◆異世界◆
文字ミスがあったらスミマセン。
ーーーーーここは?
目が覚め立ち上がり、辺りを見渡した。どうやら辺り一面砂漠のようだ。
「ホントに来ちゃったんだな」
仁は薄笑いを浮かべて、また座り込んだ。
「そういえばゼロさんは帰ったのか?」
まさかホントに願いを叶えてくれるとは。とてもいい神様だったけど、一人はかなり心細いな。ーーーーそう思っていると
「帰ってないぞ?」
突如真上から声がし、慌てて上を向く。そこにはいた翼を動かさずに浮いているゼロの姿があった。
「ゼロさん!……じゃなくてゼロ様!」
「いや、ゼロでいい。なんだかそのほうが親しい感じがするだろ?お前は我に名前をくれたのだから」
「いやいやさすがに呼び捨ては……」
「気にすることはないさ」
「……ならせめてゼロさんで」
「ふむ、それならいいだろう」
「ありがとうございます。それと一つ尋ねたいのですが…」
「なんだ?」
「その四枚の翼を使わなくても飛べるんですね…」
ゼロは振り向き、背中についている翼を見て苦笑いを浮かべた。
「まぁ使わなくても飛べるな。この翼を使うのは………その時の気分でだ」
「なるほど……」
「それでこのあとどうするのだ?」
「そうですね……とりあえずこの世界について何も知らないし、今いる場所は砂漠なので…近くにある村か都市を探したいと思います」
「そうか、なら我が送るか?」
「いえ!……願いを叶えてくれたうえ、そこまでのご苦労をかけるわけにはいきません。それと、自分の足で歩いて冒険者気分を味わいたいのです」
仁は照れながらそう言った。
目の前で照れている仁を見て、ゼロは不思議に思っていた。楽をせずに己の足で進んでいくか………何故そんなめんどくさい事をするのだろう。好奇心というやつなのだろうか。それも仁に付いていけば分かるのかな。こいつと共に歩めば人間について分かる気がする。
「それではゼロさん、ここまでありがとうございました」
「あぁ……」
ゼロにお辞儀をし、背を向け歩いていく。
内心、正直に言うとゼロに付いてきて欲しかった。冒険者気分を味わうといっても、この砂漠も安全とは限らない。俺の予想だとこの世界には魔物や化け物など、うじゃうじゃいるだろう。今の俺はこの世界で生きていけるとは思えない。魔法も何も出来ない、ちっぽけな高校生なのだから。ゼロが側にいれば、これほど頼もしい存在はいないだろう。そしてどんなに心強いことか。
仁は、ゼロに言い出さなかったことを後悔しながら歩いていくーーー
「仁!少し待て!」
ゼロの声に振り向くと、ゼロは地面に降り立ち仁に向かって歩いてきた。
「どうしたのですか?」
「いや……仁がいいのであれば、我も付いていこうと思ってな。お前の側にいれば人間についてもっと知れそうだ」
仁は驚きとともに、ゼロに見えないよう握り拳をつくり、よっしゃ!と小声で言った。
「なんか言ったか?」
「な、何も言ってません!」
「それで…………どうだ?」
我の力を使えば無理矢理にでも一緒に付いていくことなど、息をするのと同じくらい簡単なことである。もしくは幻を見せるかなど様々な方法があるが、あえて仁の意思で決めさせる。そうしないと意味がないのだからな。
ゼロは仁がどう答えるか少々ドキドキしていた。こんな感情は初めてだ。
「こちらこそお願いします!」
仁の何の迷いもない答えにゼロは少し驚く。
「……そうか!なら共に冒険なるものをするか!」
「はい!!」
仁は満々の笑みで答え、二人は人がいそうなところを探して歩き始めた。
ーーーーーー二時間後
「はぁ…はぁ…」
「大丈夫か?」
仁はすっかり疲れきっていた。もともと体育会系でもないから、ひたすら砂漠を歩くのは予想以上にキツイ。一方、ゼロは涼しげな顔で全く疲れてない。
「少し休むか?」
「はぁ……そうしましょ…」
二人はその場に座り込んだ。
「……ゼロさんは疲れないんですね…」
「全く疲れない。疲れとはそんなに辛いのか?」
「はい……身体が歩くことを拒否してます」
「治すか?」
「…………え?」
すると仁の身体が光だした。
「え?……え?」
仁が戸惑っている間に、光は収まり消えていく。
「少し動いてみろ」
仁は立ち上がり、その場を歩いてみた。
ーーーーーマジか!!
