【四季・春】幻想童話…マボロシドウワ…
雪が降っていた。
真白で街を覆うそれは、常ならば空を包む闇を完全に放逐していた。
丑三つ時という不吉な空間を漏れ出る光を反射した氷が映し出している。
そんな中、タイヤ痕どころか子供の足跡すらない雪床の上、
反射板から生えている足はひたひたと、まるでそれがないかの様に歩き出した。
それは生まれたときから裸足だった。
それは発現したときから物に触れられなかった。
それは死んだときからその街を離れることができなかった。
それは零れたときから孤独だった。・・・・・・
雪が降っていた。
冷淡に街が受け入れるそれは明るくなり始めた空を包む闇と共に逃げ惑っていた。
早朝の人が動き出す時間を、方々の光を打ち返す鏡が鮮明さを増して描き出す。
そんな中、騒音を消すどころか、耳鳴りすらする無風の下、
茶色く踏みしめ、溶かす足の主はぴったりと、まるでそれが見えるかの様に立ち止まった。
それは生まれてこのかた、言葉を解せたことはない。
それは発現してこのかた、目に留まったことなどない。
それは死んでこのかた、思考したことがある訳がない。
それは零れて以来始めて、それらを行った。・・・・・・
雪が止んだ。
無住に街をつぶしたそれは、もはや空を包む希望と成った。
明けた空に出でた日は、眩しい光を惜しみなくふりかけている。
そんな中、突然のことに沸き立つ周囲どころか己のことすら忘れ去って、
幽霊と亡霊は向かい合い続けた。
亡霊は幽霊を誘う。
実体ない幽霊はそれを断る。
スーツ姿の亡霊は執拗に迫る。
淡い少女は断り続ける。
急がなくてはならないとでも言うように。
男性は押し続ける。
成さねばならないという顔をして。
日は高く昇り、
雪は溶け、
少女は消えた。
あっけなく。
前触れなく。
男性は肩をすくめ、
少女は次を待つと言う。
あとには、ただ一人分の足跡が残るだけ。
取り立てて何も起こらなかった立春の朝。
作品解説
こんなものを付けられるほど偉い作品ではありませんが読み直してやっぱり気になったので書くことにします。
この作品は高校時代のアニ研の部誌用原稿として書かれたものです。
当時は『Missing』の影響を強く受けていたために詩のような形式になっています。でも、もしかしたら今まで書いたどの作品よりも完成度が高い……、というか気に入っているかもしれません。
今「書き直せ」と言われたらたぶん断ります。そんな思い入れのある作品。
内容的には大したことはありません。登場人物は2人です。
ただこの空気感、これが気持ちのよいものになっていればいいなぁ、とそう思います。
ていうかこれ、我ながら一晩で書いたとは思えない出来だ……。
それでは。