とは意外過ぎる。俺は無難に炎か水かと思っていたんだが……
「これはいいことだぞ?光の魔法を使えるのはラッキーだ」
「あまり使える人がいないって言ってましたからね」
「その通り。それじゃ明日の朝俺の家に来い。魔法の使い方を教えてやる」
「ホントですか!?お願いします!!」
「あぁ、今日は村の宿に泊まるといい。あまり豪華じゃないがもちろんタダだ。だけどゼロ様はどうしようか……」
「大丈夫ですよ!ゼロさんも俺と同じ宿でいいと思います」
「そうか!それは良かった!…なんせこの村は貧しくてな…」
「タダで宿が借りれるだけで満足です」
「そう言ってくれて助かるよ。宿までは案内するから」
宴会も終わりをむかえ、ゼロと合流し宿まで案内してもらった。
「ゼロ様申し訳ありません!!このような宿しか用意できなくて」
「我はここでも別によい。あんまり気にするな」
「ありがとうございます!!…それでは」
ダンは二人にお辞儀し、家に帰っていった。宿に入り、おばちゃんに部屋の鍵を借りる。
「なんだ普通の部屋じゃん」
少し汚いイメージをしていたが、案外まともな部屋だった。
「我は別に睡眠をとらなくていいけどな」
「まぁせっかくなんですからお言葉に甘えて一晩泊まりましょうよ」
「そうするか……それで明日はどうする?」
「実は…すみませんがもう一日だけこの村にいていいですか?ダンさんが魔法の使い方を教えてくれるみたいなんで」
「そうなのか…実は我も明日やることがあってな。ちょうど良い」
「そうなんですか?」
少し驚いたが、その方が都合が良い。
「それじゃ俺は明日の為に寝ますね」
「あぁ」
「それじゃ、おやすみなさい」
◆◆◆◆◆◆◆◆
翌日、朝。
起きるとゼロの姿は無かった。
「もう出掛けたのか」
仁もかるく身支度をして、ダンの家に向かった。
「ダンさーん!」
「おぅ!今行く!」
ダンが家から出てきて、魔法は昨日宴会をした広場で教えてもらうことにした。何人かは酔い潰れて今だ寝ている。
「よし、それじゃ基本の攻撃魔法から」
そう言ってダンは炎玉を出す。
「手のひらに魔力を集める感じでイメージするんだ」
仁は目を瞑り、魔力を集中した。すると案外簡単に光の玉を造ることが出来た。
「お、才能あるんじゃないか?それじゃお互いぶつけるぞ」
「えっ?」
そう言ってダンは仁目掛けて炎玉を投げてきた。
「マジか!!」
慌てて光玉を炎玉目掛けて投げる。
二つがぶつかり小さな爆発を起こす。
「初めてやるにしては上出来だ」
「いきなり危ないですよ!」
「それじゃどんどんいくぞ!!」
「ちょ、待って!うわぁぁ!!」
仁はボロボロになりながらも、特訓は夕方まで続いた。