内心かなり驚いている。疲れる前まで回復するどころか、前よりはるかに体力があがっているのが分かる。
「調子はどうだ?」
「はい!!良すぎてヤバイっす!!」
仁はそこらへんを走り回り、それをゼロは不思議そうに眺めていたーーーーその時。
ーーーゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ
地響きとともに、仁が走り回っていた地面の下から、巨大な蠍が現れた。
「ぎゃぁ!!!」
目の前に現れた見たこともない蠍に、思わずみっともない声をあげてしまう。
ゼロは座ったまま蠍を眺めていた。
「ぜ、ゼロさん!!」
全速力でゼロの元までダッシュし、後ろに隠れた。
「あ、あんな巨大な蠍見たことないですよ…」
「小さいのなら地球にいたのか」
「手のひらサイズの奴ならたくさんいましたけど、あんな何メートルの蠍なんかいないです普通!」
「なるほどな…」
蠍は仁を獲物として見て、ギィギィ言いながら仁に向かおうとしたところで足を止めた。
自分の獲物が隠れた存在。黄金と白銀の両目で自分を見ている。異様な存在に蠍も動揺した。
「お前達のボスもそこに隠れてるんだろ?」
蠍は驚き後退りする。すると、地面の中から何メートルもある蠍が次々に現れ、最後に今までとはくらべものにならないくらい巨大な蠍が現れた。
「し、死んだ……」
仁はこのグロテスクな蠍の群れを見て死を覚悟する。すると、巨大なボスらしき蠍が二人に近付いてきた。
《我はこの砂漠の支配者ーーそこのお前ーー人間じゃないーー何者だーー》
日本語ではなく、謎の言葉なのに仁にも通じたことに仁は驚いた。
「お前らこそ、我の大事な人間を食らおうとして何様だ」
ゼロの言葉に巨大な蠍は後退りする。
《悪魔ーーーいやーー悪魔なんかじゃないーーさらに神々しいーー神かーー?》
「我は自分がなんなのか知らん、そして我々の邪魔をするなら処刑する」
ゼロの目が冷酷なものとなる。その時空気が変わりーーこの惑星も震えているようにかすかな地震が起こった。
《やはりーーーー神かーー》
「同じことは二度言わんぞ」
すると巨大な蠍はまるで頭を下げているかのように体勢を低くし、周りの蠍達も同じように体勢を低くした。
「何の真似だ?」
《神のーー道を阻むようなことをしてーーー申し訳ありませんでしたーー》
その光景を仁はゼロの後ろで眺めていて、ゼロと一緒に冒険することにして良かったと、改めて心から思った。そして、気分が良かった。まるでこの立ち位置からして支配者のような気分を感じていた。
「仁、どうする?」
「え?!」
急にゼロが仁に話を降ってきたので少々テンパった。
「ど、どうするって?」
「こいつらを殺すか逃がすか…お前が決めていいぞ?」
「………マジですか」
「あぁ」
この蠍達も、別に悪気があって俺を食おうとしたわけじゃないしな。ん?それでも俺を食おうとしたのか………でもそれは仕方ないことなのかもしれん。
「ゼロさん、殺さないで下さい」
「ほぉ、お前を食らおうとした者達だぞ?」
「この蠍達も生きるために食べようとしただけです。それは仕方ないことですから。」
やはり人間は面白いなと改めてゼロは思った。
「ならお前達を許そう」
ゼロの眼差しが穏やかなものとなって、空気も穏やかなものになった。
《ありがとうございましたーーー》
「それでは立ち去るがよい」
《ーーー神よーー我々はーー神の役に立ちたいですーー》
思いがけない言葉に二人は驚いた。
「しかし我々はお前達を必要としていない」
《今神はーーーー何ゆえこの砂漠にーー?》
「今は人が住んでいる場所を探しているのだ」
《それならーーー我々が案内しますーー我々の背中にお乗り下さい》
蠍達はどうにかしてゼロの役に立ちたいようだ。
「仁、お前は己の足で冒険者気分を味わうと言っていたが、どうする?」
仁は先程の自分を恨んでいた。何故あんなことを言ったんだ俺!!
