魔国に堕ちた一人の勇者。
「僕は」
輝かしい光が僕に当たっている。
背中には芝生の感覚がある。
手には、何かの金属製の冷たい棒がある気がする。
僕は目を開けながら、太陽を手で隠した。
目を開けると、空には鳥が飛んでおり、美しい青色が溢れている。
顔を棒の感覚がある方に向けた。
薄黒い肌の上にある一つの棒。
それは、朽ち果て、鯖が黒くなり、刃も脆く、
紅色の宝石が嵌め込まれた剣だった。
僕はそれを握り立ち始める。
体を起き上がらせると、芝生に何かが落ちた感覚がある。
芝生を見るとそこには、黒く紅い紋様が描かれたローブがあった。
僕はそれを羽織った。
周りを見るとそこには美しい木々と小鳥の囀り。
それらが合わさることで感じる事が出来る自然を感じた。
僕は今、体の異変に気付いた。
剣を握っているだけで体の力が吸い取られている気がする。
僕は怖くなって、剣を遠く離れた木に投げた。
剣は木に刺さり腐り果てる。
だが、体の異変は変わっていない。
そう思った時に剣は僕の手へと一瞬で飛んできた。
「おお、すごいっすね!」
僕が後ろを向くと、そこには髪が緑色の青年がいた。
僕が困惑状態に至ると、彼は話し始めた。
「すいません。すごい技術だなって思って。
今の崩壊しかけている魔国じゃ、貴方みたいな者は
存在しないからっすね。」
そう何処か儚い笑顔を見せる彼に僕は尋ねた。
「どうしてそういう技術のある者が魔国には存在しないんだ?」
「そんなことも知らないっすか?
魔国は神聖国と戦争をして負けてしまったんですよ。
しかも、神聖国の戦士はたったの四人。
その四人は勇者パーティって言って神から何かを授かった者らしいっす。
だから、魔国は崩壊し、内部崩壊しかけているということです。」
勇者、、、?
誰,だ。
あ、、あああああ。
そこから意識がなくなった。
「目が覚めましたか?」
あの青年の声がした。僕は体を起き上がらせる。
「僕は、、、」
「貴方はあの後意識を失っちゃったんすよ。」
「そうだったのか。」
僕はその話を聞いて周りを見回す。剣は相変わらず手に接していて、外すこともできない。
周りには木製の家具。
ちょっと古臭い天井からは雨水が垂れている。
だが、それよりも木になる事があった。
「青年。他に家族はいないのか?」
聞いてはいけない事が直感的に今わかる。
「殺されました。」
その言葉がこの小さな部屋中に響く。
聞こえるのは外からの雨音と、自分の息。
「神聖国の勇者パーティ、ダイアに妹も集落の人間も、母も父も。全員殺されました。私は逃がされ、今ここにいます。」
「そうだったのか、ごめんな。
青年。名前は?」
話題を変えて僕はこの空気を変えたい。
そう思った。
「僕はゴブリンのイミーっす。
貴方も名前は?」
名前。
僕の名前は、何だ。
記憶が流れ込んでくる。
気持ち悪い。
ああ、
その時一つの名前が並んだ。
ソイウ。
「僕の名前はソイウだよ。」
「ソイウさんっすか。いい名前っすね。」
「イミー、ここはどこだ?」
「魔国の第一戦争拠点と神聖国との国境の中間っす」
「じゃあ、僕はその第一戦争拠点に行きたい。」
「あそこは混乱に紛れていますよ。
どうして?」
「僕は今、情報が欲しいんだ。」
そういうと、イミーは、奥の引き出しから布袋を取り出した。
「少しですけど、これだけあったら食べ物は買えると思います。」
「ありがと。戻ってくるから。」
「拠点は扉から右に直進すればあるっす。」
「いってきます。」
「いってらっしゃい」
そうイミーはまた儚げな表情で僕を送った。