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『婚活アドバイザー成田の異世界相談録』

『異世界の婚活相談所に来たのは、結婚したくない女騎士でした ~46歳のおじさん、剣も魔法も使わず恋愛問題を解決する~』

掲載日:2026/10/31



「結婚したくない女を、結婚させることはできるか?」


 異世界で初めて受けた婚活相談が、これだった。


 ……いや、ちょっと待ってほしい。


 俺は成田和彦、四十六歳。


 日本ではオタク専門の結婚相談所に勤めていた、妻子持ちの元サラリーマンだ。


 ある日、事故で命を落とし、気がつけば剣と魔法の異世界に転生していた。


 女神様から授かった能力は《縁結び》。


 名前だけ聞けば、いかにも強そうだ。


 だが、敵を倒す力はない。


 火の玉も出せない。


 剣を振れば、おそらく翌日は筋肉痛である。


 そんな俺が今いるのは、王都の冒険者ギルド。


 目の前には、銀色の鎧を着た女騎士が立っていた。


 赤い髪を後ろで束ねた、凛々しい女性だ。


 腰には立派な剣。


 背筋はまっすぐ。


 そして、表情はものすごく険しい。


「……あの、まずお名前を伺っても?」


「セリス・ヴァルハイト。王国騎士団長だ」


「……騎士団長?」


「ああ」


 ……おお。


 いきなり偉い人が来た。


 日本でいえば、役所の窓口に相談に来た人が、実は警察本部長だったようなものだろうか。


 いや、違うか。


 とにかく、緊張する。


「それで、結婚したくない方というのは……」


「私だ」


「……なるほど」


 俺は頷いた。


「では、最初に確認させてください」


「何だ?」


「**結婚したくないのに、なぜ結婚相談に来られたんですか?**」


 セリスさんは、ぴたりと動きを止めた。


 ◇◆◇


「……部下に勧められた」


「なるほど」


「最近、周囲がうるさいのだ。そろそろ身を固めろ、良い相手はいないのか、と」


「そうですか」


「私は騎士団長だ。仕事に誇りを持っている。結婚のために剣を置くつもりはない」


「はい」


「だが、周囲は理解しない」


 セリスさんは腕を組んだ。


「だから、結婚相談員とやらに相談すれば、何か答えが出るかと思った」


 ……なるほど。


 これは、よくある相談だ。


 日本でもいた。


 親に言われたから。


 友人が結婚したから。


 年齢的にそろそろだから。


 でも、本人は本当に結婚したいのかわからない。


「セリスさん」


「何だ?」


「無理に結婚する必要はありませんよ」


「…………」


 セリスさんが固まった。


「……何?」


「結婚したくないなら、今すぐ結婚しなくてもいいと思います」


「……お前は婚活相談員なのだろう?」


「はい」


「それでいいのか?」


「いいんです」


 俺は頷いた。


「結婚相談員の仕事は、誰でも結婚させることではありませんから」


 セリスさんは、しばらく俺を見つめていた。


「……変わった男だな」


 ……いやぁ。


 異世界でそう言われると、ちょっと複雑だ。


 ◇◆◇


「では、少し質問してもいいですか?」


「構わん」


「セリスさんは、結婚そのものが嫌なんでしょうか?」


「……どういう意味だ?」


「例えば、誰かと一緒に暮らすことが嫌なのか。それとも、結婚によって今の仕事を続けられなくなることが嫌なのか」


 セリスさんは、少し考えた。


「……後者だな」


「なるほど」


「私は、騎士団長であり続けたい」


「はい」


「そのために、これまで努力してきた」


 その声には、強い誇りがあった。


 ……うん。


 大切なことだ。


「では、もし仕事を続けることを尊重してくれる相手がいたら?」


「……そんな男がいるのか?」


「いるかどうかは、探してみないとわかりません」


「……ふむ」


「でも、少なくとも、セリスさんが何を大切にしているかはわかりました」


 俺は笑った。


「結婚したくないというより、結婚のために大切なものを失いたくないんですね」


 セリスさんは、目を見開いた。


 そして、ゆっくり頷いた。


「……そうかもしれない」


 ◇◆◇


 その時だった。


「団長!」


 ギルドの扉が勢いよく開いた。


 若い騎士が二人、飛び込んできた。


「大変です!」


「どうした!」


「第三小隊の訓練で、またレオンとカイルが揉めています!」


 ……また?


