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2 当て馬くんは、取り残されがち

キリの学校生活は、極めて地味なものである。普通に勉強して、普通に(数少ない)友だちと遊び、そして、頻繁に図書館へ足を運び恋愛小説を借りて読む、それくらいのものである。学校の噂に上がることもなく、そんな出来事も起こらず、ただただたくさんいる生徒のうちの1人でしかない。物語で言えば名前もない人物である。


そして今日も、放課後にキリは図書館へ向かい、借りていた本を返すと新しい本を探した。そして、めぼしいものを何冊か手に取った。読んだことのあるもの数冊と、読んだことのない本数冊を借りる手続きを追えると、キリは図書館から出ようとした。

すると、館内にある勉強できるスペースで熱心に勉強するアルベリックの姿が見えた。遠くから彼の姿を見つめながら、今日も頑張っていらっしゃる…、とキリは嬉しい気持ちで見つめる。彼はいつも一生懸命勉強をしている。カレンもそんな彼に頼る姿がしばしば見られるがしかし、最近はその役目がユーリに代わりつつもある。

負けずに頑張って…、という謎立場のエールを心の中で送り、キリは図書館を後にした。


キリは宿舎までの道を歩きながら、昨日実家に帰った時に会った、婚約者の男性のことを思い出す。

年はキリよりも3つ上で、優しそうな人で安心した。仮に変な人でも、父が決めた以上逆らえはしないので、いい人そうでよかったと、安心した気持ちでキリはそう思った。






午前中の授業が終わり、キリはランチに行こうと準備をしていた。すると、前方にあるカレンの席に、アルベリックがやってきたため、キリは意識をそちらへ集中させた。どうやらアルベリックは先週の休みに歌劇をみにいったようで、歌劇が好きなカレンとその話をしているようである。


「なかなか面白かったよ。カレンはみたことある?」

「まだなの。見たいとは思っていたけれど、なかなか機会がなくて」


そう苦笑いするカレン。キリは、誘っておけばよかったのでは…!とアルベリックに心のなかで口出しをする。


「そ、そうだったんだ、声をかければよかったね」

「もう、ほんとうよ!…って、冗談よ」


ふふ、と微笑むカレン。そんな彼女を、愛おしそうに見つめるアルベリック。


「今日、あの演目の原作をもう一度読むために、図書館へ行こうと思うんだ。カレンもどう?」

「あら、楽しそう、私も行こうかしら」


乗り気のカレンに、嬉しそうなアルベリック。幸せそうなアルベリックを見てキリの胸がほっこりとしたとき、カレンが廊下の方を見て、あっ、と声をもらすと、視線の方へ向かってしまった。何ごとかとキリが彼女を視線で追いかけると、そこにはユーリがいた。


「ユーリ、今からランチ?」


王子である彼を呼び捨てにできる生徒は、彼の特に親しい友人と彼女くらいなものではないか、とキリは思う。ユーリは彼女の方を見て頷く。


「ああ。カレンも?」

「ええ。…ねえ、ユーリって今日放課後なにか予定でもある?図書館へ行かない?」

「悪いな、今日は例の雑用係なんだよ」

「あら、なら私手伝うわ。前に手伝ってもらったお礼よ」

「気にするなよ、大したことじゃないんだから」

「そう言わないでよ。あっ、少し待ってて」


カレンはそう言うと、教室に残してきたアルベリックの方へ向かった。そして、今日は図書館へ行けないことを謝りながら告げると、それじゃあ、と言ってアルベリックを置いてユーリの方へ向かった。

キリは、女子クラスに残されたアルベリックの背中を見つめる。彼は、楽しそうに話しながらカフェテリアへ向かうカレンとユーリをしばらく見つめると、肩を落として教室から出ていってしまった。


「(…そんな酷いことある…?)」


キリは見ていられずにとうとう、両目を両手で覆った。というか、カレンなかなか酷いな、とキリは目をつぶりながらぽつりと思う。

あの場面でアルベリックにランチの誘いをせずに置いていくだろうか?そもそも、放課後アルベリックは2人で図書館へ行きたかっただろうに、わざわざユーリに声を掛けるだろうか?そしてユーリに乗り換えるだろうか?


「(お労しや…)」


キリは見えなくなったアルベリックにそう労う。しかしやっぱり、不憫な彼が可愛いと、そんなことも申し訳ないながら思ってしまうキリであった。

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