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For freedom―悪魔の力を宿した男―  作者: シロ/クロ
第2章:Venture Into the Unknown
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第6話:ハプニング発生中!!②

きり悪かったので短めです。前の話に入れておけばよかった。

 一面の白い海の真ん中に、黒い装束を身に纏い佇む少年。その周りを陽を浴びて輝いている緋色の粒子が慌ただしく舞っている。ささやかに花緑青色の風も少年の身体を中心に渦巻いている。

 その色鮮やかな光景を初めて見た者は圧倒され息を呑むだろう。戦闘時に人間が放つ色ではない。そこには未知の魅力があり、危険な香りがする。


 その魅惑の戦闘スタイルに、未知故に恐怖する者もいるが、フェイの瞳は期待に輝いていた。


「すごい……すごすぎる……」


 フェイが負けたシュナイトとラミ。無様にもアランフットに縋ったことには、その二人が自分よりも強いと言った人物の実力は如何ほどかと確認の意味も少しはあったが、全くその実態は理解できていなかった。しかし今、二人が言っていたことの意味をようやく理解した。アランフットは強い。それは自分たちと同じ基準で測ることのできる強さではない。本質的には理解できない、しかし凄いことは理解できる、そういう強さだ。


「〈妖精術:――」


「ど、どうした?」


 技名を叫んだと見えたが何も起こらず、フェイは首を傾げた。


「すまんフェイ!もうちょい時間かかるから!ちょっとだけ止めといてくれ!」


 アランフットが顎で示したことでフェイは自分が置かれている状況に気が付いた。既に大量のホワイトスパイダーがフェイの元に駆け寄ろうとしていた。その光景にフェイは生唾を飲み込む。


 異形の珍獣とはいえ動物は動物。扱う力は自然力だ。フェイにはアランフットの強さをすべて理解できなくとも、ホワイトスパイダーにはその真の強さがわかる。


「ギギギ……」

「ギチチチ……」


 真の強者を目の前にし、半永久的に分裂が可能だったはずのホワイトスパイダーが死を悟った時、本来あるはずもない知性のようなものが、或いはそれが本能の指し示す道か、一つの活路を見出だした。

 それが恐怖の色を全身で体現している者の存在だった。自然界において殺気と恐怖は相手に気取られやすい。そしてそれに付け込まれることも必至。


「「「「ギチギチ!!」」」」


 ホワイトスパイダーは一斉にフェイに向かって駆けだした。

 目の前のバケモノには勝てない。だが恐怖心をダダ漏れにしている人間には勝てるかもしれない。しかもその人間はバケモノと行動を共にしていた。ならば仲間である可能性は高い。その人間の近くにいればバケモノは攻撃してこないかもしれない。と、珍獣なりにあるはずもない頭をフル回転させた答えだった。


「ふ、ふざけんじゃないぞアランフットぉぉ!!」


 先程まで輝いて見えていた先輩が一気に悪魔のように見えてきた。アランフットに大量の文句を浴びせたいところだが、アランフットは既に目を閉じ、フェイのことは全く気にしていない様子だった。

 仕方なくフェイは目の前に迫る大量のホワイトスパイダーを見る。小さい白い蜘蛛が大量に蠢ている。あまりの不快感に吐きそうだった。


「……今吐いたら一気に襲われるぞ」


 だが、そう呟いて自信を鼓舞する。アランフットは止めろと言った。倒せとは言われなかった。フェイは即座に自分がやるべきことを悟る。


「【制限解除(リミッターリリース)】!!」


 フェイはまず右手の【制限(リミッター)】に触れ第五角まで開放する。辺りには檸檬色の輝く粒子が一気に展開した。そして《浮遊魔力(フロート)》を自身の右手に集め、続けざまに《魔法》を発動する。


