魔女と黒死の街を救え!(4)
ヴァルンシティの街に戻ると、霧が薄くなり始めていた。石畳を踏む足音が響き渡り、人々の表情にも少しずつ安堵が戻ってきている。
「本当に霧が晴れてきた……」
みひろが空を見上げて呟く。
「魔獣を倒した影響が、確実に出ているみたいね」
美玲が冷静に街の様子を見渡した。
「じゃあ、セラフィナのところに行こうぜ。報告もしないとな」
宗冬が大剣を肩に担ぎながら歩き出す。
「そうね。きっと彼女も気づいているはずよ」
ハルトは静かに頷いた。
セラフィナの住む小屋に着くと、扉の前で彼女が待っていた。
「戻ってきましたね」
セラフィナは静かに微笑み、手を胸の前で重ねる。
「下水道の魔獣は倒しました。街の霧も消えかけています」
ハルトが報告すると、セラフィナは小さく頷いた。
「ありがとうございます。あの魔獣が病を撒いていた元凶でした。おかげで街も少しずつ回復するでしょう」
セラフィナの表情は柔らかいが、その瞳の奥には複雑な感情が垣間見える。
「でも、気になることがあります」
美玲が前に出て、セラフィナを見つめた。
「なぜ、あの魔獣は街に現れたのですか?まるで、意図的に召喚されたようでした」
その言葉にセラフィナは少し視線をそらした。
「……ええ。その通りです」
「やっぱり、何か知ってるんだな?」
宗冬が険しい表情で問い詰める。
「ひとつだけ、お伝えしておきたいことがあります」
セラフィナがふと顔を上げ、迷うように言葉を選んだ。
「実は、私は……ただの薬師ではありません」
「……?」
ハルトが首をかしげる。
「私は……魔法族の血を引く者です」
「魔法族?」
美玲がわずかに目を見開く。
セラフィナはゆっくりとフードを下ろした。淡い金髪の間から、彼女の耳がはっきりと見えた。それは人間のものよりも少しだけ尖っていた。
「魔法族……ってことは、人間じゃないのか?」
宗冬が驚きの声を上げる。
「厳密には、人間との混血です。しかし、この街ではその事実を隠して生きてきました。魔法族であることが露見すれば、魔女狩りに遭う恐れがありますから」
「そして魔獣は、この街を守るために私が呼び出しました」
「は?」
みひろが槍を片手に呆然とする。
「どういうことだ?」
ハルトも眉をひそめる。
「ヴァルンシティは何度も外部の侵略者に狙われてきました。街を守るために、私は禁術を使い、魔獣を召喚しました」
セラフィナは静かに語り続ける。
「しかし、私の制御が及ばず、魔獣は病を撒き散らし、この街を蝕む存在となってしまったのです」
「つまり……自分で呼び出した魔獣が暴走したってこと?」
みひろが困惑した表情でセラフィナを見つめる。
「ええ。その責任は、私にあります」
「だったら、どうして最初から言わなかったんですか?」
美玲が冷たい視線を向ける。
「自分で始末をつけるつもりでした。しかし、私の力だけでは魔獣を討伐することができませんでした。だから、あなたたちに託したのです」
「それでも……!」
宗冬が口を開こうとするが、ハルトが手を挙げて制した。
「セラフィナ。俺たちは君を責めにきたわけじゃない。それに魔法族でも、人を守るために行動していたんだろ? 悪いことじゃないさ」
ハルトが微笑み、セラフィナをまっすぐに見つめる。
「……ハルト」
「でも、街の人たちが犠牲になったことは事実だ。今後は禁術に頼らず、この街を守ってほしい」
セラフィナはしばらく沈黙した後、静かに頭を下げた。
「わかりました。これ以上、同じ過ちは繰り返しません」
彼女の言葉には深い後悔が滲んでいた。
塔を後にしたハルトたちは、夜の街を歩きながらそれぞれの思いを胸に抱いていた。
「魔女が街を守るために魔獣を呼び出すなんて……まるでおとぎ話みたいだね」
みひろがぽつりと呟く。
「でも、それがこの街の現実だったんだ」
ハルトが静かに応じた。
「現代知識で黒死病に立ち向かうつもりだったけど、結局は魔獣退治で終わっちゃったわね」
美玲が苦笑しながらつぶやく。
「いや、美玲の知識は役に立ったさ。あの魔獣が病を撒いていたと見抜いたのは、お前の推理だろ?」
「……まあね」
美玲は少しだけ頬を染めた。
「このミッション、終わったけど……何か残ってる気がするんだよな」
宗冬がふと呟いた。
「確かに。まだこの街には何か秘密があるのかもしれないな」
ハルトは夜空を見上げた。
月が雲間から顔を覗かせていた。
「でも、ひとまずはこれで一段落だな」
「そうだね。帰ったら焼き肉でも食べに行こうよ!」
みひろが明るく言い放つ。
「また食べ物かよ……まあ、悪くないな」
宗冬が苦笑した。
ヴァルンシティの夜風が、少しだけ温かく感じられた。




