第一章 誕生
ある日子どもが産まれた。
それはどの世においても喜ばしい事であり、祝福と希望に満ちた瞬間でもある。
しかし人の世には例外という言葉がある。望んでいなかった妊娠、決して喜ばれることのない出産。
要因は様々であるが、今回の子の誕生も祝福される事の無いそんな例外の1つであった…
―――バシャバシャバシャ
土砂降りの雨の中、両手に大きな荷を抱えて走る女の姿があった。
まだ寒さも残る季節だというのに軽装で雨具も携えていない。自身の体を丸くして荷を覆うようにして抱え、少しでも荷が濡れぬ様にしているようだ。
とある集落の寺まで来たところで女は腰をおろし、抱えていた荷を軒先に置いた。荒くなった呼吸を整えながら、えも言えぬ表情でしばらくその荷を見つめていたが、最後は手を合わせ何かを祈るようにしてその荷を置いたまま走り去っていった。
時間にして数時間が経過しただろうか。
「?」「なんの音かしら」
寺の中から女が外の様子を伺った。雨足が弱まり外から聞こえる不思議な音に気が付いた為だ。
見慣れない何かが軒先に置いてある。風呂敷の様な物に包まれているが、ここからでは様子が確認出来ない。
女は外に出ていき奇妙な音のする物に近付いていく。
「動いてる!」驚き慌てた女は寺の中へと逃げる様に走った。寺の中から叫び声にも似た甲高い声が響いてくる。何かを訴えている様だ。
再び外に現れた女は相変わらず慌てふためいた様子でオロオロとしている。よく見ると後ろには男もいる。それもただの男では無い。身の丈2メートルはあるだろうか、体格は巨木の様にがっしりしており、拳は岩石の様にゴツゴツとしている。身体にはいくつもの傷もあった。
俺は強者だと言わんばかりの男である。
「ゴウケツさま!あまり不用意に近付かれては!」
女が言う。
「サチよ、主こそその慎重過ぎる性格をもちっとどうにかできんか。どこぞの誰が置いていったかはしらんが怪物が出る訳でもあるまい」
大きな口を開けて豪快に笑いながら男が風呂敷を広げた。
そこには弱々しく泣く赤子の姿があった。
それも2人だ。
「急いで湯を沸かせ!」ゴウケツから笑顔は消え怒号が飛んだ。
「すぐに!!」先ほどまでの慌て様とは打って変わって、サチは冷静かつ迅速に行動に移った。
ゴウケツは手慣れた様子で赤子の容態を確認していく。
「弱っている様だが大事は無いようだな」
ゴウケツはほっと肩を撫で下ろした。
「お待たせしました!」
しばらくしてサチが湯を張った桶の用意を終えた。
冷えきった身体の赤子2人を抱え入れ、身体を温めはじめた。
「まだ産まれて間もないな。事情がどうであれ、か弱く儚い命を捨て置くとは酷いことを。」
ゴウケツは悲しげにそう言いながら子ども達を見つめる。
「私達のことを知るものでしょうか。」
サチが尋ねる。
「分からぬ。分からぬがこのまま死なせる訳にはいかん。ただ、こやつらにとっては我々に救われることこそが本当の不幸の始まりかもしれぬがな。」
ゴウケツは堅い表情のままそう言った。
サチも返す言葉は無く、ただただ子の生を願う母の様に、
慈愛を持って子を摩り続けた。