精霊女王登場
今回投稿より第六章開始です。
よろしくお願い致します。
私やノワール、シャロルや天神界メンバーの立場や役職が確定してからある程度の日数が経った。
私は以前と変わらず別館のリビングにいる。国家総合監査長官の仕事はしていない。侯爵としての仕事も、そもそも領地が決まっていないため特に仕事がない。
つまりずっとニートしている。
理由は精霊、神獣、神龍の件がいつどういうかたちで動き出すか分からないからだ。
私だけ待機していれば良いのだけど、セリアも一緒に待機している。仕事しろよ。
「伝説達の動きが分かれば国内事情の説明とか街の案内とか出来るんだけどなぁ~」
「分かんないからずっと待機状態ね」
「みんなは動いてるけどね。アイラ達が来てからスケジュール変更してた者達も通常に戻ってるし」
「あんたは仕事しなくて良いわけ?」
「仕事中に何か来ちゃったらマズイじゃん!女王として神の眷属として常に愛しのアイラの状況を把握してないと落ち着かないもん!働けないよ~!」
「愛しって何よ。女王の自覚あんなら働きなさいよ。状況ならすぐ伝えられるでしょうが」
こんな感じで私とセリアはぐうたらしている。
他のみんなに関しては、オルシズさんやリリアちゃん、閣僚の人達は普段通りの勤務をしている。
アリスも今まで通りセリアの護衛であるものの、セリアが別館から動いてないため様子を見に来る程度になっている。ほとんどの時間を他の兵士との模擬戦や自己鍛錬に使っているらしい。ちなみに泊まり込みは既にしていない。
シャロルは別館内でメイドの仕事をしている。他の使用人との交流は私の事が落ち着くまで延期とのこと。でも別館に物を運んで来たりしてきた使用人とは話しているらしいけど。
ノワールは「監査員の仕事をするにはまず他の仕事を覚えるべき」と、国家総合監査員になった直後に語っていて、現在は国家政務室に行ってオルシズさんやリリアちゃんの書類仕事を教えてもらいながら手伝っている。
天神界から降りてきた面々も、それぞれの仕事を始めていた。
三姉妹の長女スンテノさんは使用人や兵士の散髪を行っている。
実は城の一室に使用されてなかった散髪専用の部屋があったらしい。利用者からの評判も良いんだとか。
ていうか、城に散髪専用の部屋って…。
三姉妹の次女エウリアと三女のメリッサは早速別館の警備に就いている。
部屋も客室から別館にある使用人専用の部屋へと移った。
基本的に別館出入口の門番として立っている事が多い。
私の専属護衛となったアテーナとアルテミスは基本的に私に付きっきり。二人も別館へ部屋を移したので、一日中私の傍にいる。おかげで二人とはだいぶ馴染めた。
アルテミスの事は当たり前に「アルテ」と呼ぶようになったし。
ヘルメールさんは生産省のミランダ大臣の所に赴き、農業や水産の現状把握と各地をどう視察するかを検討している。
聞いた話だと、ヘルメールさんの口から次から次へと改善点やアドバイスが飛んでくるため、ミランダ大臣を含め生産省の人達はあ然としているらしい。
この国の生産知識よりヘルメールさんの知識の方が勝っているって事か。
私とセリアのメイク担当となったアプテさんは、城の一室を借りてメイク講座を開いているそうな。
城内で働く女性使用人や女性騎士から非常に好評らしい。
鍛冶師のへーパトスさんは受注した道具を黙々と作っている。
完成度が非常に高く、他の鍛冶師が注目しているんだそうな。
交渉人になったへーメスさんは外交省のヴィクター大臣と交渉の仕方を語り合っているらしい。
……交渉の仕方って何?
