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For freedom―悪魔の力を宿した男―  作者: シロ/クロ
第2章:Venture Into the Unknown
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第5話:珍獣の森

感想・ブックマークなどよろしくお願いします。

 本日のコレジオの授業、今後開催されるナイヤチ共和国との共同訓練に向けて「北宮」のコレジオから参加する生徒を決める選抜は、「王都」から出て少し離れた「ムサ」という町で行われる。


 ムサは町の規模としては小さく人口は百人ほどだ。しかし「北宮」に入る前の最後の宿場町であり、人口よりかは活気のある町にはなっている。

 加えてこの街には大きな役割があり、それこそが今回の選抜試験にこの地が選ばれた理由である。


「遠い道のりお疲れさまでした。ようこそお越しくださいました」


「急な依頼ですいません。ご迷惑おかけします」


「いえいえ、私共も皆様のお力になれて光栄です」


 レースと話しているムサの長は腰を低くして歓迎の意を示した。

 この町に来ている子供たちはただの子供たちではない。大人でも目を見張るほどの優秀さはさることながら、平民は誰でも頭が上がらない程の貴族が紛れている。特にシクルの家系であるラワジフ家はムサの地を気に入っており、ムサの者の声を借りれば「よくしてもらっている」。

 失礼の無いようにという意識もあるが、本心から歓迎しているのも大きい。


「お前ら、この町の人たちに迷惑をかけるなよ!」


「「「は~い」」」


「ははは。何でもお申し付けください。できる限りのお手伝いは致します。ただ……」


 ムサの長は表情を曇らせ声を潜めた。まるで怪談話をして子供たちを怖がらせるように。


「森には絶対に勝手に近づかないでください。死んでしまっても責任はとれませんので……」



 ○○○



「なに探してるの?」


 レースがムサの人たちとの協議を行うためコレジオの生徒たちは一旦自由行動を言い渡された。

 軽食を販売している店に赴いたアランフット、シュナイト、ラミだったが、アランフットが何やらせわしなく動き回っているのを見てラミは声をかけた。


「んー……いやさぁ」


 アランフットは商品が並べられた棚を注意深く見渡しながら答えた。


「昨日戦ったやつがなんか持っててさ……」


「昨日戦ったやつ!?」


 シュナイトは驚きの声を上げた。


「もう問題を起こしたのかい!?町に被害でも出たらどうするつもりだったんだい?」


「わりぃ、その時はもう周りが見えてなくて。十二協会のやつだったから」


 その言葉を聞き、アランフットに批難の目を向けていた二人の表情が強張る。


「もう来たの?まだアランが帰ってきて二日しか経ってないじゃない」


「油断ができない状況はもう始まってんだな……」


 その言葉とは裏腹にアランフットは緊張感無く商品棚を物色し続ける。その様子に耐えかねたシュナイトは声をかける。


「さっきからアランは何をしているんだい?」


「あー……昨日のやつが持ってた()()()()ってのを探してんだよ。うまそうだったから俺も食いたいなと思って」


 耳を疑うようなことを言いだすアランフットに驚き、シュナイトとラミは顔を見合わせる。


「ひょうかって氷菓のこと?こんなところにあるわけないじゃない。あれは氷なんだから専門店に行かなきゃないわよ」


「知らねェよそんなこと。初めて見たんだよ」


「まあ確かにアランがいなくなってからできた……気がするな。うん。確かに知らないのも無理ないかもしれないね」


「なーんだ。ここにないならもういいや。帰ってから食おっ」


 目的の品がないとわかり一気に興味を失ったアランフットは店の外に出る。二人もその背中を追った。


「アラン!そんなことより十二協会の刺客が来た話を詳しく聞かせてよ。重大な事件じゃないか!」


「でも何もなかったんだよ。……共同訓練に行けば会えるって。それまでに俺はもっと強くならねェとな……」


「もっと外見の特徴とか能力とか言えることは他にも……」


「「ギャ―――」」


