閣僚会議初参加
ノワールと天神界メンバーの性を考えた日の夜、セリアからグレイシア王国閣僚の名前と役職を教えられた。
というのも私はこの国に来て以降、ほとんど別館から出ていない。なので閣僚達の名前も顔も立場も知らない。
私は明日、その閣僚達と初めて会う予定になっている。
いくらセリアが傍にいるとはいえ、さすがに名前すら分からないのはマズイだろうと、セリアが説明してくれたのだ。
セリア以外で分かってるの、アリスとオルシズさんとリリアちゃんだけだったしね。
そして次の日。いよいよ閣僚達との顔合わせの日がやってきた。
私はリースタイン邸を出る際、動きやすさ重視の服しか持ってきていなかったため服装に悩んだが、そこにアリスがやってきて…。
「私は基本的にドレス系の服は着ないので、もしよろしければこちらをどうぞ。私とほとんど体格も変わらないと思いますので、着ても問題ないと思いますよ」
と、高貴な印象の服を貸してくれた。
アリスはドレスとか着ないのか…。こんな良い服も…。常に鎧着てるのかなぁ?ホント美人なのに勿体ない…。
というわけでアリスからのレンタル品一式をシャロルの補助付きで身に纏い、アプテさんにメイクをしてもらい、スンテノさんに髪を整えてもらった。髪型は普段と一緒だけど。
結果、私一切自分で準備してない。よく考えたらこれって子爵令嬢だった頃と同じじゃね?
それはともかく、準備を完了させた私は、セリアとアリスの案内で閣僚会議室に向かった。
閣僚会議室に立つ私。隣にはセリアがいる。そして私の目の前にはオルシズさんを含めた10人の閣僚が座っている。
この世界ではどこの国も閣僚が11人いると学院では学んだ。しかし今ここにいる閣僚は10人。
セリアの話だと、閣僚の役職の一つである『宮廷筆頭魔法師』に就いている人がいないんだとか。
その地位に登れる程の力を持った人がいないらしい。ここにも人手不足が…。大丈夫か?この国。
話を戻して閣僚の人達は、どっしり構えている往年な感じの人もいれば、私と年齢的にあまり差がないであろう若い人もいる。
セリアが言っていた通り、国王が変わった時に後を継いだ人が若い人達なんだろな。
「初めまして、アイラと申します。女王陛下のお誘いに応え、アストラント王国より参りました。女王陛下へ忠義を示し、誠心誠意努めていく所存であります。まだ分からない事だらけでご迷惑お掛けしてしまうかもしれませんが、ご指導のほどよろしくお願い致します」
私はきっちり丁寧に挨拶をした。
閣僚達からは歓迎の声も拍手もない。かといって否定的な声もない。
最も反応に困るパターンだ。
「というわけで、彼女を新しく国家総合監査長官として迎える。貴族階級は侯爵。新たにハミルトンの名を与える。文句ないよね?散々説明したんだから」
セリアがまとめるものの、そのセリアからは威圧感がハンパない。いい加減歓迎しろ、て目で訴えてるのが私には良く分かる。
「前回の会議でも話したが、私と彼女は出会った時から深い仲だ。情報は常に共有するから、片方のみに何か言ってもすぐ分かるからね。私同様、全ての物事に指図する事も出来るようにするから、アイラへの抵抗や反抗心は私への挑戦状と思うように。私に刃向ってきた奴らみたいに、身体バラバラになって死にたくないよねぇ?」
セリアの圧力がどんどん強くなっていく。
ていうか、刃向ってきた奴神力で斬り刻んで殺したでしょ?あんた。相変わらず容赦ないんだから…。
セリアの圧力に閣僚達の表情は険しくなっていく。中には泣きそうな表情の人もいる。
これは誰も何も言わないというより、何か言いたくても言えないんだ。ホント、セリアの独裁じゃないの。
「あ、あの、私はやたら指図したり圧力かけたりはしませんから。意見があれば遠慮なく言ってください。というか、別に私には気安く接していただいて構いませんので」
私が重たい空気を払拭するために出来る限りの気遣いをすると、閣僚達は意外そうな表情を見せた。
もしかして、私もセリアみたいに圧力かけてくるとか思ってた?
