幕間 夏祭り
夏の夜風が涼しく街を包む中、火星車ハルトはスマホを片手に、駅前の待ち合わせ場所で立ち尽くしていた。
「お、みひろからメッセージか……」
『今日は浴衣で行くよ!みんなも着てきなさいね!』
画面に浮かぶその一文を見て、ハルトは思わず苦笑した。
「浴衣か……さて、どうしたもんかな」
その夜、ハルトは家で埃をかぶっていた浴衣を引っ張り出し、母親に着付けを手伝ってもらった。
「たまにはいいじゃない、せっかくのお祭りなんだから」
久しぶりに袖を通すと、少し背筋が伸びた気がした。
〇
祭り当日。駅前にはすでにみひろの姿があった。
「ハルトー!」
浴衣姿のみひろが手を振って駆け寄ってくる。鮮やかな赤に朝顔の模様が映える一着だった。
「どう? 似合う?」
「まぁ……うん、似合ってる」
「『まぁ』って何よ!」
ぷんぷんと膨れるみひろに苦笑していると、次に現れたのは黒地の浴衣を着た美玲だった。
「待たせたわね」
淡々とした声とは裏腹に、その姿は周囲の目を引くほどだった。金魚の模様が揺れ、艶やかさすら感じさせる。
「すごいな、美玲……なんか貫禄が違う」
「着物を気慣れているからかしら」
「それで?」
続いて月奈が現れた。涼しげな白地に淡い青が差した浴衣をまとい、静かに佇んでいる。
「お待たせ」
「似合ってる」
自然に言葉がこぼれた。月奈は小さく頷くと、さらりと銀髪を耳にかけた。
「さて、宗冬はどこだ?」
「ここだよ」
いつもの普段着で登場する宗冬。浴衣を着るつもりはなかったらしい。
「浴衣なんて動きづらいからな」
「らしいな」
そんな他愛ないやりとりをしながら、一行は祭り会場へと向かった。
祭り会場はすでに賑わいを見せていた。提灯が軒先に並び、屋台が立ち並ぶ。かき氷や焼きそばの香ばしい香りが漂い、通りは人々の声で埋め尽くされている。
「どれから行こう?」
みひろが目を輝かせながら周囲を見回す。
「まずは軽く腹ごしらえね」
美玲がたこ焼きを注文し、次々と口に運ぶ。みひろも負けじとかき氷を頬張るが、頭を抱えて悶絶していた。
「冷たすぎる!」
「だからゆっくり食べなさいって言ったのに……。」
その後、金魚すくいや射的を楽しみ、少しずつ夜が更けていく。ふと目に入ったのは、通りの端にぽつんと立つ『水晶占い』の屋台だった。
「あそこ、行ってみない?」
月奈が指をさした屋台の中には、怪しげな水晶が鎮座している。そして、その奥に座る人物に、ハルトたちは目を疑った。
「……学長?」
「やあ」
そこにいたのはアレスタ・クローリーだった。
「学外でもあまり羽目を外さないようにね」
「何してるんですか、こんなところで」
「趣味ですよ」
淡々と答えるアレスタを前に、みひろが勢いよく前に出る。
「じゃあ、占ってください!」
「いいでしょう」
アレスタは水晶に手をかざし、少しの沈黙を経て口を開いた。
「……ふむ、これは興味深いですね」
「えっ、何が見えたんですか?」
「火星車君の姿が映っています」
「えぇ!?なんでハルトが?」
みひろが驚いてハルトの肩を揺さぶる。
「運命の相手ってコト!?」
「違いますよ」
アレスタが即座に訂正するが、みひろは食い下がる。
「でも水晶に映るなんて、絶対何かあるはず!」
「あるのは火星車君が君たちの運命に関わる人物だということです」
アレスタは淡々とした口調で応じたが、みひろは納得いかない顔をしていた。
「全員?」
月奈が小さく眉を上げる。
「未来って……何が起こるんですか?」
宗冬が腕を組んで問いかけると、アレスタは水晶を撫でながら答えた。
「それはまだ定まっていません。ただし、君たちがこれからも力を合わせれば、どのような困難にも立ち向かえるでしょう。火星車君はその中心となる存在です」
「中心、ねぇ……」
美玲がちらりとハルトに視線を送る。
「なんか、プレッシャーだな」
ハルトが苦笑すると、みひろがくるりと振り向き、ハルトの肩をぽんっと叩いた。
「まぁ、ハルトなら大丈夫でしょ!なんだかんだで頼りになるし!」
「無責任だな……」
それでも、ハルトは少し嬉しそうだった。
「占いはこれで終了です」
アレスタが柔らかく微笑むと、水晶が淡く光を放ち、次第にその輝きを失っていった。
〇
夜が更けるにつれ、祭りの盛り上がりは最高潮を迎えた。花火が始まると、一行は広場に移動し、夜空を見上げる。
「綺麗ね……」
美玲がぽつりと呟く。
「こうしてみんなでいると、特別な気がするな」
ハルトが呟くと、みひろがにっこり笑った。
「来年もまた一緒に来ようね!」
「そうだな」
月奈が静かに微笑む中、遠くで最後の花火が打ち上がり、夜空を彩った。
帰り道、もう一度水晶占いの小屋を振り返ると、そこにはもうアレスタの姿はなかった。
「……消えた?」
「さすが学長、謎が多いわね」
ハルトたちは笑い合いながら、祭りの余韻に浸りつつ帰路についた。
そして、夜風が夏の終わりをそっと運んできたのだった。