 大きな悲鳴によってシュナイトの詰問は未然に防がれた。美味しい逃げ道を見つけたアランフットはすぐに悲鳴のした方へ走り出した。


「おい!なんか面白そうだから行くぞ!」


 ***


 ムサの長に近づくなと注意された森への侵入を防ぐように周囲に巡らされている柵の近くに見慣れた顔が集まっていた。

 柵の向こうには何やら奇妙な物体が人間たちを見下ろしている。それを見て子供たちは歓声やら悲鳴やらを上げていた。


「どうしたんだ?」


 アランフットはその集団に駆け寄り事態の説明を求めた。話題の中心人物の登場に群がる集団が一斉に振り返った。


「おお、貴様が来たか。お前の顔をした珍獣がいるもんで皆で盛り上がっていたのだ」


 シクルは好奇の目をアランフットに投げかけた。それを鬱陶しく感じるアランフットだが、興味は自分の顔をしているという珍獣に向いている。そんな珍獣いたらたまったものではないが、いたらいたでまた面白いのも事実だ。百聞は一見に如かず。とりあえず見なければ話は始まらない。


「……そんなのいねェぞ」


 珍獣と言われれば、それっぽいものは目の前の奇妙な物体しかない。だがそれはアランフットの顔などしておらず奇妙そのもの。奇妙と言うよりも気持ちが悪い。

 アランフットの顔をそのようなものだと悪口を言っている可能性もあるが、そうであれば今からアランフットは全力でその場にいる数人を叩きのめさなければならない。


「うわっほんとだ。アランの顔してる動物だ。いやシュナの顔も見えるな」


「僕もアランとラミの顔が見えるよ」


「なに言ってんだ二人とも」


 少し遅れてやって来たシュナイトとラミはその珍獣を見上げ各々見えるものを言った。奇妙な光景に思わず口から言葉が零れ落ちたようにポツリと呟いた。


 だがアランフットにはそれが信じられない。自分の悪口を絶対に言わないであろう二人ですら、その奇妙な物体の顔には自分がいると言う。


「人の顔なんかじゃねェだろこれ……」


 アランフットに見えている珍獣は、珍獣と言うよりも物体と言い表した方が適切な気がするほど、それが動物であるという判断はまともな人間では下せないような姿かたちをしている。


 猛禽類のような鋭い鉤爪、それを従える馬のような強靭な四本の脚、胴体は虎のような縞模様で、尾は蛇のようにうねっている。顔は修羅の如く、頭からはチョウチンアンコウのような電球のようなものが垂れ下がっている。

 そんなものを見て誰が動物だと思えるだろうか。


(『お前にはオレが見えているのか。生意気なガキだな』)


「うわっ喋った!!」


「どうしたの?」


「目の前の気色悪い奴が俺の頭に直接話しかけてきてる」


 不意に頭に響いた声にアランフットは叫んだ。頭の中の声に良い思い出はほとんどない。


(『……いや、なんだ、そういうことか。どおりで懐かしいニオイがすると思った。またあとでな』)


 そう言ってその珍獣は踵を返して森の奥へと去っていった。


「なんだって?なんて言ってたの?」


「いや、よくわからん。なんか言って帰っていったぞ」


 実際アランフットに理解できることは何も言っていない珍獣。勝手に自分だけ納得して行ってしまった。結局あれが何だったのかは誰にもわからなかった。


「こらこら!!森に近づいたらだめじゃないかー!!」


 その場にムサの住人の一人が駆け寄ってきた。


「襲われたりしたらどうするんだい!町の人がいない状態では絶対に森に近づいてはダメだからね!!」


 割にしっかりと怒っている雰囲気を察した子供たちは「は~い」と各々気の抜けた返事をした。

 その様子を見てため息をつく男性。好奇心旺盛な子どもたちが言うことを聞きそうにないことがわかってしまったからだ。


「さっきの珍獣は何ですか?」


 シュナイトがそう尋ねると、その男性は唇に立てた人差し指を添えながら身を屈めた。子どもたちもつられて片耳を男性の方へ寄せる。


「町長はみんなを驚かせたいだろうからあんまりたくさんのことは教えられないけどね、さっきのは『セデュース』という珍獣だよ。頭の先から伸びている触手から光を発していろんな意味で最も想っている人物の顔を見せて人を惑わすんだ。それで近づいて来た獲物を丸飲みにするのさ」


