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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界とか悪役令嬢とか実はSSランクとか。第二

作者: 宝井奏多

絵描きシリーズです。

俺は魔力が極端に少ない。日常生活には問題ないがギルドでパーティを組んでくれる奴等もいない程。

だから、絵を描く前までは専ら薬草採取で最初は生計を立てていた。

いつだったか。もう忘れようとしても頭にこびりついた恐怖は中々取れずに今だに夢をみる。

いつも通り、比較的安全な地帯で薬草を採取している時だった。

調子良くどんどん取れる薬草に気を良くしていたら森の深い所まで採取に来てしまい、モンスターと遭遇してしまった。

生憎と戦える物はナイフ一本しか持ち合わせておらず、しまった!と、思った時には既に左腕を狼型モンスター、ウルフに噛まれてしまっていた。

激痛が走った。冷や汗が一気に吹き出してヤバい、とナイフをウルフの頭に突き刺した。

それが会心の一撃となりウルフは魔石を一つドロップした。それを拾い上げると、また次のウルフがやって来た。

本格的に危ないぞ。と、身震いしたが相手は待っちゃくれない。血の吹き出している左腕をまた狙われる。

はぁはぁ、と息を切らしながら逃げ切ろうと走るが相手はモンスター。足で勝てるはずがなかった。

走り、走り、力尽きてこける。べしゃり、と地面に叩きつけられた衝撃で先程手に入れた魔石が粗く砕ける。

それは左腕から流れる血と反応して魔力を発していた。

俺は無我夢中でそれを指に滴らせ、ウルフに向けて真っ赤な血の雫を投げつけた。

すると、炎の魔法が完成し、見事にウルフを焼いた。

バクバクと脈打つ鼓動。ふぅー、と深い息を吐き深呼吸。


震える左手を見つめ、そして砕けた魔石を交互に見た。

これは、偶然見つけた俺の唯一の魔法。以来、〝魔色〟と名付けた。


バタン、と地面に横になると意識が遠のいた。

だがここで寝ていられるほど余裕は無い。仕方なしに砕けた魔石を粗いものから細かいものまで拾い集め、ついでにさっき倒したウルフの魔石も手に入れた。

死ぬ思いをしたが薬草よりも大切なものを手に入れた気がした。魔力無しの唯一の手段。改良は必要であるがこれは大きな期待ができる。

くたくたな体を引き摺るように帰路に着いた。



そうして俺は現在、〝魔色〟の試行錯誤を重ねては画家としての職を見つけた。幸いにも絵の才能もあったようで金には困らない程度に絵は売れた。

金持ちの貴族やらに好評だったのは理由があった。俺の描く魔力を帯びた絵は動くのだ。

それは描くのも微量な魔力と魔石が必須であったが風景画である花や木が本当に風に靡いているように揺れるのだ。

自分でも不思議な効果であると思ったが売れるから問題ない。兎に角、劣等感の塊で卑屈な俺には人と話す機会も少ない最適な職にありつけた。

だが、毎回魔石を血液で溶かすのは無理があった。魔石にも限りがある。どうしようかと悩んでいた時、チャンスは舞い込んできた。


カラン、と入口のベルが鳴った。客かと思えば、モロ冒険者という格好の女が入って来た。


「失礼。ここでは動く絵を描いてもらえると聞いたのだが本当だろうか?」


背中に身の丈程の大剣を背負った女はアメリアと名乗った。どうやら、自分を描いて欲しいとのこと。だが、俺は人物画は描くのは得意では無い。試したこともあったが圧倒的に〝魔色〟が足りない。

そこで、どうしても、というならと条件を突きつけた。

きっと彼女は強い冒険者なのだろう。俺の出した条件を満たしたら描いてやると、約束をした。

それは〝数種類の魔石〟〝魔力を帯びた花〟を定期的に用意しろ、という内容だ。

俺はアメリアが少しは躊躇うかと思った条件だったが、二つ返事で彼女は元気よく扉を開けて出発してしまった。

もしかすると、俺は簡単なお題を出してしまったのでは?と、数日間後悔をした。



そうして、1週間。

アメリアは見事過ぎる仕事をしてきた。

カウンターにドッサリと色とりどりの魔石が入った袋が置かれ、その隣には月光花の花束。


「さぁ、私を描いてくれ。」


胸元で腕を組み自信たっぷりに言い放ったアメリアの顔は実にいい顔をしていた。

俺はその大量な成果物に驚いてしばらく固まり、咳払いをした。


「言っておくが、時間がかかる。そして俺は人物画を描くのが嫌いだ。」


ジト、とした目で優秀な冒険者であるアメリアに先に言っておく。時間がかかる。最低でも3日は欲しい。風景画で1、2日を要しているのだもっと時間が欲しいくらいだ。


「構わない。どうかよろしく頼む。」



1日目、窓際の椅子に座らせて構図を取る。

魔石は細かく砕いて月光花の搾り汁で溶かす。ゆっくりと作られる〝魔色〟に興味が出たのかアメリアは質問をしてきた。


「へぇ。本当に変わった絵描きなんだな。」


「気に入らないなら、やめてもいいんだぞ?」


「そんなこと言っていないじゃないか。ただ初めて見る手法だったから。」


そんな会話をしながらキャンバスに〝魔色〟を塗っていく。微量だが魔力を使うから俺にとって苦行のような時間が始まるのだ。

時々交わす会話で分かったことは絵は遠くに住む親族に渡したいらしい。何でもとても心配性な親戚だとか。

そして、アメリアは勇者パーティのメンバーだというのだ。通りで腕が立つ女冒険者だと思った。


「そんな勇者パーティメンバーが、どうやってうちを知ったのやら…。」


アメリアの銀髪を塗る。時々窓から入る風に靡く様も同様に描いていく。


「貴族の間では有名になりつつある。私も貴族の端くれ。だから知ったのさ。」


一部の間では動く絵を持つのは一種のステータスにさえ見られつつあるとのとこ。俺の知らぬ間に物凄いことになっていて驚きを隠せない。


「有名って…これ以上仕事は増やせないし、依頼も簡単には受けないぞ。今で十分食っていける。」


「ははは、そうだろうな。だが言っても聞かないのが貴族だ。これからも仕事には困らないだろう。」


変化する表情も的確に捉えて色を重ねる。

少し色づいた頬も笑った時の筋肉の動きも逃さない。

丁寧に丁寧に色付けていく。


「まぁ、これからは私もフリーだ。約束通り定期的に魔石と花を用意するから。そう警戒し続けないでくれ。」


言われて、そうか、と納得する。

俺はずっとアメリアを警戒していたのだ。ただの貴族と違って、俺がやりたかった冒険者であるが故、妬みもあったのだろうと思う。


「そうか。…これから世話になる。」


素直じゃない言葉にアメリアは苦笑しながらポーズを変えた。


「あぁ、これから長い付き合いになりそうだ。よろしく。」


窓から差す光で輝いて見えるアメリアに少しだけ見惚れる。

そんな頭を振って絵に集中。俺は今何を考えていた。

銀髪に赤い瞳。彼女はアルビノなのだろうか。

こんなに人と会話する事もない日々を送ってきた俺は何故かアメリアから目が逸らせなかった。






最後まで読んでくださりありがとうございます。

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