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ハンターとの共闘

 高層ビルが林立する街並み。横断歩道や信号、コンビニの看板など、どこを見ても現実の日本と変わらない。しかし、空には黒い飛竜のような魔物が舞い、ビルの壁面に魔力の結界が展開されている。

 ハルトたちは目の前の光景に戸惑いながらも、さっそく行動を開始した。


「まるで本当の東京だね……でも、ところどころファンタジー要素が混じってて、すごく不思議な感じ」

 みひろが足元のアスファルトを軽く叩きながら呟く。

「このまま探索しながら、自衛隊とかハンターの人たちに話を聞ければいいんだけど……」

 宗冬は大剣を背負いながら、警戒の視線を周囲に走らせた。


 一方、美玲はタブレット型のVRインターフェースを開き、情報を整理している。

「どうやら、東京が『汚染』と呼ばれる現象で最も危険な状態らしいわ。都心部では多数の魔物が出没して、自衛隊が結界を張ってるとか」


「ああ、現実準拠だからタブレットが使えるんだな! ……魔物を凶暴化させてる『魔王』って、どんな奴なんだろう?」

 ハルトが考え込むように言うと、月奈は静かに唇を引き結んだ。

「……まだ誰も実像を知らないらしいわ。噂だけが広がっていて、実際に会った者はごく少数とか」


 突然、遠くから悲鳴と爆発音が響き渡る。ビルの向こうで何かの戦闘が起きているようだ。

「行ってみよう。最初の手がかりを見つけるためにも、動かないと始まらない」

 ハルトが声を上げると、みひろや宗冬も頷いた。


足早に向かった先は、オフィスビルが立ち並ぶ大通り。そこでは自衛隊が設置したバリケードが車線をふさぐように並べられ、ブロック塀のように身を隠せる陣地を作っていた。迷彩服の隊員たちがライフルや盾を構えて警戒を続けている。しかし、その一角には、明らかに雰囲気の違う人々が混ざっていた。


「……あれ、ハンター風の人たちなんだろう?」

 みひろが槍を構えながら目を細める。


 彼らは近代的なコンバットスーツを着込み、ヘルメットや防弾チョッキのような装具を身につけている。だが、手にしている武器は場違いなくらい多彩だった。大剣や長弓といった、まるで中世ファンタジーに出てくるような武器や、魔法の杖らしきものまで見える。中には光学サイトを載せた銃火器を構えた者もいて、統一感のなさが際立っている。


「まるでゲームの世界観を持ち込んだようね……」

 美玲が冷静な視線を送る。最先端の戦闘装備に、思い思いのヒストリカルな武器を合わせている姿は、たしかに奇妙に映る。


「現実じゃあり得ない組み合わせもVR世界ならでは、って感じがするけど……」

 ハルトはそうつぶやきながらも、彼らの眼差しに焦りと必死さが宿っているのを感じた。いかにも“半ば独学で戦っている民間人”という雰囲気だ。


 その彼らが、今まさに自衛隊と連携しながら、大通りを荒らす魔物の大群を迎え撃っていた。ゴブリンやオークに似た人型の魔物たちが、車を横転させ、店のガラスを破壊しながら突き進んでくる。


「市民の避難はどうなってるんだ……」

 宗冬が大剣を背中から下ろし、身構える。見れば、魔物が暴れまわる後方で逃げ遅れた人々が悲鳴を上げている。


「私たちも加勢しよう。ここで食い止めないと、一般人が危ない」

 美玲がタブレットを閉じ、仲間たちに視線を送った。


「よし、行くぞ!」

 ハルトの号令で、五人は自衛隊と“民間人ハンター風”の集団が作ったバリケードの先へと飛び出す。


 すでに打ち払われた廃車やコンクリート障壁が行く手を阻む中、魔物の大群がごう音とともに押し寄せてくる。荒っぽい打撃でビルのガラスが砕け、道路には瓦礫が散らばっていた。


