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霜月
【霜月】
太鼓や笛の囃子と共に、華やかな衣装を纏った霜月が舞い踊る。
神楽面で隠された表情こそ見えぬものの、その動きに迷いや苦悩は感じられない。
五穀豊穣、鎮魂、災厄払い。
太陽の再来と生命の再生を願い、神威を招き迎え入れんとする神楽は力強くも美しい。
中庭に備えられた舞台の上は屋敷の大広間からよく見える。
全ての障子襖を取り去り、大広間と縁側との境を無くした空間は広く、時折北風がぴゅうと吹き抜ける。
冷えをとるために熱燗を喉に流せば、給仕のためと側に控えた小雪がいい塩梅で猪口に酒を足してくれる。
庭先で金盞花が揺蕩い、山茶の花びらがひらりと空を舞う。
立派に茂った橘には黄色く色付いた小ぶりの実が下がり、年中色褪せぬ緑の葉が北風に煽られてさわさわと揺れる。
空には青さが残っているが、ちらほらと雪が降り始めたようだ。
「寒うなりますね」と呟いた小雪に頷き、塩をなめる。
舞台に立つ霜月の扇がひらりひらりと雪片を弄ぶのを眺めながら
またとない奥ゆかしい時間に身を浸す。