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死闘・巨大猿ジーラ

 新宿駅の巨大迷路を何とか突破し、地上に出たハルトたちは、中央通りを西へ進みつつ都庁を目指していた。結界が弱体化しているとはいえ、周囲のビルや道路には魔物の影がちらつき、一行は気を緩められない状況だ。


「駅の中に比べれば見通しはいいけど……この辺りも瓦礫が多いわね」

 美玲がタブレットを見つめ、警戒の色を深める。

「汚染がやや強くなってる。魔王の力が近づいているせいかも」


「もう少しで都庁……なんだけど、やっぱり魔物がうろついてるんだろうな」

 みひろが十文字槍を抱えながら息をつく。今までの戦闘で疲れがたまってきたが、まだ先は長い。


「……っ! みんな、あれ……何かいる!」

 月奈が突然レイピアを構え、ビルの陰をにらむ。遠くのビル屋上付近に、巨大な影が動いたように見えた。


 その“影”は次の瞬間、驚異的な跳躍力で地上へ飛び降り、ものすごい衝撃波を残して着地する。ビルの壁が粉々に崩れ、アスファルトがひび割れた。


「な、なんだ、あれ……猿?」

 ハルトが目を見開く。目の前に現れたのは、巨大な猿型モンスター。体高は3メートル以上はあるだろうか、逞しい四肢を支えに二足で立ち、赤い瞳がぎらついている。毛並みは荒々しく、背中には黒い魔力のような筋が脈打っていた。


「ジーラ……!!」

 自衛隊とハンターの間で噂される、猿系の巨大魔物の名が脳裏をよぎる。これまで何度も討伐隊を退け、人里を荒らしてきた凶暴な存在だという。


「くるぞっ!」

 宗冬が大剣を構え、『タウント』を発動。魔法陣が床に浮かび、ジーラの注意を強制的に引き寄せるはず……だったのだが。


「ぐおおおぉっ!」

 ジーラが咆哮すると、タウントの効果を受けつつも、凄まじい腕力をもって道路を叩き割り、コンクリート片をむしり取るように投げつけてくる。ミサイルのような破壊力を帯びたコンクリート塊がハルトたちを直撃しそうになるが、月奈が瞬間移動でピンポイントで仲間を逃がしていく。


「やばっ! 何これ、ビルの破片を投擲してくるなんて……」

 みひろが冷や汗をかきつつ、十文字槍を手元にアポートする。ジーラの腕力は桁外れで、軽々と数メートルのコンクリート塊を放り投げてくるのだ。


「ぐっ……っ!」

 宗冬がタウントを維持している間に、ジーラは彼に向けて体当たりを仕掛ける。巨大な腕が鉄塊のように振り下ろされ、宗冬が盾代わりに大剣で受け止めると、壮絶な衝撃音が鳴り響いた。


「強すぎる……! まともに喰らったら俺でも危ない!」

 宗冬は必死に踏ん張るが、足元がアスファルトごとめり込んでいく。ジーラの赤い瞳が怪しく光り、次の攻撃を繰り出そうと腕を振り上げた。


「月奈、頼む!」

 宗冬が声を張り上げると、月奈はすかさず瞬間移動を発動。宗冬の背後に立って彼の肩を掴み、二人まとめてワープさせる。するとジーラの拳は空を切り、地面に大穴を開ける形になった。


「ナイスコンビネーション!」

 みひろがすかさず槍を投げ、ジーラの脇腹を切り裂く。だが、その巨大な体には深い傷にはならないようで、ジーラはほとんど怯まずに雄叫びを上げる。


「どうする……!? 攻撃が通りづらい上に、動きが速い!」

 ハルトがサーベルを握りしめ、類感魔術を考えるが、相手が想像を超えるパワーとスピードを持つ猿型魔物では、通常の戦法では分が悪いと感じた。


 拮抗状態が続く中、みひろがふと何かを思い出したかのように声を張り上げる。


「ハルトくん、猿って……現実のサル科の生物なら大きな音や閃光に弱いって聞いたことない!? 確か動物園で飼育員が言ってたんだよ! あと、目線をじっと合わせると興奮が高まるとか!」


「確かに猿の習性が残っているかもしれないわね。閃光とか音に驚いて逃げ出すケースはあるって本で読んだことがある」

 美玲がタブレットを見ながらヒントを探すように言う。しかし、みひろのアポートを使うには印を刻む手間がかかりすぎるし、そもそも発動条件を満たせない状況だ。


「……じゃあ、俺がスマホを変形させようか」

 ハルトが唐突に提案し、サーベルを床に突き立てた。


「スマホを……変形?」

 宗冬が疑問を口にする。


「類感魔術で『音響爆弾』にするんだ。僕とみひろ、それに宗冬俺らのスマホを音と閃光を発する爆弾っぽくして、何とかジーラを怯ませることができるかもしれない――月奈と美玲のスマホは温存しておこう。地図は美玲に頼りっぱなしだしな」