 まんまとその誘惑に引き付けられてしまっていた子供たちはごくりと生唾を飲み込んだ。


「……じゃあ君たち、時間まではもう絶対に森には近づかないでね」


 子供たちの表情が強張ったことを確認した男性は、そう言って足早にどこかに向かって行った。


「最も想っている人物の顔を見せる、か……」


 ぽつりとアランフットが声を漏らしたことを皮切りに、皆一斉に自分が見たものの言い訳をし始めた。そこにいたほとんどがアランフットの顔を見ていた。各々それなりに恥ずかしい。


「ベ、別にアランのことが好きだから見えたわけじゃないからっ!シュナの顔も見えたし!」


「貴様のことなどなんとも思ってないっ!」


「あたしは好きだからお前の顔が見えたぞ」


「僕もアランのこと好きだからみえたのかな。ラミの顔も見えたけどね」


「…………」


「俺は大嫌いだからアランフットの顔が見えたぞ!」


「みんな俺の事好きすぎだろ――」と言いつつも、アランフットは違和感に気がつく。


「――ってお前は誰だよ!!」


 見知らぬ少年が一人紛れている。アランフット等と年齢はそう変わらないだろうが、自分よりは下であろうことはわかる。


「俺はフェイ。コレジオ四回生の成績優秀者としてここに来た。……アランフットを倒すために」


 憎しみの籠った眼をアランフットに向けるフェイ。

 アランフットからすればたった今初めて見た顔だ。恨みを買うようなことはしているはずもない。故にただ純粋に恐怖した。関わりのない人間から憎しみを抱かれるとはなんとも恐ろしい。何をされるか分かったものではない。


 ただ、周囲からその少年に対する警戒心はない。つまりアランフットが知らないだけであり、他は皆知っているということ。


「フェイ、ちゃんと説明しないとアランが困るだろう?」


 シュナイトはフェイの肩に手を置き、アランフットに笑みを送る。


「彼、なかなか面白い子なんだよ」


 そんなことを言われても、とアランフットは苦笑いを浮かべる。初対面で憎しみを向けられているアランフットからしたら面白いことなど一つもない。


「俺は……神童だと言われていた……」


 フェイは静かに語り始めた。


「生まれつき身体能力が高くて、【制限(リミッター)】は右十二角。同世代との喧嘩は負けなし。コレジオに入ってからは《雷魔法》だってわかったし、俺は自他ともに認める最強だった」


 アランフットは感心した。ポテンシャルは最高だ。


「三回生の時。シュナイトさんやラミさんと手合わせをする機会があった。三回生と五回生の合同授業の時だ」


「面白そうな事してたんだな」


 アランフットはシュナイトに話しかけるが、無言でフェイの話を聞くように促された。


「俺は学年の期待を背負って戦ったのに惨敗。手も足も出なかった……」


「まあそれは仕方ないだろ。シュナもラミも強そうじゃん」


「それだけならまだいい……こいつらは負けた俺になんて言ったと思う?」


 アランフットは困ってしまった。この話の流れ的に敗者にかけた言葉がまずかったのだろう。フェイの心を抉るような酷い言葉をかけたのだろうか。あの心の優しいシュナイトやラミが。全く想像がつかなかった。


「んー……弱すぎる、とか?」


「それならばいい。事実だし努力しようという気にもなる……こいつは!こいつらは!アランフットの方が強いと言ったんだ!!」


 アランフットはキッとシュナイトを見る。彼は顔の前で手を合わせ謝っているがにやけた笑みは消えていない。


「こいつらは目の前にいる俺ではなく、アランフットのことしか見ていなかった!アランフットと言えば英雄だなんだと居もしないくせにもてはやされている奴だ!気に食わねェ!!」


