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第19話 エルフの女王の喜び

 神殿騎士団の力を借りた獣人軍団は圧倒的で、エルフの戦士団を次々と撃破していった。都市は次々と陥落し、首都へもうすぐというところまで迫った。エルフの戦士団は全ての兵力を首都へと集中させ、籠城戦に打って出た。


 しかし、もともとエルフの首都は戦争用の都市ではなく、首都を囲んでいる城壁は低く弱いものだった。獣人軍団は安安と城壁を切り崩し、遂に首都へとなだれ込んだ。いたる所で火の手が上がり、獣人軍団とエルフの戦士団の市街地戦が始まった。獣人軍団は数にものを言わせてエルフの戦士団を押し込み、王宮へと迫った。



 ヴァイスは獣人軍団が首都に侵入し、エルフの戦士団と市街地戦を始めた頃を見計らって王宮へと向かった。ヴァイスはあらかじめ顔を錬成によってエルフのように変えていて、さらにエルフの戦士団の鎧を来ていたため、道行くエルフの戦士たちは誰もヴァイスを気にもとめなかった。


 ヴァイスは王宮前の正門をやすやすと通り抜け、王宮内へと入った。王宮内は混乱の頂点に達しており、多くのエルフたちが必死の形相で走り回っていた。ヴァイスはそれに紛れて王宮の奥へと向かった。


 そして遂にヴァイスは、誰にも怪しまれることなく女王の間の前まで来ることができたのだった。しかし、ここにきて女王の間への扉の両脇にいる衛兵がヴァイスを見て声をかけた。


「そこの者、止まれ! 何用だ?」


「はっ、私はエルフ戦士団第八師団副長の者ですが、至急、女王陛下に報告することがあります!」


「……至急だと!? どんな内容だ?」


「今、ここで申し上げる時間はありません。今すぐ女王陛下に会わせてくださいッ! 早くしなければ大変なことになってしまいますッ!!」


 ヴァイスは鬼気迫る顔をして言った。すると衛兵は顔を見合わせて頷き、ヴァイスに言った。


「わかった! 扉を開ける。早く、女王陛下に報告するんだ!」


 衛兵はそう言って扉を開けた。ヴァイスは心の中でニヤリと笑うと女王の間へと足を踏み入れた。


 女王の間では、エルフの女王が玉座に座りながら側近の者と何やら話をしていた。後方には女王の直属の護衛と見られるエルフの戦士が二人控えていた。ヴァイスが女王の方へと歩み寄ると女王がそれに気づき、ヴァイスに声をかける。


「誰だお前は? どうしてここに?」


 女王はヴァイスを見てそう言った。ヴァイスは女王の前で跪いて言った。


「私はエルフ戦士団第八師団副長のヴァイスと言う者です。このたびは女王陛下に至急申し上げなければならないことがあったため、ここに参上いたしました!」


 女王はヴァイスの言葉を聞いて怪訝な顔をした。


「至急だと? ……申してみよ」


「はっ」


 するとヴァイスは懐から一つの石を取り出した。


「……これです」


「? なんだその石は?」


「この石は封魔の石と呼ばれるもので、半径数十メートル以内の全ての魔法を吸い取って無効化する力があります」


「……ほう、それで?」


 女王がそう言うと、ヴァイスは笑みを浮かべて立ち上がった。


「……つまり、あなたはここでは魔法が使えなくなるってことですよ陛下」


 ヴァイスはそう言うとエルフの顔であった自身の顔を、もとの人間の顔のものへと戻した。


「!?」


 女王と側近が驚いた顔をしていると、ヴァイスは指をパチンと鳴らした。すると後方に控えていたエルフの護衛が女王に近づいてきて、護衛の一人が側近を背後から剣で貫く。


「がっ……」


 側近が倒れると、女王は驚いて立ち上がる。しかし、そこでもう一人の護衛が女王を背後から羽交い締めにした。


「くっ、何の真似だ!! 離せ!!」


 女王はそう言って抵抗するも、護衛のエルフは普通では考えられないほどの力で女王を押さえ込み、全く離さなかった。


「……くく、無駄だ。そいつらは既に寄生済みだからな。お前の命令は聞かんよ……」


「な、何!? どういうことだ!! ……くっ、かくなる上は!!」


 女王は何やら呪文を詠唱するも、何も起こらずただ封魔の石が光っただけだった。


「ば、馬鹿なッ!!」


「だからさっき言っただろう? 魔法は無効化したって。……さて、獣人軍団がもう目と鼻の先まで来ている。女王には早くこちらの戦力となってもらわないとな……」


 そう言ってヴァイスは懐から寄生体の入った瓶を取り出し、瓶の蓋を開けて中からアメーバのような寄生体をつまみ出した。ヴァイスはその寄生体をつまみながら女王へと近づいていく。


「な、何をするつもりだ!! やめろ!!」


 女王は必死に身体を動かして逃げようとするが、寄生済みの護衛の凄まじい力の前に抜け出すことは全くできなかった。女王は叫び声を上げ衛兵を呼ぼうとするが、ヴァイスは女王の間に入った時点で既に女王の間を防音が完璧な部屋へと錬成しており、その声は虚しく響くだけであった。ヴァイスは女王の前まで来ると女王の頬を掴んで口を開けさせる。


「ぐ……お……」


 そしてヴァイスは寄生体を女王の口の中へと入れ、女王の口を閉じさせた。その拍子に女王は寄生体を飲み込んでしまった。


「くく……これでよし。あとは待つだけだな……」


「き、貴様! わらわに何をしたッ!?」


「すぐにわかるよ」


「な、なんだと!? 貴様、たたではおかん……ぞ……ぎ……げ……」


 女王が言い終える前に、寄生体は女王の身体との同化を開始した。女王は口からよだれを垂らしながら、半白目の状態になると身体をびくんびくんと痙攣させる。


「あ……が……」


 女王はしばらくその場で身体を痙攣させていたが、そのうち瞳に爛々とした光を宿し始めた。ヴァイスはそれを見て笑みを浮かべた。女王は完全に寄生生物へと変わったのだった。


「気分はどうだ?」


 ヴァイスはそう女王に問いかける。女王は先ほどまでとは打って変わった様子で顔を紅潮させると、ヴァイスに言った。


「……主様、これほど素晴らしい日は、私は今までに体験したことがありません。これも全ては主様のおかげ……。これからは身も心も全て主様に捧げたいと思います」


「くく、そうか。……放してやれ」


 ヴァイスがそう言うと護衛は女王を放した。すると、女王はヴァイスに向かって跪く。


「……これからすべきことはわかっているな?」


「はい、もちろんです……」


 そう言って、寄生生物へと変わったエルフの女王ディアナはヴァイスを恍惚とした目で見た。ディアナは既に自分がエルフの女王であるということはもうどうでもよかった。それよりも、主であるヴァイスに仕えられるという喜びで胸が一杯だった。


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