睦月
【睦月】
わいわいと賑わう屋敷の戸口を潜る。
出迎えた奉公人の頬が紅潮しているのは、あちこちと動き回っているからか、はたまた隙あらばと酒を召したからか。
奥の座に案内されると、上座で盃を傾けていた男がこちらを見て眉を上げた。
「やあ来なすった」
「お邪魔するよ…今年も賑やかしいものだね」
「誰も彼も、新しい年が嬉しくて堪らないのさ。おおい誰か、重箱を持っておいで」
はいはい只今、と忙しなく動いているのは奉公人の小寒だ。
空けられた席に腰を下ろせば、隣に付いた奉公人の大寒が酒を構える。
徳利から注がれる熱燗からよい香りが立ち、冷えた身体に染み渡る。
目の前で開かれた重箱には目にも楽しい料理が所狭しと詰められている。
開かれた襖の向こうでは七草の面々が音楽を奏でて舞い踊っており、なんとも華やかな宴席だ。
屋敷には、人も動物も八百万の神も誰も彼もがひっきりなしに訪れる。挨拶をして酒を飲み、食事に舌鼓をうっては帰っていく。
家主である睦月は既に随分と酒が入っているようだ。顔を赤らめながらも、機嫌よく杯を傾ける。
小寒があちこちと動き回って支度をする一方で、大寒は座敷に腰を据えてゆったりと構えている。
奉公人の着物の胸元には揃いの赤い水引飾りが結ばれ、誰も彼もが期待と幸福に顔を輝かせている。
華やかで賑やかしい場の空気を、胸いっぱいに吸う。
新しい年だ。
ああついに、新年の幕が開かれた。
「今年も良き年であるように」
「乾杯」
睦月からのふるまい酒をクッと一息で喉に流す。
脇からぐいぐいと頭を捩じ込んできた猫の款を膝上に乗せ、暫し、慶びに満ちた宴に身を浸した。