疑念
無事に勇者の剣を抜く事が出来た勇気は大勢の貴族や国王達の目の前で『俺の友人であるアルスの為に頑張りました』と宣言した。
そのおかげで勇者が組した王子派閥に大勢の貴族が集まり、国王と一部の奸臣達は悔しそうに睨んでいた。
アルスにはとても感謝され、何時の間にかアルスと勇気の間には友情が築き今では呼び捨てする様な仲となった。
RPGの様に勇者と少数の仲間達で城を攻め入る事はしない。
戦争だから沢山の兵士達が勇者討伐の旅路に赴くが、その露払いとして勇者と実力のある者達が先頭に立っていた。
実力のある者達と言うのが、エストワーレ王国で一番の魔術師でもあり第一王子のアルス。アルスの恩師であり賢者の称号を持っているドワーフ族の男性のメディペル。
まるで弾丸の様に魔法と弓矢を扱う事が出来る唯一の狩人エルフ族の女性のデボラ。
元は他国の奴隷だったがコロシアムの王者となり、解放奴隷となった狼のオスの獣人であるザック。狼の獣人の性質上、群れるのを好まないが、その昔命を助けたアルスの為に討伐メンバーに入ったのだ。
アルスが勇者である勇気の負担を減らす為に集められた三人だ。お陰で勇気との絆を深める事がそう長くはなかった。
旅の合間、勇気はアルス達に稽古して貰いながら、敵の情報を集めた。
村々を襲っていたのは知能のない動物の形をした『魔物』と呼ばれている存在で、魔族と呼ばれている人間とそう変わらない知能と姿をしたモノ達を見かける事は少なかった。見かけるのは四天王と呼ばれる魔王達の配下達で、噂では元は歴代の魔王で現魔王が現れたせいで四天王として配下となったと噂されている。。
「ん~恐らくこの四天王が魔物達を襲っている感じだけど……何か可笑しくねぇ?」
「改めて見ると村々を襲っているけど、人に危害を加えていない。住んでいる人間を追い出している形。空からの偵察をして見れば襲った村を破壊したり逆に魔族達を移住させたりしている様子はないな。……先生どう思いますか?」
「ワシが気になるのは、四天王が襲った村の者達を全員隣国の方へ追い払っている事じゃな。王都ではなく、わざわざ隣国の方へ逃げる様に仕向けている節がある。」
「だったら、周辺諸国は魔族と同盟を組んでいるって事!?」
「そうだとしたら、何で侵略作戦に乗っからないで静観しているんだ? 普通は自国の益を少しでも多く得ようと画策するもんだろ?」
ザックの言う通り、エストワーレ王国を魔族を筆頭に周辺諸国が同盟を組んで侵略するにしてはあまりにも静かすぎる。
王都の近くにある国は我先に侵略作戦を決行しても可笑しくはないのだが、境界線を厳重に警備している兵士達の報告によると彼方側の兵士達の姿がなく、それ所か魔族が襲ってきた辺りから警備していた彼方側の兵士の姿が無くなったとの報告書には書かれていた。まるで被害を避ける様に。
「……なぁ。エストワーレ王国の人間、特に王侯貴族の誰かが魔族とトラブった話がある? 魔族側に大義名分があるからこそ、周辺諸国が静観しているのがその大義名分が納得出来る物だから静観しているんじゃあ?」
勇気の言葉が的外れとは切り捨てる事が出来なかった。アルスが頭に手を押さえて考えこむ。
「いや……少なからず私が覚えている限りではそんな話は一度も聞いていない。先生、デボラ。過去にエストワーレ王国と魔族との間に事件がありましたか?」
「いいや。そもそも魔族は鎖国状態だから国の外に出る事も他国の人間を入る事もない。魔力の源となる負の感情も元々の土地が忌地だから、自然と魔族の国に吸収される様になっている」
「千年も生きているオババやオジジ達からも国民同士で小競り合いがあった話も聞かないし、逆に隠れて仲良くしていたって話は聞くよ?」
メディペルとデボラの話が嘘ではない事はギフトを持った勇気が保障した。
