ダイング
目が覚めると、見たことのない場所にいた。空は黒く、暗くではない、黒く、地面には正方形のタイルが敷き詰められ、自分の周囲が異様に明るい。
「ここは...?」
「お、目ぇ、覚めたな。」
酒瓶を手に持って胡座をかいてるボロの服を着た無精髭の男が話しかけてきた。
「あの、ここどこですか...?」
「んあ?んー、なんていえばいいんだろうな...まぁ、あの世の入口とでも言っておこうかな...」
「あの世...?え...!?俺死んだの!?」
そこから"ヒゲ"の長ったらしい解説が始まった。この話の長さは、完遂するにはとても強力なトレーニングを積まないといけないことが判明したので、一般の読者向けに要約したものを掲載しておこう。
・この世界の次に行くのは天国か地獄である。
・どちらも生き物でいっぱいなため昭和12年ごろからこの空間で2人づつ「待機死人」として放置されている。
・この空間はたくさん作れる。
・必要最低限の行動以外、死ぬ時最後にしていた行動しかここではできない。(それで苦痛を感じることはない。)
・ステータス表示で今現在自分がどういう状況なのか確認することができる。
「自分の状況確認してみるか...」
ステータスを開いてみると、次のようなものが表示された。
・できること:起立・歩行
・待機年数:96414年待ち
・死因:トラックに轢かれ死亡
「おお、スゲェ!待機年数がクルシイヨだ!めでたい!」
「どこがだ!!」
そして最後に...
・身体:瀕死
「瀕...死...?」
「お、瀕死かぁ〜まだいいなぁ〜。お前、現世に帰れるぞ?」
「どういうことですか?」
ヒゲは続けた。
「つまりだ、まだ完全に死亡しちゃいねぇってことさ。魂だけが身体からはみでた状態。戻れれば生き返ることができるんだな。」
「...そういえば...なんで座ったままなんです...?ってかなんで僕座れないの!?」
「そりゃあ、あれだ、最後にしてたことが原因だよ。俺は家で胡座かいて酒呑んでた。だから一升瓶がぽんぽん出てくる。だけどな...ずぅっと同じ酒しか飲めない。酔うこともできない...。」
「僕は...道を歩いてたから...」
ある意味で、地獄...!!
「あ、そうだ、俺のステータス見るか?ひでぇもんだぜ。」
ヒゲがステータスを開いて見せてきた。
・できること:胡座・北雪酒造あきあがりの飲酒
・待機年数:33960年待ち
・死因:ミサイルの落下
・身体:死亡
「意外といい酒呑んでますね...」
「北雪はいいゾォ!」
「ミサイルの落下...?」
「そのまんま。」
「待機年数って...」
「いいだろ。サンザンクロー!お前とめっちゃ離れてるけど、待機死人の数は年々倍増してるからだ。」
うーん、意外とツッコミどころがない。
「そうだ、酒持ってるんだったら僕にも分けてくださいよ。」
ヒゲは少し考えて答えた。
「無理だな。俺には今、譲渡、という行動が制限されている。"ペシャンコ"も授受という行動を制限されてるだろ?」
確かに...
「...ってペシャンコって何...!?」
「え、お前のあだ名にきまってんだろがよ。トラックに轢かれてペシャンコになったからペシャンコ。わかりやすいだろ?」
「いや!僕にもちゃんとした名前が...」
「とりあえずペシャンコ!お前、早く行った方がいいぞぉドンドン死亡に近づいてくからな。」
「へ?」
「俺の経験上タイムリミットは10日間!!それいないに"入口"を見つけるんだそうすればいきかえることができる...!」
「あ、あの!なんなんですか入口って!?それに10日間って...」
「...俺が死んだときな...もう1人の待機死人と一緒だった...。そいつはある日、暇だからと散歩に出かけた。帰ってきたのは14日後だ。そして、そいつはこう言った。『天国の入り口を見つけたよ。1時間早くついてれば、生き返ることができたって天使に言われたよ。』...そいつもな...お前と同じ、瀕死状態だったんだよ...」
つまり...
「天国の入り口に辿り着ければ、生き返られる...?」
「だからさっきからそう言ってんだろ。」
「どっちに...どっちに天国の入り口が...!?」
ヒゲは首を横に振りながら答えた。
「さーっぱりだ。さーっぱりわからん。だけど、あいつが帰ってきた方角は覚えてる。」
一方を指を刺して続ける。
「あっちだ。タイルを目印に行けば迷わないだろう。」
「わかりました...」
男は、決意を固めた顔で、髭に別れを告げた。
「短い間でしたが、ありがとうございました。」
「おう。もうけぇってくんなよ。俺にはどうもできねぇが、お前は歩けるんだからよ。」
男、走り出す。いや、走り出したい気持ちで歩き出す。真っ暗闇の中、1人残されたヒゲは、男には2度と、33960年の間会わなかったそうだ。