「うわ、マジで? でも壊れたら困るじゃん!」

 みひろが苦笑しつつ、ポケットからスマホを取り出した。

「まあ、このVR世界じゃ実体はシミュレータ上の仮想端末だけど……やるしかないか」


「いいわよ。実際の端末が壊れるわけでもなし。早くやって!」

 美玲が周囲を警戒しながら急かす。ジーラは少し離れた位置でウロウロしているが、すぐに次の突撃を仕掛けてくるだろう。


「よし、いくぞ……『響け、我が声の鏡よ。静寂に潜み、雷を呼ぶ者となれ!』」

 ハルトは床に簡易の魔法陣を描き、みひろと宗冬のスマホをそこへ置く。自分の分も含め、合計三台を集中させる形だ。深呼吸のあと、ハルトはペンのような道具で端末に印を刻む。そして軽く呪文を唱えると、端末がうっすらと光りだした。


「これで……音と光が増幅されるはず。『猿』の聴覚と視覚を狙うなら効果あるかも!」

 ハルトは端末を拾い上げ、ロック画面を確認すると、すでにアイコンが奇妙に変化している。どうやら音響波を一気に放出する機能を魔術で付与したようだ。


「すげえな。現代知識と魔術の合わせ技ってわけか」

 宗冬が大剣を手に身構えながらニヤリと笑う。

「猿野郎が見たことないガジェットで、おとなしくなればいいんだが……」


「俺が足止めする!」

 ハルトがサーベルを翻してジーラの前に立ちふさがる。ジーラは赤い瞳を光らせ、腕を振りかぶって豪快なパンチを放つ。


「月奈、もう一度やるぞ! 宗冬、タウント!!」


「了解!」

 宗冬が大剣をかざし、タウントを再発動。ジーラは再び彼を標的とみなし、雄叫びを上げると拳を振り下ろす。

 同時に月奈が素早く宗冬を抱え、瞬間移動で真後ろに回り込む。一瞬焦点を失ったジーラが、猛烈な勢いで周囲を見回して吠える。


「今だ、みひろ!」


「これでどうだああ!」

 みひろは、ハルトが類感魔術で変換したスマホを音響爆弾として投げつける。画面にタップした瞬間、端末から閃光と共に強烈なサイレン音が鳴り響く。爆竹めいた破裂音こそないものの、猿の敏感な耳を破壊するかのような高周波が放出される。


「グルアアアァッ!?」

 ジーラが大声で呻きながら両目を押さえるように頭を振った。閃光に加え、耳障りな高周波によって平衡感覚が乱れたのか、一気に動きが鈍くなる。


「やっぱり、効いてるぞ!」

 ハルトがサーベルを構え、魔物の巨大な腕の内側に斬り込む。宗冬も大剣で追撃し、月奈は背後からレイピアで腱を狙い、みひろはさらに別のスマホ爆弾を投げ込む。


「猿だからこそ、この作戦が通じたね! 現代知識バンザイ!」

 みひろが“音響爆弾”を連続使用して確実にジーラを翻弄する。何度か強烈な振動を地面に与えられながらも、チーム全員で協力して攻撃を重ねるうちに、ついにジーラは大きく膝をついた。


「ぐおおぉ……!」

 巨体を震わせながら、ジーラが最後の咆哮を上げる。最終的にはハルトのサーベルが首筋をかすめ、宗冬の大剣が胸を貫いた。轟音とともにジーラは前のめりに崩れ、黒い魔力の残滓を放出して消滅していく。


「ふぅ……なんとか倒したね。皆、お疲れ!」

 みひろが肩を回し、ほっと息をつく。投げられた“スマホ爆弾”の端末は既に魔力を放出しきって壊れてしまったが、VR世界のものなので深刻なダメージではない……というところが救いだ。


「強烈だったな……。やっぱり猿科のモンスターは動きが速いし、パワーも半端なかった」

 宗冬が大剣を収めつつ、タウントで酷使した体をほぐす。

「でも、現代知識があったから助かったわけだ」


「月奈もありがとう。瞬間移動でうまく位置取りを変えられたから、ジーラの攻撃をかわしやすかったよ」

 ハルトが笑みを向けると、月奈はわずかに頬を染めながら視線を落とす。


「……うん。今日は暴発もなかったし、良かった」


「何にせよ、ここから都庁までの道はまだ険しいけど、ひとつ大きな障害を乗り越えられたのは大きいね」

 美玲がタブレットで周辺の汚染度を確認しながら言う。「そろそろ都庁が視界に入る頃合いだし、次はいよいよ『魔王』かしら」


 こうして、巨大猿ジーラとの激しい戦闘は幕を下ろした。


 果たして、この先さらに待ち受ける『魔王』の障壁を、彼らは乗り越えられるのか――。もはや引き返す道はない。彼らは再び気を引き締め、都庁へと足を進めるのだった。

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