「なんでしたら、無駄話でも構いませんよ。皆さんとは楽しく接していきたいと思っておりますので。世間的な話題でも、仕事の愚痴でも何でもお聞きしましょう」
私は言葉を続ける。世間話や愚痴といった仕事とは無関係の話でも、それが何かのヒントに繋がる事だってある。
前世で生きていた頃の世界でも、そういった関係ない事から大成功を生み出した前例なんていくつもあったんだから。
私が話し終えたところで、ついに閣僚の中でもベテランな感じの人が口を開いた。
「随分と謙虚で明るいお嬢さんですな。でしたら是非お言葉に甘えさせていただきますぞ」
「思ってたより優しそうな方で安心しました」
ベテランさんに続いて若い閣僚の人も発言する。でも『思ってたより』は失礼。
二人の閣僚の発言をきっかけに、みんな微笑みを見せ始める。
どうやら受け入れてくれたようだ。重たい空気をある程度払拭出来たみたい。
「いくらアイラが気遣っているとはいえ、立場はアイラの方が圧倒的に上だ。同列は私かオルシズだけだ。お前達は態度と言葉使いを改めいったぁ!!」
せっかく場の空気が変わり始めたというのに、セリアがそれをもとに戻そうとしてきやがったので、私は彼女の足を思いっきり踏んだ。
ちなみに私は現在ヒールを履いているため、かかとの力で足を踏まれたセリアの痛みはそれなりに強いだろう。
なお、私は踏む時から踏んだ後も笑顔のまま。セリアは足をおさえて悶えている。
「アイラ~。急に何すんのさ~」
復活したセリアは、涙目で抗議してきた。
「女王陛下が場の雰囲気を乱すからではありませんか。自業自得でございます」
「別に乱してないよ!立場上の話をしただけだよ」
「言う時が間違っております。あのまま黙っておけば良かったものを」
「だからって足踏むことないじゃないか~」
「では、すねを蹴った方が良うございましたか?」
「結局変わんないじゃん!アイラひどーい。暴力はんたーい」
「今まで暴力的に圧をかけてきた方が何をおっしゃっているのです?ましてや女王ともあろうお方が子供のように。
でしたらこうしましょう。皆さん、私が国家総合監査長官就任後に女王陛下の年間休日を二日のみにする政策を行う事に賛成の者は挙手を」
「待ってください。すいませんでした。休日二日は勘弁を」
セリアの抗議に私は笑顔のままよそよそしく対応する。
ぶーぶー言ってきたセリアに脅しをかけてみたら、あっさり謝罪してきた。
「てか、なんでアイラ敬語なの?普段通りで構わないよ?私が疲れる」
「そう?公衆の面前だからこの方が良いかと思ってたんだけど。だったら普段通りにするわ」
「そうしてよ。それが楽」
「でも会議は真面目にやってよ?圧かける事もなく」
「それは保障しかねるねぇ~。圧かけないと好きな事出来な痛い!!」
「なんか蹴った方が良い気がしたから蹴っといたわ」
セリアに言われて私は言葉使いをもとに戻した。
でもって、セリアが圧力を利用して会議を手を抜いてやっていたぽかったので、とりあえずすねを蹴っといた。
「皆さん、今後女王陛下に脅されたりした場合は私にお伝えしていただければ叱っておきますので、お願いしますね」
うずくまるセリアの横で私が笑顔を見せながらそう言って閣僚達を見渡すと、みんな口を開けたままポカーンとしていた。
唯一オルシズさんだけが、何故か楽しそうに微笑んでいる。
「まさか、女王陛下にここまで強く言えようとは…」
「陛下に勝る方が現れるなんて…」
閣僚達の称賛されているのか分からない言葉を、私は苦笑いで受け止める。
私とセリアは前世の頃からの親友。しかも現在は神の眷属という共通の立場にいる。
しかし当然ながら、この場ではオルシズさん以外その事を知る人はいない。
であるならば、威圧感満載で恐れられているセリアに意見できる私はすごいのだろう。
「ウウン!とにかく皆アイラを受け入れるということで良いね。じゃあ次」
復活したセリアは咳払いをした後、強引に話を切った。
これ以上自分の事を甘く見られるのを恐れたんだろう。
「アイラに一人ずつ自己紹介して。じゃないとアイラにとっては誰が誰だか分かんないでしょ」
というわけで、セリアの進行で閣僚達が自己紹介をする事になった。




