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32/33

対決・魔王!!

 33階を抜け、双塔に分岐する都庁の上層部。そこに続く長い階段を、火星車ひぐるまハルトは一人ひた走っていた。下の階では仲間たち──みひろ、美玲、月奈、宗冬──がモンスターを食い止めている。彼らが足止めを喰らっている間に、結界が生きているうちに、魔王の本拠を探り出さねばならないのだ。


 階段の踊り場を曲がるたび、砕けたガラス窓から見える『汚染された東京』がハルトの視界に入る。ビル群はすでに闇の結界に呑まれたかのように暗く歪み、遠方では無数の魔物が飛び交っている。彼はサーベルを強く握りしめ、(絶対にここで終わらせる)と心中で決意を固めた。


 やがてたどり着いた45階、展望台フロア。

 観光客が大勢訪れるはずのスペースは、崩れたカウンターや折れ曲がった柵によって、見る影もない。床や壁は黒い紋様で蝕まれ、窓ガラスにはひびが走り、夜のような暗い空が見下ろしていた。



「ここが……最上階か」

 ハルトは警戒しながら足を進める。かつては土産物の小さな売店や休憩スペースがあった痕跡が見えるが、そこには誰もいない。ただ、背筋が凍るほどの“存在”だけが空気を満たしている。


 そして、ふと窓際に気配を感じた。

 ――そこに立っていたのは、闇色のローブに身を包んだ人影。顔は仮面に覆われ、その全身が淡い黒いオーラを放っている。結界の中心であることをうかがわせる、圧倒的な“魔力”の気配だった。


「……魔王、だな」

 ハルトはサーベルを引き抜き、低く構える。敵がこちらに気づいた瞬間、強烈な魔力が辺りを震わせた。


「ようやく来たか。待ちわびたぞ、火星車ハルト」

 深みのある声がこだまする。まるで幾重にも重なった声のように響き、ハルトの心をざわつかせた。


「なぜ俺の名前を……?」


 魔王は微動だにせず、背中越しに汚染された街のビル群を眺めながら語る。

「世界をこんなふうにしてしまったのは……オレだ。その責任を取らなければいけない。だが同時に、オレは“お前”を倒す義務がある。火星車ハルト」


「どういうことだ? 責任って、何を――」


「お前はこの世界を救うためにここへ来たのだろう?」

 魔王が仮面越しに鋭い眼差しを向ける。

「ならばオレは、その可能性をへし折らねばならない……自分自身のためにも」


 ハルトは一瞬、言葉を失う。魔王の言葉には自責とも嘲笑とも取れない妙な含みがあった。だが、その迷いは一瞬で消え、魔王は腕を振り上げ、黒い魔力の奔流を生み出す。床の紋様がぎらりと輝き、吹きつける魔風がハルトを包む。


「くそっ、わけは分からないが――来るなら受けて立つ!」  

 ハルトは地を蹴り、サーベルで魔力を切り裂きにかかる。


 魔王の一撃は重く、闇の力をまとった魔法の斬撃が展望台を切り裂く。窓枠が吹き飛び、床が砕け散る。ハルトは類感魔術を使い、あらかじめ用意していた人形へダメージを逃がしつつも、その力の余りの強大さに血の気が引いた。