「タウント!」

 宗冬が大剣を地面に振り下ろし、魔法陣を発動させる。複数のオークが一斉に宗冬を目標と定め、咆哮を上げながら突進してきた。


「大丈夫、数は多いけど、俺が全部引き受ける!」

 宗冬は盾代わりにもなる大剣を構え、真正面から受け止める。ゴツンという衝撃音が響き、彼の足元のアスファルトが軋む。だが、彼の身体は揺るがない。


「みひろ、サポート頼む!」

 ハルトが声をかけると、みひろは軽く笑って槍を翻す。


「行っけぇー! アポート!」

 十文字槍を投げつけ、オークの背後を突いたかと思うと、瞬時に槍が手元へ戻される。その繰り返しで、オークの体力を着実に奪っていく。


「この辺りの連携は慣れてきたわね」

 美玲は狙うべきポイントを正確に見極め、魔物たちの死角へハルトやみひろを誘導する指示を飛ばす。

 月奈はビルの影を素早く瞬間移動しながら、レイピアでトドメを刺す動きを繰り返す。


 そんなハルトたちの動きに、自衛隊やハンターの集団も驚いたような表情を見せた。やがて、息を呑むほどの連携を見るや否や、すぐに呼吸を合わせて攻勢に転じる。


「ありがとう! 助かったよ、そこの君たち!」

 ハンターの一人が声を上げ、ゴブリンの頭を剣で叩き割ると、アサルトライフルを構え直す。銃からは魔術めいた弾丸が撃ち出され、魔物が金属音とともに消滅していった。


「やっぱり不思議な組み合わせね……銃かと思ったら、魔力弾を放ってるみたい」

 美玲が目を凝らすが、細部はよく分からない。


「まずはこの区画を制圧しよう。細かい話はそのあとだ!」

 ハルトはさらに前へ踏み出し、類感魔術を発動する。魔物の攻撃を事前に用意していた人形へ肩代わりさせながら、サーベルで急所を突く。魔物は断末魔を上げながら崩れ落ちた。


 ほどなくして、ゴブリンやオークらの大群は勢いを失い、散り散りに逃げていった。ハンターたちや自衛隊の追撃を受け、一部は魔力の残骸だけを残して消滅する。


「ふう……何とか片付いたね」

 みひろが汗を拭いながら笑う。まわりには荒れた道路と壊れた車が散乱し、街は戦場のような様相だった。

 ──だが、その直後、ほんの数秒間だけ月奈の姿が消えた。


「え……月奈?」


 ハルトが顔を上げると、さっきまでそばにいたはずの月奈がいない。ほかの仲間も一瞬視線を走らせるが、月奈の気配すら感じられない。わずかにビルの壁面が揺らいだような残像だけが残っている。


「また瞬間移動? でも、どこに……」

 みひろが周囲を見回しながら首をかしげる。


 その疑問が生まれてからわずか数秒後、月奈は背後の小道で突然姿を現した。


「月奈、どうしたの? 今どこに飛んでた?」

 ハルトが駆け寄り、息を荒くしている月奈に声をかける。


「……なんでもない。ちょっとスキルのコントロールを誤っただけよ」

 そう短く言った。仲間たちが視線を注ぐと、月奈は気まずそうに目をそらした。


「ほんとに大丈夫?」

 みひろが問い詰めそうになるが、月奈はそっけなく顔を背ける。


「問題ないわ。すぐ戻ってきたでしょ?」


 そう言い切る月奈の表情には、どこか焦りが見えた。けれど、彼女が口をつぐんでしまうため、これ以上問いただすこともできない。ハルトは気になりつつも、まずは月奈の無事を確認して話を切り上げる。


「ありがとう、君たち!」

 ハンター風のリーダー格らしき男が駆け寄ってきて、息をつきながら礼を告げる。彼らはやはり、現代的な防具に刀剣などの武器を身に着けた寄せ集めの集団。しかし、その眼差しには強い決意が見て取れる。


「いえ、こちらこそ。私たちも何が起きてるか、まだ掴めてないんです」

 ハルトが丁寧に応じると、相手は苦い顔でうつむいた。


「実際、俺たちも詳しくは分からなくて……ただ、『魔王』のせいで魔物がどんどん強くなってるって話だ。東京は特に汚染が進んでるから、ハンターも人手不足で」


 そう言って肩を落としたのは、負傷した仲間を支えながら歩いてきた青年――先ほど一緒に魔物を撃退した『民間人ハンター』のリーダー格らしき男だ。彼はコンバットスーツに長剣という、ミスマッチな装備を身につけており、疲労が色濃くにじむ表情で苦笑を浮かべている。


「ハンター?」  

 ハルトが首をかしげると、男は「え?」と驚いた顔になり、続けて怪訝そうに訊き返した。


「まさか君たち……ハンターじゃないのか?」


 言葉を途切れさせたまま、男はハルトたちの姿を上から下まで見渡した。確かに、みひろの十文字槍や宗冬の大剣、あるいは月奈のレイピアはどこかファンタジー寄り。しかし、彼らがまるで手慣れた戦士のように魔物を蹴散らした事実は否定できない。男の目には「何者だ……?」という疑問がありありと浮かんでいた。