「《雷魔法:電地爆雷(でんちばくらい)》!!」


 フェイは雷を纏った右手を勢いよく地面につける。すると五指から這うように電気が地上を走りホワイトスパイダーへ迫っていく。

 その様子はその場にいれば誰にでも見えていただろう。わかりやすい攻撃だった。ホワイトスパイダー群にもわかっていたはずだ。だが、蜘蛛は止まらなかった。


 目の前に迫る《魔法》よりも、背後でうねる自然力の塊の方が恐ろしかった。一秒でも早く避難場所であるフェイに辿り着きたかった。


「バカで助かった~~」


 フェイは小さくため息をついた。


 ボカンボカンボカンボカンボカンボカンボカンボカンボカンボカン


 フェイが放った《魔法》に躊躇なくツッコむホワイトスパイダーたちが一斉に爆発によって吹き飛び始めた。


「「ギチィィ……」」


 苦しそうなうめき声を上げながらホワイトスパイダーはアランフットの脚元に転がっていく。


「ふぅ。なんとかなったぁ……」


 フェイは木の幹に背中を預け、額に滲んだ汗を拭った。


「おいっ!終わったぞ!!」


「ありがとう!こっちももう準備できるから!」


 アランフットはフェイの顔を見て頷き、そしてまた目を閉じた。


(「アリー!アリー!!聞こえないのか!!」)


(「ふああああ。頭に直接語りかけないでよ。気持ち悪いから」)


(「仲間に気持ち悪いって言うなっ!それに仕方ないだろ。近くに人間がいるんだから」)


(「まあ確かにそれは……で、なに?」)


(「なに?じゃねぇよ!さんざん無視しやがって!」)


(「仕方ないじゃん!なんかここ変でさ……眠くなるんだもん」)


(「……まあいいよ。技は俺が用意したから発動に合わせて自然力だけ送ってくれ」)


(「へいへーい。じゃ、頑張ってねー。ウチは寝るから」)


 ブチッという音と共にアリーとの通信が途絶え、アランフットは顔を顰めた。


「ったく、礼儀のなってねぇ羽虫だな」


 文句を言いながらアランフットは両手を手に挙げた。それに伴いそれまでにアランフットが溜めた自然力の塊も頭上に移動する。


「《妖精術:暴風嵐撃(ぼうふうらんげき)》!!」


 アランフットが両手を勢いよく振り降ろすのに伴って、自然力が白く濁った風に変換され、それが嵐のように激しく高速で回転することで刃のような切れ味を帯びている。


(「羽虫っていうなぁぁぁぁ!!!!」)


 そこにアリーの怒号と大量の自然力が上乗せされ、《暴風嵐撃》は更なる威力を、アランフットの想定以上の威力を持った。


「やべぇ!フェイ!跳べっ!!」


 アランフットの咄嗟の指示に、フェイの頭が理解するよりも早くフェイの体が反応する。

 直後、一瞬の嵐が蛇のように地面をのたうちまわり、地面を削りながらフェイの足元を過ぎ去っていった。


「「「ギギギギィィィ」」」


 ホワイトスパイダーは奇妙な音を上げながら消滅していく。「死」ではなく「消滅」。珍獣は自然力によってのみ存在が消える。体液も散らさず、死体も残らず、ホワイトスパイダーは塵になり、微かな風に流れて消えていった。


