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水無月

水無月(みなづき)




広い縁側に胡座をかいて座し、手のひらよりも小さくコロンと丸い青梅と真剣に向かい合う。


洗った青梅の水気を拭い、竹串でヘタを取る。

単純作業ではあるものの、傷つけないようにと思えばなかなか神経を使う。


五月から続く長雨がしとしとと降り注ぎ、蛇が頭をもたげたようなカラスビシャクの花をしとどに濡らす。

田植えを終えた田んぼには水が満ち、庭先の低木には青々とした若葉が茂る。


ヘタの取られた青梅は、氷砂糖と共にガラス瓶に収められていく。

青梅、氷砂糖、青梅、氷砂糖と幾重にも重ねられた層は美しく、一方はシロップとなり、一方は焼酎を注がれ梅酒となるらしい。


梅酒用にと用意された焼酎をこっそり味見した半夏(はんげ)はすぐに悪事が見つかり叱られている。


同じく縁側にて作業をする水無月(みなづき)は、梅を丹念に擦りおろすと木綿袋に包み、ぎゅっと汁を搾り出している。

絞った汁を厨房の鍋でとろみが出るまでくつくつと煮込めば梅のエキスができるらしい。


和傘を畳んだ梅子(うめのみ)が土間から縁側へと上がってくる。

手にした竹籠には、黄色く完熟した梅が山盛りに盛られていた。


「熟した方は梅干しと梅ジャムにしようか」


水無月からの提案に頷いた梅子(うめのみ)は、厨房に立つ芒種(ぼうしゅ)に梅ジャム用の実を渡すと再び縁側に戻ってきた。

梅干しに加工する梅は、カビが生えぬよう丹念に水気を拭う必要がある。


誰も彼もが黙々と作業をする傍ら、遠くの山の裾野で雷鳴が轟いた。


厨房からは梅を煮込む柔らかな匂いが漂い始め、氷砂糖の転がる音と梅の実の瑞々しい香りが縁側でころころと踊る。


雨足が弱まれば夜には蛍が光るだろう。

遠くに響く雷の音を聞きながら、今は縁側で梅仕事に精を出す。



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