「……俺のせいか?」


「そうだ!女たちもアランフットの事ばかり褒める!気に食わねェ!!」


「つまりその感情はなんだい?」


 シュナイトはフェイに問う。フェイはシュナイトを一瞥し、大きな声で高らかにその感情の所在を明かした。


「嫉妬だ!!!!!」


 あまりにも快活に叫ぶその姿にアランフットは呆然と口を開けることしかできない。アホなのだろうか。


「あははははは」


 シュナイトは面白いものを見たというように腹を抱えて笑っている。原因は彼が作ったというのに。ラミはどこ吹く風だ。三人の会話に参加してすらいない。


「俺は絶対に今日アランフットを倒すぞ!負けましたって言わせるからなっ!!」


 フェイは腰に手を当て、人差し指をアランフットの顔に向けて宣言する。迷惑な話だ。


「おいシュナ、お前のせいでめんどくさいことになったぞ!」


「ごめんごめん。でもフェイの実力は本物だよ。確かに力はあるからいい相手になると思うけどなぁ」


「俺の方が強いとか言っときながら……」


 シュナイトにぶつけたい不満はまだまだあったが、アランフットの感情は言葉になることはなかった。


「集合しろ!!!!」


 レースのアホほど大きな声が町全体に響き渡った。



 ○○○



「待たせたなお前ら!ようやく準備が整った!!」


 生徒の前にはレースとムサの町長の二人が立っていた。どちらも上機嫌で頬がやや紅潮している。普段なかなか表情を変えないレースがそんな態度だと、何かあるのではないかと逆に勘繰ってしまう。アランフットにはなにやら嫌な予感がしていた。


「ここからの説明は町長に任せる。お前らよく聞くんだぞ!」


 そう言ってレースは脇に寄り、町長だけがコレジオの生徒の前に残った。

 ムサの長は喉の調子を整えてから口を開いた。


「皆さん、改めてよくお越しくださいました。国の未来を担う子供たちのお手伝いができることを、私を含めこの町の者一同大変うれしく思います。そこにいらっしゃるシクル様のラワジフ家には大変お世話になっておりまして……」


 アランフットには興味のない話をつらつらと始める町長。アランフットはしばらく話を聞く必要はなさそうだと、空を飛ぶ鳥を眺めて時間を潰すことにした。


「そして今日の試験の事ですが……」


 町長がそう言ったのを聞き逃さなかったアランフットはようやく話しに耳を傾ける。


「皆さんの目の前にある「珍獣の森」を使って行います。皆さん、珍獣とは何か知っていますか?」


「はいっ!」


 その質問にラミが元気よく手を上げた。


「珍獣とは、その名の通り珍しい獣です。ただ珍しいだけではなく凶暴性や知能など普通の動物とは著しくその性質を異にしています。また見た目も奇怪なものが多く、動物を複合させたようなものが多いと聞きます!」


「素晴らしいですね。教科書通りの正しい知識を披露してくれました。ありがとうございます」


 町長は嬉しそうに拍手をしてラミを称える。ラミは当然だと言わんばかりに鼻の穴を膨らませている。


 アランフットは今の説明を聞いて思うところがあり、急いで精神世界でソイに問いかける。


(「なあ、ソイも珍獣か?」)


(「おいごらぁ!わたくしを珍獣とかいう下等種族と同じにすんじゃねェぞガキが!!」)


(「えっ……ごめんなさい……」)


 想像の範疇を優に超える怒られ方をしたアランフットはすぐにソイとの会話通信を遮断した。恐ろしい。今自分の身体が小刻みに震えているのではないかと心配になるほど、アランフットは恐怖を感じていた。もう二度とこの話題は口にしないでおこうと自分に固く誓った。それが誓いとして成立するのかは置いておいた。


「その珍しくもあり危険でもある珍獣が多く生息しているのがこの「珍獣の森」です。土地が良いのかこの森は珍獣に好まれるのです。この森はかなり広いのですが中央に一つ建物があります。皆さんにはその建物に辿り着くまでの速さを競ってもらいます。先着七名、この場に居るのが十二名ですから約半数が脱落となります」


 それぞれが互いの姿を見る。目線は合わないように、なんとなく周りの雰囲気を探っておきたい。緊張しているのが自分だけではないことを確認したかった。


「そしてもう一つ、「珍獣の森」では安全の保障はできません。もちろん我々が皆さんの安全を守るように最善は尽くします。ですが相手は珍獣。珍獣の動きを測ることを怠ったりはしませんが、不測の事態は起こり得るということです。それは覚悟しておいてくださいね」