「そもそも、民達を殺さないでただ真っ直ぐ王都へ侵略する理由が分からない。人間だけを虐殺する訳でもなく、その逆もない。侵略した土地を破壊したり魔族が住みやすい様に作り変えずに放置してただ侵略する」
「もしかして魔族の狙いは王都にいる王侯貴族達?」
勇気の言葉に他の四人はハッ! とした表情となった。誰もその可能性を今まで思いつかなかった事に勇気は信じられなかったが(そもそも侵略された理由すら考えなかった事にすら驚くが)突然魔族に襲われた事で現場がパニックになっていたのだろう。
「そうか……幾ら他種族と関わる事はないとは言え、外交は最小限ながらも魔族もする。そこで他国に攻め入る理由を通達した? 他国が知っても納得する様な大儀名分があるからエストワーレ王国の救援を無視しているのか? でも、一体理由は何なんだ?」
「……アルス。現魔王が現れる前に、王国で大きな事件があったか? もっと言えば大勢の人が亡くなった様な事件は?」
「―――魔王が出現する半年前にとある一族が謀反を計画し、全員処刑された」
「全員って、まさか子供も!?」
アルスは無言で頷く。現代に産まれた勇気には信じられない話だが、王権制度のこの国ならば仕方がないと言えばそうだろう。実際中国辺りは一族郎党処刑は当たり前だったと歴史の漫画で見た事がある。
「一応聞くけど、本当にその一族は謀反を計画していたのか?」
「……」
「……おい。まさかっ」
「―――当時私は隣国に留学していて、事態を把握する頃には全て終わっていた。一応謀反の証拠はあったが、それが本物なのか精査する前に執行していた。その証拠も何時の間にか無くなっていて……恐らく国王の手の者か処分したんだろう」
「その一族って何か国王の不興を買ったのか?」
「ワシはその一族の人間と何人か関わった事があったが、どの者達も温和で誠実で子煩悩な性格ばかりだ。……事件の前にも一族の一人と会った事があるが、『納めていた土地から鉱山が見つかった』と聞いたな」
「あの一族の治めていた土地は森林が多いし、貴重な植物や保護指定になっている動物が住んでいる事が判明して、一族全員亡くなった後はエルフ族長が教皇に直接進言して保護区として教皇管轄の保護区にされたわ
次々と出てくる情報はあまりにも怪しすぎる話ばかりだ。本当にその一族が謀反の計画を立てていたのか疑問を持たざるを得ない。
「と言うか、『教皇管轄』て事はアルスの国の領土が悪い言い方を言えば、領土を奪われた様なもんだろ?」
「ああ、ユウキは異世界から来たから分からねぇかもしれないが、教皇管轄と言っても勝手に開発しない様に一時預かりをしているだけだ。周辺地域の調査をして報告されたら管轄を解くんだ。今はその教皇管轄を解かれてるんだろ?」
「ああ。教皇に睨まれたら大変な事になるから陛下も大人しくしている。例の土地は私が信頼している文官に任せてある。……因みにだが見つかった鉱山はその時調査された時に鉱石は見つかったが量が少なく、少し発掘して直ぐに廃鉱となったよ」
するとテントの外が騒がしくなり始めた。魔族の襲撃かとパーティーメンバーは全員武器を手に臨戦態勢を取る。一人の兵士がテントに入室する。
「申し上げます。農民達が殿下と勇者様にお目通ししたいとの事」
「農民達が?」
「殿下達に嘆願したい事がある、と。追い払おうとしていますが鬼気迫る様子で『お目通りが叶うのならば首を跳ねられてもいい』と言う始末で。手荒な真似をする事も出来ず、殿下達の指示をと思いまして……」
「……分かった。話を聞こう」
勇気達は兵士の案内で農民達の元へと向かった。
これがエトワール王国が何故魔族に攻撃されている理由が分かる切っ掛けとなり、エトワール王国の国王一派の大罪を知る切っ掛けとなったのであった。