たしかに、自分の足で歩いて村にたどり着いた時の達成感はヤバイだろう。しかし、今は蠍の背中に乗るという未知の体験をしたい気持ちのほうが勝っている。
その達成感はまた別の所に向かった時味わえばいい。
「ゼロさん、ここは案内してもらいましょう」
「自分の足で歩かなくていいのか?」
「蠍の背中に乗るのも経験したいのです!」
「そ、そうか」
仁がはっきりといいきったので、まぁいいだろうとゼロも思った。
「それじゃ案内してもらおう」
《神の役に立てることーーーーありがたき幸せーー我の名はガル=デールと申します》
そして仁達は蠍達に案内してもらうことにした。
ガルは是非自分にとゼロに言ったが、ゼロは空を飛ぶと言ってガルは残念そうにしていた。ゼロが仁を乗せろと言って、最初は《人間を我にーー!?》と驚いていたが、ゼロの命令ともあってガルは仕方なく仁を乗せた。
いやーーー実に爽快だ。
ガルの上から眺める景色はまるで王様気分だった。ガルの周りを蠍が囲んで、砂漠を優雅に進んでいる。そしてゼロは仁の十メートルくらい上を飛んでいた。
「凄いなー」
《人間ーーーー名前はーーー》
「あ、神谷仁って言います」
「神谷仁ーーー変な名前だなーー特別な魔法使いではーー無さそうだがーーなぜ神と一緒にーー?」
「はい、あの神……ゼロさんは俺の願いを叶えてくれたんです。そして人間である俺に興味を待ってくれたらしく、一緒に旅をしています。まぁでも、旅を初めて一日も経ってないですがね」
仁は薄笑いを浮かべてゼロを見上げた。
《なるほどーーーそういうことか》
ガルは納得したらしく、それからガルと少し話をしながら村に向かった。
ガルと話しているとき、ゼロが真上から仁の隣に降りてきた。
「どうしたんですか?」
「そういえばお前は魔法が使えないよな」
「はい……」
仁は少し落ち込んだ。
「この世界の言葉が分かるようにはしたが、魔法を使えるようにはしてなかったな」
「だから、ガルの言葉がわかったんですか!」
先程疑問に思っていたことが解決した。
「そこでだ、まぁこの世界に来たからには自分の身を守るため魔法は使えた方がいいだろう。」
「使うことが出来るんなら使いたいです!」
「よし、じゃあ今からお前をこの世界の人間と同じように、魔力を生産できる身体にしよう」
そう言って、ゼロが仁の身体に触れる。次の瞬間、仁は自分の身体から何かが溢れだしてくるのを感じた。
「これで仁も魔法を使えるようになっただろう 」
「もう終わりですか!?」
「そうだぞ?」
さすがゼロさんだなと、仁は感心した。
「まぁそこからは自分の努力次第だ。一気にこの世界最強クラスにも出来るが……それは楽しくないんだろう?お前の性格上」
一気に最強も良かったが、たしかに最初はレベル一からやりたいものだ。
「はい、段々強くなるよう頑張ります!」
「それでこそ仁だ」
ゼロは嬉しそうに何度も頷いた。
《仁と神よーーーーそろそろ着きます》
ガルの声に反応して前をよーく見てみると、うっすら遠くに村があるのが見えた。
「そろそろか」
「やっとですか!」
仁はわくわくしていた。ここから様々な出会いがきっとあるはずだ。もしかしたら、死にそうにもなるかもしれない。だけど、こんなスリルのある人生は地球にいたころの普通な俺からしたらまさに夢の中の世界だろう。この世界で俺は魔法の力を磨いて、冒険者として頑張っていこう。その為の第一歩だ!