 いや、俺は初めて聞く名前なんだけど。


 セリスさんは額を押さえた。


「……あの二人か」


「剣を抜いて、互いに譲りません!」


「すぐに行く!」


 セリスさんが立ち上がる。


 その瞬間、俺は思わず口を開いた。


「……あの」


「何だ?」


「よければ、俺も同行していいですか?」


「……お前が?」


「はい」


 セリスさんは俺を見た。


「危険だぞ」


「……ですよね」


 うん。


 言ってから後悔した。


 でも。


 人間関係のもつれなら、少しは役に立てるかもしれない。


「戦うつもりはありません。話を聞くだけです」


 セリスさんは、少し考えた。


「……好きにしろ。ただし、私の後ろにいろ」


「はい!」


 ……よし。


 異世界初の出張相談だ。


 ◇◆◇


 騎士団の訓練場に到着すると、二人の若い騎士が向かい合っていた。


 一人は金髪の青年。


 もう一人は黒髪の青年。


「だから、お前の判断は遅いんだよ!」


「お前が勝手に突っ込むから、隊列が崩れるんだ!」


 ……うん。


 典型的な対立だ。


 片方は行動派。


 もう片方は慎重派。


 どちらも、自分が正しいと思っている。


「二人とも、剣を収めろ!」


 セリスさんの声が響いた。


 ……すごい。


 一瞬で静かになった。


 やっぱり騎士団長は違うなぁ。


「成田」


「はい?」


「話を聞きたいのだろう?」


「……あ、はい」


 セリスさんは二人に向き直った。


「この男の質問に答えろ」


 ……え?


 いきなり俺の番?