 そう言ってムサの長は小さく息を吐いた。


「つまりだな……」


 レースが言葉を続けた。


「つまりこの森で死ぬかもしれないということだ。絶対の安全は保障できない。その万が一の死の可能性にすらビビるなら今すぐ試験から降りろ」


 ギャァァ、と不気味な声を上げて数羽の鳥が森から羽ばたいた。

 子供たちは恐怖に喉を鳴らした。


「ナイヤチとの合同演習は、いわば代理戦争だ。子どものお前たちが無理に巻き込まれる必要はない。ただ、自ら参加したいと言うのならば死への恐怖は克服しろ!これは遊びではない!国の進退が懸かっている!この程度の試練を余裕で越えられなければ、お前らにはこの国を背負う器が無いということだ!!」


 厳しい表情で子供たちを睨むレース。この程度の脅しで怯むようであれば「珍獣の森」に入れる訳には行かない。レースも、町長ですら森の中で何が起きるか完璧には予測できない。死への迷いが、その長善ではない現段階から生まれている人間に、この森での生存は見込めない。だから確認が必要だった。


「はっ!そんなんでビビるわけがねェだろ!レース!!俺はこの五年で強くなったんだ!どんな珍獣が出てこようと負けるわけがねェ!!」


「そうだぞレース。私たちは今限りなく強い。そんな我々が考えるべきは珍獣のことではなく、いかに他の人より早く着くかだろうよ!」


 アランフットの虚勢にシクルも加勢する。アランフットからしてみれば強がって放った戯言だったが、周りの友人には勇気を与えていたらしい。


「みんな行くぞぉ!」


「おおおおおお!!!」


 アランフットが拳を振り上げると他も呼応するように拳を挙げて雄叫びを挙げる。


「威勢があるのは良いことだ。だがなアランフット……」


 そう言ってレースは滾るアランフットの側に寄る。その拳は固く握り締められ、そのこめかみには薄く血管が浮いている。


「わたしはお前の友ではないんだ。次呼び捨てにしたら許さんぞ!!」


 素早い拳骨がアランフットの頭に叩き込まれ、アランフットは地面に倒れ込んだ。


「な、なんで俺だけ……」


 煙を上げる大きなたんこぶをこしらえて、アランフットは地面でピクピクと身体を震わせていた。



 ○○○



「それでは、ただいまより試験を始めます!!位置について。よーい……」



 シュナイトはアランフットの肩を叩いた。


「一緒に行くかい?」


「んー……別で行くか。勝負の方が楽しいしな」


 シュナイトは何がおかしいのか口を押えて小さく笑った。


「君ならそう言うと思ったよ。じゃあ負けないように全力でやらなきゃだね」


「絶対に勝つ!!」


「勝つのは私だぁ!アランフット!!」


 やや離れた位置からシクルが大きな声で叫ぶ。


「お前にも勝つからなっ!!」


 アランフットも同等の声で返し、手を振った。


 いよいよ試験が始まる。

 選考から漏れることはまずないだろうとアランフットは高を括っていた。敵になりそうな人物は少ないからだ。気を付けるべきは親しい友人たちだけだ。


 アランフットにとってここでの勝敗は今後の心持に大きな影響がある。『人間界』に戻って来てからというもの、アランフットには自身の成長の確信が無くなっている。

 確かに『ブラフマン』の改変があったとはいえ、アランフットが平均値以下の性能にまで落ちぶれるとは考えづらい。


 だとすれば敗北が示すのはたった一つの残酷な真実。


 圧倒的な潜在能力の差。すなわち才能の差。


 それを感じて絶望することは絶対に避けたい道である。だからアランフットは全力で首位を狙いに行く。



「始めっ!!!!」


 その声と同時に生徒たちは一斉に「珍獣の森」へと駆けていった。



「ん?」


 町長が浮かない顔をしていることに気が付いたレースが声をかける。


「どうかしたのか?」


「いえ、先ほどまで大人しかった森が不気味なくらい静かになりまして……なんだか嫌な雰囲気ですよこれは」


「やれやれ、私たちも気を引き締めなければな」


 そう言って大人たちも森の中へと歩みを進めた。

最近はジョジョのアニメを見まくってます。

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