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第6話 侍女ティート

 ヴァイスは聖女ルーフィが滞在しているという都市へと向かった。その都市は王国で三番目に大きい都市で、王国でも最大規模の教会支部があることで有名な街だった。ヴァイスは街に入ると宿を取り、ルーフィや教会関連の情報を集める。その結果、ルーフィが滞在している屋敷の場所がどこにあるのかわかった。ヴァイスはさっそくその屋敷へと向かった。


 屋敷は街の中でも閑静な住宅街にあった。それなりに大きい屋敷で周りを高い柵に囲まれ、正門には二人の衛兵が立ち、絶えず周囲に目を配っている。柵の中でも複数の衛兵が屋敷の周りを巡回していた。さすがに聖女が滞在している屋敷だけあって警備は厳重だった。


(これはこっそり忍び込むのも容易ではないな……。さて、どうしたもんか……)


 寄生体を放つことも可能だが、万が一寄生体が兵士によって捕まえられた場合、教会側に寄生生物の存在が知られてしまうリスクがある。ヴァイスはその事態だけは絶対に避けたかった。ヴァイスはとりあえず屋敷の監視を続け、まずはルーフィの行動パターンを把握することに決めた。焦る必要はない。機会は必ずあるはずだ……。


 ヴァイスがルーフィの屋敷の監視を始めてからおよそ一週間が経った。それでわかったのは、平日はルーフィは屋敷から教会へと向かうが、常に周りに兵士や使用人がいてルーフィを守っていること。そして、休日はルーフィはほとんど屋敷から出てこないことだった。ヴァイスが思っていた以上にルーフィには全く隙がなかった。


(くそっ……このままじゃ埒が明かない……)


 ヴァイスは強行突破する作戦も考えたが、ルーフィの魔法は強力で下手すれば返り討ちに遭う可能性もあり、断念せざるを得なかった。ヴァイスは、ただひたすらチャンスの到来を待って忍耐強く監視を続けた。



 ヴァイスが監視を続けてさらに一週間が経った休日のある日、ヴァイスは遂にルーフィの隙へと繋がる光景を目撃することに成功する。ヴァイスがいつものようにルーフィの屋敷を監視していると、屋敷と隣の家の間にある路地から二人の少女が姿を現したのだ。そのうち片方は変装をしているが、明らかにルーフィ本人であった。もう片方は変装はしておらず、普通の市民のような格好をしていた。ヴァイスはその少女に見覚えがあった。


(あれはいつもルーフィの側にいる侍女か……。確か名前はティートとかいう……)


 ヴァイスはルーフィがいつもとても仲が良さそうにその侍女とおしゃべりをしているのを見ていたので、その侍女の存在は強く印象に残っていた。二人は足早に屋敷を離れると、楽しそうに話をしながら街の中心部へと向かって歩き出した。大方、お忍びでの買い物といったところだろうか。


 ヴァイスは二人の後をつけた。二人は街の中心部の商店街まで来ると、ある服屋へと入っていった。ヴァイスもその服屋に入り、二人の会話が聞こえる位置まで近づいた。


「ルーフィにはこれが似合うと思う!」


 ティートがフリフリした可愛らしい服を取ってルーフィに見せた。


「……す、少し派手じゃない?」


 ルーフィはそう言って恥ずかしげな顔をする。


「そんなことないよ! 最近はこういうのが流行りなんだよ」


 ティートがにこにこしながら言った。ルーフィは「そ、そうなの?」と言いつつ、服を試着した。試着後、ルーフィは「や、やっぱりちょっと派手だよ」とモジモジしながら言いつつも満更でもなさそうだった。ティートはその服がすごく似合っていることを主張し、結局ルーフィはティートおすすめのその服を買うことにした。


 その後、二人はキャッキャと楽しそうに話をしながら色んな服屋やアクセサリー屋、バッグ屋を巡り買い物を楽しんだ。ヴァイスはそんな二人に気取られないように慎重に尾行を続けた。

 あらかたの買い物を終えると二人は喫茶店へと入っていった。


「はい、あーん♪」


 ティートがそう言ってスプーンですくったケーキをルーフィの口元へと持っていく。


「ちょ、ちょっとティート、やめてよ恥ずかしいじゃない」


 ルーフィが周りを気にしながら言った。


「えー、でも、これすごく美味しんだよ! だからルーフィにも分けてあげる。はい、あーん♪」


 ルーフィはそれでも拒否をしたが、決して諦めないティートの攻勢に観念したのかパクっとスプーンの上のケーキを口にする。


「お、おいしい……」


 ルーフィは驚いた顔で言った。どうやら予想以上に美味しかったようだ。


「でしょー。ここのお店のケーキはすごく美味しいって有名なんだよ!」


 ティートが得意げに言った。ルーフィは感心したようにティートを見る。その後はケーキやお茶を楽しみつつ、二人は何気ない会話に花を咲かせた。聖女と侍女という違う立場の二人だったが、傍目から見れば完全に友達という雰囲気であった。


 二人はその後、公園に寄って散策をしたり、池の水鳥を観察したりして休日の午後を過ごした。そして、日も暮れかけてきた頃になると二人は屋敷への帰路に着いた。



「……そう言えば今度、辺境の村に行くって聞いたけど大丈夫?」


 二人で歩いていると、不意にルーフィが少し心配そうな顔をしてティートに尋ねる。


「全然大丈夫だよ! 神殿騎士の人も一緒なんだし。もう、ルーフィは心配性なんだから」


「でもティートって昔からエスティ姉と似たところがあって、どこか抜けてるところあるから……」


 それを聞いてティートは「えー、そんなことないよ」と少し不満げな顔をして言った。


「……でも本当に大丈夫。さっと行って薬草取ってさっと帰ってくるから! 三日もかからないだろうって騎士の人も言ってたしね」


「それならいいけど……。でも魔物とか盗賊には本当に気をつけてね。できれば私も一緒だったらよかったんだけど……」


「……ルーフィにはルーフィの仕事があるでしょ? もちろん私にも侍女としての仕事がある。だから心配しないで待ってて」


 ティートはそう言ってにこりと笑った。


「……うん、わかった」


 ルーフィはそう言った。一方、ヴァイスは二人の会話を聞いて薄ら笑いを浮かべていた。


(ティートは薬草採取のためにこれから辺境の村へと向かうのか……。くく、これはいいことを聞いたぞ)


 ルーフィを直接狙うのが難しいのであれば、その最も親しい友人であるティートを先に狙えばいい。そして、ティートを寄生生物に変えたあとは、ティートを使ってルーフィを落とす。これは寄生生物の特性を生かした、とてもいい作戦だとヴァイスは思った。


 ヴァイスはその後の情報収集により、ティート一行が訪れる予定である村を特定することに成功した。ヴァイスは急いで村へと先回りをする。ティート一行はそれを知るよしもなく、ヴァイスが待ち伏せる村へと出発するのだった……。


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