こんな感じでみんな各々働いている。
未だ客室に残っている面々も、もうしばらくすれば専用の部屋や城の隣にある関係者専用住居へと引っ越しが行われる。
私以外のここに来た人達は、早くも馴染もうとしていた。
私だけが何も出来ない…。
「今日もこのまま一日経つのかな…」
「しょうがないさ。今は待つ時だよ。徳川家康みたいに」
「あの人の場合だと待つ意味が違うと思うわよ?」
セリアが言いたいのは多分『鳴かぬなら 鳴くまで待とう ホトトギス』だと思うんだけど、今の私の待つとは意味が違う。
そんなやりとりを続ける中、窓から陽が差し込む。
実は今の時間帯は早朝。どこもみんなこれから行動し始める時間なのだ。
なんか良く分かんないけど、私もセリアも陽が昇り始める前に起きてしまっていた。
「ふあぁ~…」
「眠いなら寝たら?まだ朝食までには少し時間あるし」
「いや寝ない。アイラがいないと寝れない」
「最近まで一人で寝てたでしょ。あんた」
「アイラが隣にいるという妄想をしながら寝てた」
「怖っ!なんちゅう事してんのよ!あんたは!まさか私の事思い出してからずっとそうしてきたんじゃ…」
「うん、そうだよ」
「…恐怖でコメントできんわ。変な展開まで妄想してないでしょうね?」
「あはは~。嫌だなぁ~。してないよ~」
「目が泳いでんだけど?」
「そろそろ誰かしらリビングに来る頃かな?」
「コラ。話を逸らすな。強引に話を変えるな。目を見ろ。オイ」
でも時間的にはそろそろシャロルやアテーナやアルテが来ても良い頃。
そう思った時、近くにわずかな気配を感じた。
「……ねぇ、何かいない?」
「いるね。気配がある…」
セリアも気付いているようで、二人で警戒態勢となる。
いつでも戦闘になっても良い姿勢となった直後、その気配の主が何もない空間から現れた。
「さすがはハルクの眷属ですね。この気配にお気づきになるとは。お見事です」
私達の前に突然現れたのはとても美しい女性。その美貌と神聖さはハルク様に退けをとらない。
ウェーブのかかった金髪ロングヘアーをそのまま流し、頭には花冠を付けている。
瞳の色は宝石のような澄んだ赤色。しかもラメが入っているかのようにキラキラ輝いている。
白色の下着のような物を身に着け、スケスケの薄い布らしき物を纏っている。
かなり肌の露出の多い過激な格好のはずなのに、それが気にならないくらい神々しい雰囲気を纏っていた。
私は思わず見惚れてしまっていた。こんな状態、ハルク様を始めて見た時以来だ。
「ご歓談のところ申し訳ありません。初めまして。私は精霊女王のオリジン・ユグドラシルと申します」
彼女は深々と頭を下げる。
精霊の女王様、つまりハルク様の友人か。
私と契約するために動いているうちの一つの伝説が、いよいよ私の前に現れたんだ…。
「初めまして。変に警戒してしまって申し訳ありません。アイラ・ハミルトンと申します」
「ビックリした~。心臓に悪い登場の仕方しないでよ。グリセリア・グレイシアだよ」
私が失礼の無いように挨拶した横で、セリアが上目線な挨拶をしやがった。
「ハルクよりあなた方の事は聞いています。アイラさん、そんなに畏まらなくても良いですよ。楽にしていてください。
突然現れた事は謝罪します。どれほど気配の察知が出来るか確かめてみたかったのです。ごめんなさい」
急な登場を謝罪したオリジン様。畏まっていた私にも楽にするよう言ってくれた。
中身残念なハルク様と違ってしっかりしてそう。
「早速ですが本題に入らせていただきます。アイラさん、ハルクより報告は受けていると思いますが、我々精霊、神獣、神龍がそれぞれあなたと契約を成すため動いています。あなたは契約をどうなさるおつもりですか?」
「全て受けさせていただく予定です」
「そうですか。それは良かった。現在このグレイシア王国のとある森に精霊達が集まっています。そこで契約を果たしましょう」
「分かりました。そこへはどうやって行けば…」
「街の外れまで来ていただければ、そこから先は私がご案内致します。時刻は今日の夜。人々が寝静まった頃に来ていただければと」
「夜の深夜帯ですね。分かりました」
「荷物は手ぶらで構いません。帰りは明日の朝頃と思っておいてください。ではまた、夜にお会いしましょう」
「はい、また」
ひと通り説明を終えると、オリジン様は一瞬にして姿を消した。気配も感じられない。既に去ったらしい。
私は力を抜いて大きくため息をついた。
「はあぁぁぁ…。緊張した。綺麗な方だったわねぇ。オリジン様」
「ハルク様と違って不真面目ではなさそうだね」
「あんた思いっきり失礼な態度だったわね」
「いちいち畏まるのとかメンドイし、柄じゃない」
それから五分後、シャロルとアテーナとアルテとアリスがやって来た。
私とセリアはオリジン様が現れた事、深夜に行動開始という事等を説明した。
アテーナが言うには天神界メンバーはオリジン様と面識があるとか。近いうち私の前に現れる事も分かっていたらしい。……なんで教えなかった?
説明後、アリスを通じてオルシズさんやリリアちゃん、ノワールにも情報が廻された。
その後は特に何事もなく、そしていよいよ夜を迎えるのだった。