 俺は慌てて二人の前に立った。


「えーと……こんにちは」


「……誰だ、このおっさん」


 金髪の青年が言った。


 ……うん。


 まあ、そうなるよね。


「成田和彦と申します。相談員をしています」


「相談員?」


「はい。ちょっとお話を聞かせてください」


 俺は二人を見た。


「まず、レオンさん」


「……何だよ」


「カイルさんの判断が遅いと、どう困るんですか?」


「そりゃ、敵に逃げられるだろ!」


「なるほど。敵を逃がしたくないんですね」


「当たり前だ!」


「では、カイルさん」


「……はい」


「レオンさんが先に動くと、どう困りますか?」


「仲間が危険にさらされます」


「なるほど。仲間を守りたいんですね」


 二人は、まだ険しい顔をしている。


 俺は頷いた。


「つまり、お二人とも、隊のために行動しているんですね」


「……は?」


 レオンが眉をひそめた。


「何言ってんだ?」


「目的は同じなんですよ」


 俺は続けた。


「敵を倒して、仲間を守ること」


 カイルが少し考え込んだ。


「……確かに」


「ただ、そのために何を優先するかが違うんですね」


 俺は二人を交互に見た。


「レオンさんは機会を逃さないこと。カイルさんは仲間の安全を確保すること」


 ……うん。


 ここまでは、整理できた。


 ◇◆◇


「では、一つ提案があります」


「……何だよ」


 レオンが腕を組んだ。


「次の訓練で、お互いの役割を明確にしてみませんか?」


「役割?」


「はい」


 俺は地面に、簡単な図を描いた。


「例えば、カイルさんが周囲の安全を確認する。レオンさんは、その合図を受けて素早く動く」


「……それじゃ、俺が待つだけじゃねえか」


「いえ。カイルさんにも、合図を出すまでの時間を決めてもらうんです」


 カイルが顔を上げた。


「……時間を?」


「はい。状況によっては、慎重すぎることも危険になりますから」


 ……これは、どちらか一方が悪いという話じゃない。


 お互いの強みを生かす方法を考える。


 婚活相談でも、夫婦相談でも、同じことだ。


「どうでしょう?」


 二人は顔を見合わせた。


「……まあ」


 レオンが呟いた。


「それなら、試してもいいけど」


「……僕も、異論はありません」


 ……おお。


 よかった。


 セリスさんが、少し驚いた顔をしていた。


「……成田」


「はい?」


「お前は、今、何をした?」


「……話を整理しただけですよ」


「それだけで、あの二人が?」


「まあ、まだ解決したわけじゃありませんけど」


 俺は苦笑した。


「一度、試してみる価値はあると思います」


 セリスさんは、しばらく俺を見つめていた。


 ◇◆◇


 訓練が再開された。


 カイルが周囲を確認し、合図を出す。


 レオンが一気に踏み込む。


 最初は、少しぎこちなかった。


 でも、何度か繰り返すうちに、動きが合い始めた。


「……おお」


 俺は思わず声を漏らした。


 すごい。


 さっきまで喧嘩していた二人が、ちゃんと連携している。


 もちろん、完璧じゃない。


 でも。


 お互いを理解しようとするだけで、こんなに変わるんだな。


「……成田」


 セリスさんが、隣で呟いた。


「はい?」


「私は、強い男が理想だと思っていた」


「……そうなんですか」


「剣が強く、戦場で頼りになる男だ」


 ……なるほど。


 騎士団長らしい価値観だ。


「だが……」


 セリスさんは、訓練場を見つめた。


「強さにも、いろいろあるのだな」


 俺は、少し考えた。


「そうですね」


 そして、笑った。


「相手の話を聞けることも、強さの一つかもしれません」


 セリスさんは、静かに頷いた。


「……覚えておこう」


 ◇◆◇


 その日の夕方。


 俺はギルドへ戻ってきた。


 肩の上では、緑色のスライムがぷるぷる揺れている。


『――おじさん、今日も大変でしたね』


「……本当だよ」


『――でも、騎士団長さん、ちょっと嬉しそうでしたよ』


「そうかな?」


『――はい!』


 ミドリは、元気よく跳ねた。


 ……まあ。


 少しでも役に立てたなら、よかった。


 俺は、ポケットからスマートフォンを取り出した。


 画面は、まだ点く。


 でも、電波はない。


 日本の家族に連絡することもできない。


 妻の美咲。


 息子の悠斗。


 娘の結衣。


 ……みんな、どうしているだろう。


 俺は、スマートフォンを握りしめた。


「……帰りたいな」


『――おじさん?』


「……いや、何でもない」


 俺は、ミドリの頭を軽く撫でた。


「とりあえず、今日の晩ご飯を考えよう」


『――パンがいいです!』


「……またパン?」


『――パンは正義です!』


 ……うん。


 異世界のスライムは、なぜかパンが好きらしい。


 俺は苦笑しながら、王都の夕暮れを歩き始めた。


 剣も魔法も得意じゃない。


 特別な戦闘能力もない。


 それでも。


 誰かの悩みを聞くことくらいなら、俺にもできる。


 そして、いつか。


 必ず、家族のもとへ帰る。


「……さて」


 俺は、小さく呟いた。


「明日は、どんな相談が来るんだろうな」


 ――完――


最後までお読みいただき、ありがとうございました!

本作は、連載中の

**『46歳、社畜のオタク婚活アドバイザーですが、異世界転生したらコミュ力だけで無双してしまいました ~妻子持ちのおじさん、帰宅を目指して魔王すら成婚させる~』**

(略して『異世界おじさん婚活無双』)


の世界観を使った、独立した短編エピソードです。


本編では、異世界に転生した46歳の元婚活アドバイザー・成田和彦が、王女様の結婚問題や王宮の事件、さらには魔族たちの恋愛事情まで、さまざまな問題に向き合っていきます。


もちろん、最大の目標は日本に残してきた家族のもとへ帰ること。

**「コミュ力だけで異世界を生き抜くおじさん」の続きが気になった方は、ぜひ連載本編も読んでいただけると嬉しいです!**

本編はこちらから⇩

『46歳、社畜のオタク婚活アドバイザーですが、異世界転生したらコミュ力だけで無双してしまいました ~妻子持ちのおじさん、帰宅を目指して魔王すら成婚させる~』

https://ncode.syosetu.com/n9705mx/

本編は毎日10時・14時・20時に更新中です。

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