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第42話. 異世界の少年、地球で夏祭りに行く。⑦

 「《身体強化(アップグレード)》」


 俺は小声で呟いて、ドシっと両手を前に出して構える。


 《身体強化》とは文字通り、任意の人の筋力や素早さなどといった身体能力を強化させる初級相当の2級レベルの強化魔法である。



 「オラああ!!」


 やや長めの髪をした男性が俺の頬を目掛けて、思いっきり腕を振って強く握った拳を当てようとしてくる。

 しかし、筋力や素早さなどが強化された俺はその動きがとても遅く見え、背中を反って攻撃を簡単に避ける。そして、ガラ空きになった彼の腹を目掛けて、少し強い力で一発入れる。すると、その男性はその場でうつ伏せになって倒れる。


 「調子に乗るんじゃねー!!」


 目の前で味方が倒れたとしても、もう1人の男性はそれを気にせず、俺を目掛けて回し蹴りのモーションに入る。


 自身の素早さを強化している俺だが、彼の蹴りの速度が早いと認識する。

 素早さを強化していなかったら、早すぎて目に見えていなかっただろう。

 俺は避けに間に合わず、左腕の前腕で彼の蹴りを受け止める。蹴りを無事受けたと思ったら、彼は蹴りの次に拳を俺の腹を目掛けて突いてくる。俺は両腕を前でクロスし、ダメージを軽減する。しかし、防いだ時の反動の影響で地面を擦る感じに後ろへと体が動いてしまう。


 「ほう。これも防ぐのか。じゃあ、これならどうだ!」


 ウェーブがかかった髪型の男は突きを連発してくる。

 俺はその動きをしっかりと見るが、男の動きには無駄がどこにもなく素早い。

 《身体強化》のおかげで何とか避けることができているが、《身体強化》を利用していなかったら既に負けていただろう。


 俺は男の動きを観察しつつ、一瞬の隙を狙って男の腹を目掛けて突きを入れる。

 しかし……


 「無駄だ」


 男は俺の突きを右手のみで受け止め、振り払う。そして、同時に空きができた俺の腹に素早くカウンターの突きを入れる。


 「うぅぅ」


 その突きの素早さは、《身体強化》で強化した素早さよりも早く、そして威力はとても高かった。まるで、一回り大きくて速度を持った石が腹に直撃した感覚だ。



 「シンくん?」


 俺の後ろの方で待っている美咲は、俺のことを心配して声をかける。


 「これぐらい、大丈夫だよ。もうちょっと待っててね」


 俺は美咲を少し安心させるように優しい口調で声で言う。


 俺は今美咲がどんな表情をしているか実際に確認できないが、何となく想像がつく。

 きっと、怖い思いをしていて今にも泣きそうな顔をしているだろう。


 そんな美咲を安心させるためにも、俺は一刻も早く目の前のナンパ男たちを倒す必要があった。

 やや長い髪の男は既にダウンしているが、まだ2人も残っている。短髪の男は、ウェーブがかかった髪型の男の後ろで俺たちの勝負の行方を追っている。そのため、短髪の男に一発入れるためには、目の前にいる男を倒す必要があった。



 ざわざわ。


 「ねー、あれ大丈夫そうか?」


 「警察を呼んだ方が良いんじゃないの?」



 俺が目の前の男と対峙していると、俺たちの周りに段々と人が集まってくる。


 それに気づいた俺は、大きな騒動になる前になるべく早く終わらせようと考え、もう一段階上の強化魔法を自分に付与する。


 「《身体強化・改(RE:アップグレード)》」


 《身体強化・改》とは、対象の人物の筋力や素早さを《身体強化》よりも一段と高く強化する中級相当の4級レベルの強化魔法である。


 「ほら。行くぞ!」


 目の前にいる男は先ほどよりも目が真剣になり本気モードになる。


 男は俺との距離を詰めるために俺の方に向かって突進してくる。

 きっと側から見たら、先ほどよりも男の素早さは増しているだろう。しかし……


 俺にとっては男の動きが遅く感じる。まるで亀が歩いてる感じの速度だ。


 男が俺に向かって突進してくるものなので、俺は歩いて男の背後に回る。そして、男の背中を目掛けて軽く突きを入れる。


 「な……なんだ?お前は……何者だ?」


 背中に一撃を喰らった男は状況を掴めないまま仰向けに倒れる。

 もちろん手加減はきちんとしてある。《身体強化・改》の状態で、普段と変わらない力で突いてしまうと、男の方は大怪我をしてしまう。ましてや、骨折だけでは済まないだろう。




 ざわざわ。


 「何が起きた?」


 「なあ、今あの子一瞬消えなかったか?」



 俺と男の勝負を見ていた人たちにざわめきが起き始める。

 一瞬後ろを振り向くと、美咲は口をポカンと開けて驚いてる様子だった。


 周囲の人たちが驚くのも当たり前だろう。

 瞬きを一回すると、攻撃を仕掛けた男が地面に倒れているんだ。

 俺は歩いて男の背後に回ったが、側から見れば俺が瞬間移動した感じになる。それに、強そうな男が一撃でやられてもいる。

 魔法がないこの世界で、こんな非現実的なことが目の前で立て続けに起きて、逆に驚かない方が不自然だ。




  ウェーブがかかった髪型の男が一撃でやられて、俺の視線の先には腰を抜かして地面に座り込んでる短髪の男が映り込む。


 「な、何が起きた?なんでアイツがやられたんだ?アイツは確か……空手で黒帯だったよな?そんなアイツが、あんな奴にやられた?これは何かの間違いだ。そうだ、これは間違いだ––––––––––」

 

 空手?黒帯?

 俺は何のことか分からなかったが、今倒した男は相当強かったらしい。

 実際に闘った俺も同意する。《身体強化》をしても、男は俺の動きについてきた。何なら、俺の方が劣勢だった。


 俺は倒した男のことを高く評価しながら、地面に座り込んでる短髪の男の元へとゆっくりと歩き進めた。

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