起動
春・花言葉小説企画用の作品です。こういった小説企画は初参加で、戸惑いながら書きました。
今回の企画用に何か話を、と考えた末に出来たのがこの話なんですが、何故かファンタジー要素も入ってきたり。色々と初めての経験が重なったこの作品ですが、頑張って書いてますので是非優しい目で見守ってやって下さい。
――凄く、不思議な夢を見た。
不思議というのは内容のことではなく、とても現実味のある夢だったということ。内容自体はまあ、陳腐で出来の悪い作り話という感じ。
まず、夢の中で私は一輪の花を摘むんだ。それは何でも良くて、とにかく身近な花を一輪。私は半ば眠っている頭で、部屋に飾ってある花瓶の中からカーネーションを一輪取り出した。この時、部屋に手ごろな花が無ければわざわざ外に出てまで夢の内容を辿ってみようとは思わなかったかもしれない。
花を摘んだら、ボールペンで花の葉を潰す。潰すというか、練り込むというか、とにかくそうするとボールペンのインクに葉の汁のようなものが混ざり、これで下準備が完成する。
(あれ? この後どうするんだっけ)
ギシッ、と椅子の背もたれに体重をかけ、天井を仰いだ。
(ああ、そうだ)
思い出すきっかけになったのは、リビングから聞こえてくるニュースの春の花言葉特集だったんだけど、まあそんな事はどうでも良くって。私は学校カバンの中からノートを一冊取り出すと、まだ何も書かれていないページを開いた。
私が、例えばこのボールペンで白紙のノートに『跳躍』って書く。そして、例えばお母さんに「ねえねえ、カーネーションの花言葉って知ってる?」って聞くとする。お母さんが花言葉博士だなんてへんちくりんな設定がある訳でもなく、お母さんは答えられない。
お母さんは、カンガルーでもないのにその場で大きくジャンプした。
高校三年生の夏、これが私にふと与えられたチカラ。
***
まさか、本当にその通りになるなんて私自身思ってなくて。お腹の肉が揺れるくらいに大きく飛び上がるお母さんの姿が少し間抜けに見えて、私は思わず笑ってしまった。
「ちょ、ちょっと美木! 今の何!?」
ドスン、と音を立てて床に着地したお母さんは、顔を真っ青にして私に聞いた。
「い、いや、私は何も……」
言いかけて、私はダッシュで部屋に戻った。
一分と間を置かず、今度は自分の部屋から顔だけ出して、お母さんに向かって大声で叫んだ。
「お母さーん! バラの花言葉って知ってるー!?」
「えー? だから母さんは花言葉なんか詳しくないってば」
すると――。
「美木。おはよう」
お母さんは真顔でそう言った。
「………………」
私は、何も言わずに部屋の扉を閉めると、勉強机に飛びついた。机の上で開かれた、『挨拶』と書かれたノートのページ。
(ま、正夢!?)
いや、そういうことじゃなく。
(夢じゃない! 夢じゃないんだ!!)
花Aの葉の汁を塗りこんだボールペンで動作を書く。すると、「花Aの花言葉は?」の質問に答えられなかった人がその通りの行動をとる。
まるで、夢のような能力。事実、夢で見ただけの話だったのに、その夢は夢じゃなくて。いや、夢なんだけど、夢のような現実で。私の頭は、かつてない程の興奮で混乱していた。
(でも、これ、間違いなく現実だ。ホントのことだ)
手が震える。頬が痺れる。そしてそれは遂に弾け、私は飛び上がった。
「やっほー!!」
お腹の底から本気で叫んだ。空中で両腕両足を一杯に伸ばし、体中で喜びを表現した。
(なんでもできる! なんでもやれる!)
ドタンと両足で着地すると、ノートの横のバラを口に咥えてポーズを決めた。
「まさにバラ色の人生ね♪」
なんて、軽快なジョークも飛び出しちゃったり。