東京タワーと恋
今日、私は恋を失った。
四年間付き合っていた彼氏に振られてしまった。理由はわからない。
バーでお酒を飲みながら、窓から見える東京タワーをぼうっと見つめる。体が火照っているせいか、それとも悲しいからなのかわからないが、視界がぼやける。
「そんなに飲んで大丈夫なんですか?」
若いバーテンダーの男の人が話しかける。薄暗くてよくわからないが、そこそこ整った顔をしているので、女には困ることはなさそうだ。
「べっつに」男の人は困ったような笑みを浮かべる。
「こんなおばさんにわざわざ話しかけるなんて、趣味悪いわね」グラスのふちを撫でながら、悪態をつく。
「おばさんなんかじゃないですよ。まだお若いじゃないですか」
「そんなお世辞いわれても」
お酒がまわって頭が回らない。男の人は吹いたグラスを置く。
「僕とドライブしません?」は? と私は思わず口から漏れた。
「何いってるの?」男の人は、そのまんまの意味ですよと笑顔で返した。
「車なんかもってるのね」いつもの十倍増しで滑舌がまわっていない。東京の真ん中で車に乗るなんて、変わり者だなあ。
「ドライブでもすれば、酔いも覚めるんじゃないかって思ったんですよ」
男の人の顔をまじまじと見る。いかにもな爽やか好青年って感じだ。
「じゃあ、行きましょうか」
青色のいかにも安っぽそうな車に乗って、夜の街を走る。夜といっても昼と間違えそうなくらい明るい。
「ドライブなんて久しぶり」
顔がほころぶ。彼もニコニコとなぜか楽しそうだ。
「そりゃあよかった」
「ドライブ好きなの?」聞くと、少しだけ唸って、まあそうかなと答えた。
フロントガラスに水滴が落ちる。天気予報では雨なんていってなかったのに……なんてちょっと考えたりする。
「雨降ってきましたね」
ワイパーが動き出す。きゅきゅと独特の音を鳴らしながら。
「一人で帰ってたら、風邪ひいてたかも」
ある意味、酔ってよかったのかもしれない。ざあざあと雨はどんどん強くなっていく。
「私失恋したんですよね、今日」
へえ、と彼は相槌をうつ。
「四年付き合ってて、結婚も考えてたの。私も来年三十だし、早く落ち着きたいなあってね。そしたら振られちゃった」
綺麗にネイルした爪をはじく。彼は何も言わない。
「本当惨めよ。今の会社も不況不況で、ずっと赤字だから……いつクビになってもおかしくないし」
声が震えてるのが自分でもよくわかる。彼は軽くため息をついた後、ブレーキをかけた。
「一緒にきてください」
私にしか聞こえないような声でつぶやいて、車から出る。そのときにはもう雨はやんでいた。
「どうしたの?」と聞くとすぐにいいから、と返す。
車から出て見えたのは、東京タワーだった。いつも遠くから見てはいるけれど、近くでちゃんと見たことがなかった。
「僕とお友達からはじめませんか?」
彼は私の手を握る。
「そりゃ、僕バーテンダーでけして安定した職業とはいえないですけど、でも車買えるぐらいの余裕はありますし、こういう職業が嫌なら、正社員にでもなります」
顔を赤く染めた彼の手は冷たい。
「どうしたの?」この場の状況がイマイチわからない私は混乱してしまう。
「好きなんです」
うつむいて、彼は小声で言う。
「でも、あなたは僕のことをよく知らないだろうから、お友達からと……」
純情な彼の表情をみて、逆に私が恥ずかしくなってしまう。
「何で私なんか……」にっこりと彼は満面の笑みで言う。
「うちのお客さんとしてよく来てたから、ずっと気になってたんです。一目ぼれってやつですよ」
私はどう反応していいのか分からず、そう、としか返せない。でも彼はずっとにこにこしてる。
「それなら別にいいですよ」小声でそういう。
彼はやったあと大声をあげて、私に抱きついた。
「さすがに外ではやめて!」
えへへと笑う小動物みたいな彼がなぜか愛しいような気がした。
東京タワーはいつもと同じように輝いていた。
えー お題メーカーで適当にあたったお題で書いた小説です。
勢いで書いたんで、おかしいのは許してやってください。
恋愛ドラマの王道みたいな話ですけどね。
でもお題で小説書くの楽しいですね。