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弥生

弥生(やよい)



青々とした竹林を抜けて、茅葺屋根の屋敷の戸を叩く。

トタトタと小さな足音のあと、奉公人の(すずめ)が「ようこそおいでくださいました」と元気に出迎えた。


あれやこれやと喋りながら案内してくれる雀に相槌を打ちながら、客間の一室に入る。

障子を開けてもらい縁側から中庭を望めば、立派に枝葉を伸ばした木が桃色と桜色に染まっていた。

なんとも春めかしい景色に、ほうと息をつく。


菜虫が青葉を食べて羽化の為の栄養を蓄える傍らで、奉公人の啓蟄(けいちつ)が冬眠から覚めたばかりの蛇や蜥蜴に春の礼儀を教えているようだ。

蛙がゲコと鳴き、虫が土から眠そうに這い出してくる。


ややあって、屋敷の奥から、何やら騒がしい声が聞こえてきた。

漏れ聞こえる声によると、奉公人の桃と桜が、どちらが客人に茶を運ぶかで喧嘩をしているらしい。

やがて「喝!」と奉公人の(かみなり)による短い叱咤が飛んだ。どうやら桃と桜は揃って叱られてしまったようだ。


客間の襖がすらりと開いて、盆を手にした弥生がおっとりと顔を出す。


「お茶が届かぬようですし、お先に甘酒をどうぞ」


あられ餅と甘酒で乾杯し、愛らしい花々が()く中庭をゆったりと眺める。

どこかで餅を焼いているのか香ばしい香りが漂い始めた。


やがて桃と桜によって、緑茶と団子の乗った盆が仲良く運ばれ、

雀がよく焼けた餅に醤油を塗って海苔でくるりと包んでくれる。


草木がいよいよ生い茂る月だなぁと、春の訪れを肌で感じた。



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