 珍獣にとってアランフットは「珍獣の森」に突如現れた悪魔そのものだった。


「おいアランフット!話が違うぞ!」


 フェイは自身にホワイトスパイダーを向かわせた怒りをまだ解消できていなかった。


「ギ……ギチ……」


 怒りのあまり、自身の頭上に潜む三匹のホワイトスパイダーにも気づかない。


「だいたいお前は――」


 アランフットが七星剣を振る動作を見せた。フェイは咄嗟に身構える。

 怒っているとはいえ敵意はない。そんな人間に武器を振るような奴だったのかと、別の怒りがまた湧き上がりそうだったが、すぐにアランフットの真意を悟った。


「ギ、ギチィ……」


 頭上からホワイトスパイダーの死体が細かくなって落ちて来て、そして塵となって消えていった。


「アランフットさ~ん、最高でしたよ~」


 アランフットに奇妙な友人ができた。



 ○○○



「おいっくっつくな!歩きづれぇ!」


「いいじゃないすかアランフットさん……いや、アニキ!アニキと呼ばせてください!アニキっ!!」


「だめだ!!」


 しつこく近づいて来るフェイの顔をアランフットは手で押さえて拒絶する。


「アニキぃ!!」


「ああ?」


 そしていつでも神経を逆なでしてくる鬱陶しい声にも腹立たし気に反応する。


「なんだよソイ。急に出てきやがって」


「なぁんかね……すごくいやな……」


「な、な、な、なんですかの生き物は!?アニキ!!」


 ソイの言葉を遮って、フェイは突如現れた獣の耳と尾を生やした銀髪の少女に驚きの声を上げた。


「もしかして、これもちんじゅ――」


 ソイに絶対に言ってはいけない言葉は最後まで紡がれることはなかった。フェイの視界は腹にめり込んだ小さな拳を捉えたのを最後に暗転した。


「おい、一応仲間だぜ?」


「こんな失礼な小童、わたくしは大嫌いです!!」


 頬を膨らませたソイは、自身を咎めようとするアランフットの顔を一瞥した後、ふんっと顔をそっぽ向ける。


「まあ、最悪フェイはいいとして、ソイはなにしに来たんだよ。俺は今忙しいんだ。どっかのバカが一時的な感情で後先考えず動くから荷物が増えちまったしな!」


「バカで~す。何言ってるかわかりませ~ん」


「おらっ!!」


 アランフットはソイの頭めがけて思い切り拳を振るが、ソイは難なくかわす。


「と、冗談は置いておき……主人(マスター)、なんだかすごく嫌な感じがするんです、この森。入る前までは何ともなかったんですけど、主人(マスター)が【制限解除(リミッターリリース)】をした時から、うまく表現できないんですけど、概念体である私が体の芯で恐怖を感じるような……それはまるで――」


「どっっっっっひゃぁぁぁぁぁ!!」


 ソイの言葉は今度は間抜けな叫び声によって掻き消された。

 大きな土埃を上げながらアランフットとソイ(と気絶したフェイ)の前に転がる二つの影。一つはとてもそんな叫び声を上げるような人間ではない。

 ならば間抜けな叫び声の持ち主はすぐに立ち上がった人物ということになる。


「やあアランフット……とお嬢さん」


 と気絶したフェイ君、とシクルは優雅に挨拶をする。服はところどころ破れ、全身が汚れている。お高くとまった貴族の面影は全くない。


「おお……なんか楽しんでそうだな」


「楽しくなんかないぞ?見ろ。いかにも珍獣ってやつが追いかけてくる」


 シクルは今しがた自分たちがやってきた後方へ親指を向けた。アランフットが耳を澄ますと確かにドシン、ドシンと何かが近づいてくる音がする。

 足音の大きさと地面に伝わる振動から、迫ってくる珍獣がかなりの大きさだということもわかる。


「……シクル……来るぞ」


「……主人(マスター)、近づいてます……」


 ウマートとソイがほぼ同時に声を発する。


「お前は何と戦ってたんだ?」


「セデュースだよ」


 うえっとアランフットは声を漏らした。試験開始前に見た気色の悪い珍獣を思い出してしまった。


「あいつ強いの?」


「ああ、私がこうなるほどに、と言えばわかるかな?」


 シクルは半ば嬉しそうに、くるりと一周回って自身のボロボロな服装を見せつけた。だが、アランフットにはシクルの強さがわからないため、何を以て判断すればよいのかもわからない。


(「まあ雰囲気強そうなウマートもボロボロだからそれなりには強そうだな」)


 無口な人は強いと、アランフットはなんとなしに感じている。



 ドシンドシンドシンドシン



 先程まで少し遠くに聞こえていた足音が徐々に近く速くなっていく。セデュースがアランフットたちの位置を特定し突進しようとしているのだろう。


主人(マスター)!!来ますよ!!」


「んなこと言われなくても聞こえてるよ!!」


 アランフットは身構える。

 セデュース並みの巨体で突進されれば死ななくとも大きな傷は負うだろう。それに加えアランフットは気絶したままのフェイのお世話もしてあげなければならない。


「アランフット、私が持ち込んだ戦いだが少し加勢してくれ。どうも二人だけでは厄介な相手でね」


「おう、そのつもりだぜ」


 シクルの救難信号にも快く応じる。

 と言うより、この状況でシクルたちを放っておく判断をするほどアランフットも悪魔ではない。少なくともまだそういうところは人間的でいさせてくれと、アランフット自身も感じている。


主人(マスター)!!来ますって!!」


「わかってるよ!俺はおじいちゃんか!ちゃんと足音聞こえてるわ!お前このまま居座るならフェイを連れてどっかに……」


「違います!!セデュースじゃない!何か!何か!!『神』みたいなのが!!近づいてきてるんです!!」


「えっ……」


 木々が吹き飛ばされる轟音と共にセデュースが登場するが、アランフットにはその音が遠い世界の音のように離れて聞こえた。


 奇妙な感覚を感じながらアランフットの視界は黒く染まっていった。気を失っているのではない。ただ、事実として黒く染まっていったのだ。

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