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如月

如月(きさらぎ)





「寒うございますね」


と肩に綿入れを掛けてくれた土脉(つちのしょう)に礼を言う。

酒で温まった身体が次第に冷え始めたようだ。


雪見窓から見える庭は薄らと白く染まり、灰色に染まった空からは今にも雪が落ちてきそうだ。

火鉢の火にあたりながら遠くに霞む景色をぼんやりと見つめていると、炒り豆を持って家主の如月が戻ってきた。


「まだ雪はありますが、たしかに春の足音がするでしょう?」


耳を澄ませばどこかで鶯がホケキョとぎこちなく鳴いた。

それだけで春の息吹を感じられる。


「いわしの、つみれ汁です」


よちよちと覚束ない足取りで盆にのせた椀を持ってきてくれた雨水(うすい)は、土脉(つちのしょう)から「よく零さずに運べましたね」と頭を撫で褒めてもらっている。


出汁のきいた汁が、酒宴に疲れた腹に優しい。

つまみがてら炒り豆をコリリと齧れば、寒雲からは雪ではなく小雨が落ち始めた。


「やあ…木の芽起こしの雨ですね」


しとしとと降る雨が庭先の雪をじわりと溶かす。

ひゅうと吹く東風が遠くの霞を弄び、雪解け水が山の土を潤わせることだろう。


静寂(しじま)に満ちた空間でひと息をつく。

火鉢のなかで、赤く焼けた炭がぱちりと爆ぜた。




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