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モブ貴族Aは婚約破棄の現場を見た〜周りを見て王子様!女性陣が怖すぎて震えが止まりません〜

作者: Argon
掲載日:2026/02/25

某 徐々なアニメの第2部を見返しているとき「あれは養豚場の豚を見る目だ!」というセリフが出てきまして、そんな目をする場面あるかなと考えたときに思いつきました。

怖いね。

「ソフィア! お前との婚約を破棄する!」


華々しい王国立学園の卒業パーティーの真っ只中。

第一王子の芝居がかった声が、会場に響き渡った。


何かが起きたことを察すると、俺は友人たちと顔を見合わせ、ゆっくりと壁際に移動しようとした——その時だった。


がしり、と。

婚約者のマリアに腕を掴まれた。


「ひぃッ」


いつもの寄り添う腕組みではない。

どこへ行くのかと咎めるような指の食い込み方に、思わず悲鳴が漏れる。


見れば、逃げようとした友人たちも、それぞれの婚約者にやさしく腕組(拘束)されていた。


周囲を見渡せば、女性陣の様子が明らかにおかしい。

皆一様に、王子とソフィア様を見つめている。


だがそれは、事件を驚く目ではない。

結末が分かりきった「質の悪い劇」を見るような、冷ややかな目だった。


王子の正面に立つソフィア様は、扇子で口元を隠していた。

その目に驚きや悲しみはない。ただ、無関心。


(あれは養豚場の豚を見る目だ!)


(これ、婚約破棄の場じゃない。処分宣告の場だ。)


そんな周囲の温度差に気づかないのは、意気揚々と不倫相手の男爵令嬢を抱き寄せている王子だけだ。


「貴様はカタリナ嬢を私怨で制裁した! 王子の婚約者という立場を考えぬ愚行だ!」


震えて王子に縋り付くカタリナ嬢。

彼女は数年前に男爵家の養子になった庶子で、貴族教育も身についていない「いろいろと有名」な令嬢だった。


彼女が男にべたべたと触りに行く、玉の輿狙い見え見えの尻軽であることは傍目でもわかる。

いわば「娼婦の客引き」そのものだ。


そんなのが王族に近づけば当然、婚約者であるソフィア様は苦言を呈する必要がある。

だが王子は聞く耳を持たず、女の醜い嫉妬だと一蹴し、忠言を呈する側近候補たちも一様に遠ざけてしまった。


「カタリナ嬢の純粋なありように触れ、私は真実の愛に目覚めたのだ。これの前に権力は壁でしかないのだ!」


主役気分で叫ぶ王子。

ふと隣のマリアを見れば、肝が冷えるほどの冷笑を浮かべている。


それは周りの令嬢も一緒で、俺たち男性陣は固まっているか、冷や汗を流すことしかできない。


もはや舞台の端役として「この場を乱さないこと」に心血を注ぐしかなかった。

余計な真似をすれば、次はこの矛先が俺たちに向く。


ソフィア様は相変わらず無関心の目で王子とカタリナを見つめながら、ゆっくりと扇子を閉じ、口を開いた。


「婚約破棄と申されましたが、すでに私と殿下の間にそのような繋がりはもうありませんよ」


その徹る声で発した言葉に、いろいろなものが砕けるような幻覚を見た。

言葉の意味に混乱している俺以上に混乱しているであろう王子とカタリナ嬢が、言葉の意味を理解できず固まる。


「数ヶ月前、殿下の行動を公爵家と国王陛下に報告し、王家側の瑕疵という形で婚約破棄は成立しております。陛下と王妃様からは十分な謝罪と賠償もいただきました」


王子は「私は何も聞いていない!」と慌てふためくが、ソフィア様は事務報告のように淡々と続ける。


彼女は陛下の顔を立てて、王家の醜聞を隠す期間を与えていたのだ。

王家も承知で、婚約破棄公表の準備を進めていたのだろう。

だが、王子は自らこの晴れ舞台でそれをぶち壊した。


(となると、これ相当まずいよな……)


王家が公爵家に頭を下げて収めた話を、公衆の前で蒸し返したのだ。

これはもはや「国家反逆」に近い。


あの王子は陛下と王妃様が謝罪するという言葉の重さを理解しているんだろうか。

婚約解消ではなく破棄であることの意味を読めているのだろうか。

してもしてなくとも婚約破棄の話が本人に行ってない時点で、彼はもう「切り捨てられた」のだろう。


両陛下もまさか曲がりなりにも王族こんな愚行をするとは夢にも思わなかったのだろうな。


「ですが一ヶ月ほど前から、面白い噂が耳に届きましたの。伝統ある卒業パーティーで、喜劇の準備をする方々がいると」


冷え切っていると思った会場の空気が、さらに一段階冷え、体が震え始めた。


「……ライル様、震えていらっしゃいますの?」


隣でマリアが、まるで春の陽だまりのような暖かさで微笑んでいる。

だが、その瞳の奥には「あなたは大丈夫よね?」という、絶対的な忠誠を試すような鋭い光が宿っていた。


俺は必死に首を振った。

脳内では、過去三年の自分の行動が走馬灯のように再生されている。


(マリアの誕生日のプレゼント……ヨシ!)