「なんて力だ……でもここで負けるわけにはいかない!」


 サーベルを低く構え直し、魔王の斜め上からの一撃をぎりぎり弾く。火花が散り、魔王がさらに追撃を放つ。

 ふと、ハルトは魔王の剣捌きが自分と似ているような、奇妙な既視感を覚えた。動きのリズムやステップが、まるでハルト自身の剣術と呼応するかのように絡み合う。


「お前……いったい……」

 ハルトが問う間もなく、魔王は言葉を発せず、一息に闇の結界を強める。建物全体がぐらつき、壁のコンクリートが剥がれ落ちた。


「ここで……終わりにする……!」

 魔王の仮面の奥から苦しげな吐息が漏れた。その瞬間、ハルトは反射的にサーベルを大きく振りかぶり、正面から渾身の一撃を叩き込んだ。

 咆哮のような音がこだまし、魔王の身体は闇のきらめきを散らしながら、仮面とローブを残して崩れ落ちる。




「ハルトくん! 大丈夫!?」  

 展望台の扉が破れ、みひろ、美玲、月奈、宗冬の4人が駆け込んでくる。魔物との激戦で体は傷だらけだが、何とか追いついた形だ。


 しかし、そこにあの『魔王』の姿はなかった。

 ハルトは床に崩れかけたコンクリートの上でサーベルを下ろし、荒い息をついている。


「魔王は……倒した。ミッションは終了だ」  

 ハルトはそう呟き、ホッとしたように目を閉じた。


「そ、そんな……一人で……?」  

 みひろが辺りを見回すが、確かに闇の気配はかなり薄れている。仮面らしき破片が床に残っているだけ。


「どういうこと? ハルト、何か聞けなかったの?」

 美玲が急ぎ寄って問いかけるが、ハルトは首を横に振るばかり。


 宗冬は大剣を下ろし、唇を噛む。

「まさか、あいつを本当に倒したのか……? 拍子抜けというか、いろいろ聞きたいことあったんだが」


 月奈は一歩退いて壁に手を当て、そこにうっすらと残る黒い模様を見つめる。何かが胸につかえるような違和感を拭えない。

 「……ホントに終わり、なの……?」


 やがて結界の崩壊とともに、ビル全体を満たしていた魔力が消失する。館内放送なのか、あるいは通信越しか、学院の教官・鬼塚先生の声がかすかに届く。

『……魔王の撃破を確認しました。ミッション成功とみなします。帰還プロトコルを開始】


「とりあえず……帰ろう」

 ハルトは仲間たちを見回す。誰もが釈然としない顔だが、一応の“クリア”という結果を受け、ビルの揺らぎが収まるまで余計な危険は冒せない。


「まぁ……なんだか消化不良だけど、ミッション上ではこれが終わりなのかな」

 みひろが嘆くようにつぶやき、宗冬は肩をすくめる。美玲はタブレットを見やり、ノイズが解消されていく画面に複雑そうな表情を浮かべた。


 月奈だけは、ハルトの顔を一瞬じっと見つめた。何か言いたそうな光が宿っている。でもいまは黙っているしかない……という様子。


「……戻ろう。学院のみんなにも無事を伝えないと」

 ハルトがサーベルを収め、4人はうなずき合う。魔王城と化していた都庁の展望台は、不思議なほど静寂のまま。ほんの数分前まで繰り広げられていた死闘が嘘のように、闇の結界は跡形もなく消え去っていた。



 光が収束し、ハルトたちの意識が引き戻される。視界が白くなって暗転した後、目を開けば、そこは学院のVR実習室――無機質なブースが並んだいつもの光景だ。


「はぁ……帰ってきたな」  

 宗冬がヘッドギアを外し、長い息をつく。


 みひろはマスク越しに汗をぬぐいながら、「ふうっ、やっと終わった……」とホッとした顔を見せる。


「やけに手こずったわね……でも成功、なんでしょ? 魔王撃破と認定されたわけだし」

 美玲はタブレットを確認する。ミッションのログには『クリア』と表示されている。


 だが、そのとき、月奈のブースだけが空であることに気づく。

 みひろがキョロキョロと周囲を見回し、「あれ、月奈ちゃんは?」と訝しむ。


「……月奈がいない? まさか、まだVR内に残ってるのか? いや、そんなはず……」

 宗冬がブースに駆け寄る。扉は開いたまま、中はもぬけの殻だ。モニターを確認しても『ミッション終了』のステータスが出ている。


「消えた……?」

 ハルトは心臓が大きく脈打つのを感じる。さっきまで一緒に戦っていた月奈が、どこにもいない。VRログ上は“正常終了”になっているのに、現実世界の実習室にその姿は見当たらない……。


 学院スタッフが駆け寄り、操作パネルを調べるが、ログは壊れておらず、彼女がきちんとログアウトした形跡が残っていると報告する。

「でも、いったいどこへ……?」


 ハルトは焦るようにブース内を見回し、仲間たちも呆然とする。

 VRミッションは成功。魔王は倒された。だが、月奈は行方不明。

 不穏な空気が実習室を包み、学院のスタッフも鬼塚冴子教官も困惑を隠せない。


(どうして、月奈が……? 彼女は最後まで一緒にいたはずなのに……)

 ハルトは震える声でそう呟きながら、消えた仲間への不安に駆られていた。

 こうして都庁“魔王城”での決戦が終わりを告げ、VRミッションは終了扱いとなったが、その裏で新たな謎が深まっていく。


――物語は次なる展開を呼び起こそうとしていた。

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