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第12話. 異世界の少年、地球でお出かけする。④

 「よっしゃ!」


 スコアボードが5-4に変わると同時に、俺は喜びの声をあげた。


 「悔しい……」


 一方で、美咲は悔しくてたまらないという顔つきをしていた。


 

 俺はパックにカーブ回転をかけていた。最後のラウンド、最初はパックを強く握っていたが、スマッシュだけでは勝てないと考え、カーブ回転をかけようと試み、握り方を少し緩くした。

 勿論、カーブ回転の実際のかけ方なんて知らない。ただ、感覚で行っただけだ。感覚といっても、決して当てずっぽうでやったわけではない。カーブ回転をかけるにはどうすれば良いか、自分の中である程度予想はしていた。

 俺が予想していたやり方は、力を入れ過ぎずに軽くパドルをパックの中央よりもややサイドに当てることである。

 これは一種の賭けでもあった。パックの中央よりややサイドにパドルを当てることから、美咲に返されたパックの軌道上よりもやや右にパドルをずらして待ち構える必要があった。つまり、カーブ回転をかける際に上手くパドルがパックに当たらなかった場合、ゴールが決まってしまうリスクを自ら作ってしまうということである。しかし、カーブ回転をかけることに成功したら、根拠はないが得点できると俺は確信していた。まあ、ハイリスク・ハイリターンというわけだ。

 そして俺はその賭けに勝利し、予想通り美咲はカーブ回転がかかったパックを弾くことができず、そのパックはスッポリと美咲の陣地にある穴に落ちた。


 

 「それにしても、シンくん、カーブ回転かけれるの凄いよ。私、今までエアホッケーでカーブ回転をかけれる人見たことないよ」


 美咲は俺を称賛する。


 「ありがとう。でもあれは、一種の賭けだったけどな。だって、失敗してたら俺が負けてから」

 「そうなんだね」


 俺は一笑しながら答えた。


 「でも、やっぱり悔しいな〜。あとちょっとだったのに……」

 「確かに、惜しかったね」

 「シンくん、またやろうね。今度は負けないんだから」

 「そうだね」


 「それじゃあ、最後にクレーンゲームやって帰ろっか」

 「クレーンゲーム?」

 「うん」


 美咲はエアホッケーのマシンの近くにあった別のマシーンを指差していた。


 流れるままに美咲の後を追うと、明るいライトで照らされ、鮮やかな色のぬいぐるみが誘惑的にガラス越しに並んでいるマシーンの目の前に着いた。そして、マシーンの天井には上に凸型の形をしたモノが取り付けられている。


 「クレーンゲームっていうのは、マシーンの天井についているアームというものを動かして、ガラス越しにある景品を掴んで、目の前にある景品穴に落とすゲームなんだよ」

 「なんか、難しそうな……」


 俺は少し硬い表情を浮かべる。

 さっきプレイしたエアホッケーと違って、説明だけだとイマイチ想像しにくかった。


 「私が一回やるから、シンくんは見てて」

 「うん」


 美咲はそう言い、「100円」と書かれたコインを一枚入れる。


 美咲はマシーンについているコントローラーでアームをコントロールしている。そして、美咲が欲しいと思っているウサギのぬいぐるみの真上までアームを動かし、アームをゆっくりと降下させる。アームはしっかりとぬいぐるみを掴むのに成功し、ゆっくりと上昇し、景品穴までゆっくりと運ぶ。


 「やった」


 美咲は少し嬉しそうな表情をしていた。


 しかしアームが少し進むと、景品穴の真上に着く前にアームからぬいぐるみが落ちてしまった。


 「あー」


 アームからぬいぐるみが落ちてしまった瞬間、美咲の表情は残念そうな表情に変わった。


 「なんで今、アームから落ちたの?」


 しっかりとぬいぐるみを掴んでいたはずなのに、落ちてしまったことに俺は疑問を抱いていた。


 「多分、アームの力だと思う」

 「アームの力?」

 「うん」

 「クレーンゲームって、そう簡単には取れないようにアームの力が少し弱く設定されているんだよね」

 「でもそれじゃあ、絶対景品取れなくなくない?」


 俺は美咲からアームの力が弱く設定されていることを知って、少し不満を抱いていた。


 「取れないことはないんだけど、取るのが難しい感じかな。取るにはやっぱり高度なテクニックが必要なんだよね。多分、()()()()()()()()()()()()()()()()()()取れると思うけど……」


 俺は美咲の残念そうな表情を見て、どうにかしてあのぬいぐるみを取ってあげたいと思った。

 そこで、俺は()()()()を思いついた。


 「美咲、ちょっと一回俺がやってみても良い?」

 「うん、良いよ」


 俺は美咲からコインを一枚受け取り、コイン挿入口に入れる。


 「美咲、あのウサギのぬいぐるみが良いの?」

 「うん」


 俺は一度美咲に確認を取る。


 「《弱点察知(ウィークサーチ)》」


 俺はアームを動かす前に、美咲には聞こえないボリュームで呟いた。

 あそこが、弱点か。


 俺の目にはぬいぐるみの脇あたりに赤く点灯している点が見えている。


 俺はその点にアームが引っかかるようにコントローラーで調整し、降下ボタンを押した。

 すると、アームはゆっくりと降下し、しっかりと赤く点灯している点を掴んだ。そして、ゆっくりと上昇したアームはぬいぐるみを景品穴の真上まで運び、ぬいぐるみを落とした。

 俺は景品口からぬいぐるみを取り出すと、美咲に差し出した。


 「これ、あげるよ」

 「え!?ほんとに?」

 「うん。今日服とか靴を買ってくれたお礼だよ」

 「え、嬉しい。ありがとう。大事にするね」


 美咲は小さな子供みたいに喜んでいた。


 「うん」

 「それにしても、どうやって取ったの?」

 「たまたまだよ。ビギナーズラックていうやつかな」


 俺はにっこりと笑いながら、誤魔化す。


 俺が景品を取ることができたのは決して偶然ではない。美咲から「景品の弱点に上手くアームを絡ませれば取れる」と聞いて、《弱点察知》を利用してぬいぐるみの弱点を特定し、そこに目掛けてアームを降下させただけである。《弱点察知》というのは、物体や人、魔族、魔物の弱点を見つけ出すことができる超級の7級レベルの魔法である。


 少しズルをして取ってしまったことから申し訳なさが残るが、それよりも美咲を喜ばせたい気持ちが大きかったため、俺はプラスに考えた。


 

 「それじゃあ、シンくん、そろそろ帰ろっか」

 「そうだね」


 ゲームセンターで散々楽しんだ後、俺は今日購入した荷物を持ち、美咲はぬいぐるみを抱き抱えながら、帰宅の経路を辿り始めた。

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