「いや、まぁ、私たちも“似たようなもん”っていうか……別の地区から来たんだよね」  

 みひろが曖昧に笑って誤魔化す。視線をそらすように、天を仰いだ。


「そう……か。ハンターっていうのは、要するに『身体能力や特殊スキルに目覚めた一般市民』さ。魔王が出現してから、普通の人が急に魔力を使えるようになるとか、怪力を発揮するとか、そんな現象が増えたんだ。それで軍や警察じゃ手が回らない分、俺たちハンターが魔物を討伐してる」


「なるほど。『魔王』がもたらした影響が、それほど大きい……」  

 美玲が理解したように頷くと、相手は大きく息をつく。


「そういうこと。ご覧のとおり、東京は最も深刻な汚染地区だ。魔物の強化が進んで、ハンターも人手不足。自衛隊だけじゃ対処が間に合わない……」


「やっぱり『魔王』なんだ……」  みひろが息を呑む。さっきの戦闘での激しさを思い出し、あらためて魔王という存在が引き起こしている脅威の大きさを痛感しているようだった。


「でも、その『魔王』って、いったい何者なの? 姿は分かってるの?」


 ハンターのリーダー格は、渋い顔をして首を振った。


「はっきりした姿を見た人はほとんどいないんだ。気配だけは異常に大きくて、都庁あたりが『魔王城』って呼ばれてるが、実際どういう姿なのか知らない。上層部は何か掴んでるかもだけど……一般ハンターには情報が降りてこないんだよ」


「都庁……汚染が一番強い地点か。なるほど」

 ハルトが地図を開きながらつぶやくと、男は顔をしかめる。


「そう。新宿駅から都庁付近は結界が張られてるらしく、下手に近づいたハンターがみんな行方不明になったって話だ。正直、下手に関わりたくないが、このままだと東京はもたない。首都機能はとっくに移動したって話だ」


「……魔王、か」

 みひろは息を呑むように繰り返す。結界を張り、魔物を増強し、都市を侵食する謎の存在——それが“魔王”というわけか。確かに状況としてはゲームのラストボスめいているが、現実にこれだけの被害が出ている以上、笑って済む話ではない。


「でも、君らは強い。もし一緒に戦ってくれたら助かるんだが……まあ、余計なお世話かもな」

 男は苦笑しながら、彼らに視線を戻す。

「少しだけ休んだら、また俺たちは別のポイントへ行く。どこもかしこも、こんなふうに魔物がわき出てるから」


「それじゃあ、俺たちは別ルートで情報を集めながら、都庁方面に近づこうと思う。こっちも『魔王』の正体を突き止めたいんだ」

 ハルトが微笑んで言うと、男は「それは頼もしい」と驚きながら頷いた。


「助かるよ、ありがとう。ともかく、魔物が強化されてるのは間違いない。気をつけて、そして魔王を倒せるチャンスがあるなら頼む。俺たちもハンター仲間に声をかけて、できる範囲で支援を続けるから」


「ええ、こちらこそ助かったわ」

 美玲が丁寧に返事をし、男はその場を離れる。


 去り際に、彼は振り向いて一言だけ言い残した。

「……東京を救えるのは、あんたらみたいに本気で立ち向かう奴らだけかもしれない。頑張ってくれよ」


 それはあまりにも切実な祈りのように聞こえた。ハルトたちは彼の背中を見送り、ビルの壁に寄りかかってひと息つく。


「また厄介な話になったね……。」

 みひろが鼓動を落ち着かせるように深呼吸。


「でも、これが私たちのミッションだもの」

 美玲は言葉を短く切るが、その声には覚悟が滲んでいる。


「さて、行くか」

 宗冬が大剣を背負い直し、月奈は無言で頷く。


「都庁。結界。行方不明者……確かめるべきことが増えたな」

 ハルトは改めて地図を見下ろしながら思う。東京を蝕む汚染、そして“魔王”という最悪の存在。

「……絶対、この戦いを終わらせよう。何が来ても、みんなで乗り越えるんだ」


 強い決意を込めたその言葉に、仲間たちが頷き返す。やがて夜の帳が降りるVR都市で、彼らの冒険はまだ始まったばかり。次に何が待ち受けているのか、誰にも分からないまま、それでも彼らの足は都庁方面へと進んでいくのだった。

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