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【完結】羽黒楓の背負投  作者: 羽黒楓


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--1--

誰だ、武道を必修科目になんてしやがった奴は。

 俺は武道場の天井を眺めながらそう思った。

 ここは東北の日本海に面する小さな町、亀城市。

 県立亀城東高等学校の、古い武道場だ。

 一面に柔道用の畳が敷かれてあるそこで、俺は仰向けになって天井を見上げていた。

 身につけているのは制服じゃない、入学した時に買わされた、ペラペラの柔道着だ。

 開け放った扉から風が吹き込んできて、汗だくの額を撫でた。

 あー気持ちいい。

 桜は散ったけど、夏にはまだ遠い季節、風は心地よく俺の身体を冷やしてくれる。

 とはいえ、この柔道着ってやつは生地が厚くて熱がこもるのだ、なかなか汗が引かない。

 くそ、身体がだるい。

 柔道の科目がある日に限って、連続で風邪を引いたのがまずかった。

 まさか、柔道の補習なんてものを受けさせられるとは。

 この学校ではもう何十年も前から柔道が体育の必修科目とされてきたらしい。

 しかも入学してすぐのこの時期にいきなり柔道だ。こういう種目は冬にやるイメージがあったけど、この学校では違うらしい。

 なんでそんなに必死に柔道させようとするんだよ、と思うのだけれど、補習を受けなければ体育の単位をやらん、といわれては拒否のしようがない。

 そんなわけで、ついさきほどまで受け身の練習をさせられていたのだ。

 学生時代レスリングの選手だったという体育教師に何度も畳の上で投げつけられたので、腕や背中が痛みでじんじんとしびれている。

 中学高校と帰宅部を決め込んでいた俺にとって、マンツーマンでの柔道の補習はまさに悪夢。

 運動不足の身体にはあまりにもきつすぎる。

 そんなわけで、体育教師が去った後、起き上がる気力もなく俺はただ畳の上で寝転がっていたのだった。

 まあ別に、しばらくここで寝ててもいいだろ。

 そう思って、目を閉じる。

 亀城東高校の柔道部は何年も前に廃部になっていて、放課後にこの武道場をつかう部活はないはずだ。

 武道に力を入れているわりには、その当の柔道部は廃部になってるのだ。

 ま、今時必修科目でもなきゃ、柔道なんて好き好んでやるやつはいないんだろう。

 汗臭いし、痛いし苦しいし。

 少子化で生徒の数も減ってきていることだしな。

 しっかし、こんな広い場所で、ひとりきりで畳の上に寝転がっている、ってのも、開放感にあふれていて、案外悪くない。 

 こうして畳の上で横になっていると、身体の痛みがゆっくりと引いていく。

 それが心地よくて、いつの間にか俺は、ふわふわと眠りの世界に入っていった。


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