(手紙と花の贈り物……ヨシ!)

(今までの茶会と夜会でのエスコート……ヨシ!)

(友人との酒の席で『俺の婚約者が一番可愛い』と自慢した件……ヨシ!)


(むしろ、それしか言ってねえ! 過去の俺よくやった!)


友人たちの方をチラ見すれば、皆一様に、生まれたての小鹿のように膝をガクガクさせている。

皆、同じように過去の行いを振り返っているのだろう。


ソフィア様は、扇子でそっと自分の肩を叩きながら、王子を一瞥した。


「殿下、わたくしは『喜劇』だと申しましたのよ? 婚約破棄をされるのであれば、せめて正式な書類一式を揃え、陛下と我が公爵家の合意を取り付けてからになさるのが、この国の法。それを……」


ソフィア様は一度言葉を切ると、妖艶に微笑んだ。


「何一つ手続きを踏まずに、ただ叫べば済むとお考えになった。……ねぇ、皆様? これ以上の滑稽な劇が、他にあるかしら?」


ソフィア様が会場の令嬢たちに問いかける。

すると彼女たちは一斉に、示し合わせたように扇子を広げた。


まるで、漏れ出る嘲笑を隠すように。


その動きで察した。

ソフィア様はこの学園の、カタリナ嬢を除くすべての令嬢を手中に収めているのだ。おそらく、王子の浮気の証拠集めをしていた期間に。


そしてこれは、ソフィア様に協力してきた令嬢たちへの「報酬」なのだ。

この喜劇ざまぁによって、令息たちに不誠実の代価を刻み込んでいるのだ。


「ライル様? なぜそんなに遠い目をしていらっしゃいますの? 殿下のあのような無様な姿、もっと近くでご覧になればよろしいのに」


マリアの指が、俺の二の腕をツン、と撫でた。

その感触だけで、心臓が跳ね上がる。


「——いいえ、マリア。心に刻んでおります。一生、忘れることはございません」


俺が絞り出すような声で答えると、マリアは満足げに目を細めた。

その表情は、まさに「よくできました」と言わんばかりの慈愛に満ちていて……。


それが一番怖かった。


舞台中央では、ついに現実を理解し始めた王子が腰を抜かして床にへたり込み、騎士たちによってカタリナ嬢とともに囲まれている。


「……皆様、お疲れ様でしたわ。これで不純物は一掃されました。これからは、清く正しい、誠実な関係だけがこの国を支えていくことでしょう。……ねえ、そうでしょう?」


ソフィア様が、周囲に視線を向け、優雅に微笑む。

俺たちは一斉に、深く、深く頭を下げた。


「「「もちろんでございます!!!」」」


------------


その後、パーティーの出来事には厳重な箝口令が敷かれた。


王子は「病気療養」の名目で田舎に幽閉。

カタリナ嬢は修道院に送られ、実家の男爵家はお取り潰しとなった。

それからしばらくして、ソフィア様は王弟殿下との婚約を発表された。

あの出来事から再び王家との婚約になるとはどのような出来事が裏であったかは知ることもできないが、

婚約パーティーで遠くから小さく見えたがソフィア様の顔を見ると納得のいく婚約だったようだ。


俺は男爵領に戻り、必死に後継者教育と「誠実な夫」になるための準備に励んでいた。

そして結婚式の日にちを決めた数日後、ソフィア様から祝いの品が届いた。

中には見事な宝石が一粒と、スズランの花。


俺は、報酬はまだあったのかと遠い目をした。


「誠実」に生きる。

それがこの国で、女性陣の包囲網の中で、俺のようなモブが生き残るための唯一の現実的な戦略なのだ。


この教訓を、後世に伝えるために書き残しておこう。

いつかまた、勘違いをする男が現れないように。


書き出しは、こうだ。


貴族の女性は恐ろしいものです。

皆さんなら養豚場の豚を見る目はどんな場面が似合うと思いますか。


養豚場の豚を見る目に関する感想があったため追記を

私は感情を抑えているがゆえに傍からは冷たく残酷に見えてしまう目だと考えて書きました。

出荷される運命の豚に対しそれに一々感情を動かしては仕事になりませんし食べられません。

同じようにソフィアは公爵の血を継ぐものとして公な場では意図的な表情以外は蓋をしています。物語の中でも王族の役割を理解しない王子を貴族として見つめています。

その瞳を周囲は「処分を冷徹に決定する者」という意味での「養豚場の豚を見る目」であると認識してしまった。

という解釈で書いていますが、これは作者が勝手に言っていることなので。


いただいた感想は私の知見を深めるもののため気軽にいただけると、私の楽しみが増えます。

最後までお付き合いいただきありがとうございます。


ps.2026/02/26 19時時点で

[日間]総合-短編145位

「日間」異世界[恋愛]97位

にランクインしました。初めてのランクインなのでウッキウキでこの追記を書いています。

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