学院生活開始
第二章開始です。よろしくお願い致します。
視点はアイラに戻ります。
入学式まであと三日となったある日、私は学院から送られてきた手紙を確認していた。
手紙の内容は、入学式当日に必要な持ち物、入学式後に行われる入学記念パーティーの案内と、学院までの案内地図。
学院までは私は家が用意した馬車で登校するけど、学院生の中には平民生徒もいるため、徒歩で登校する者もいる。地方から王都へ来た人は、学院近くにある学院寮へ入る。
余談だけどこの世界には日本と違って小学校や中学校が無い。つまり義務教育がない。今回私が入学する学院は、日本でいう高等学校に近い。それまでの教育は貴族や平民関係なく、親が教えるか、教会や聖堂で定期的に行われている勉強会に参加するか、どこからか家庭教師をやってくれる人を探して雇うか、という感じ。私の場合お父様と繋がりのあった国の役人が家庭教師として来てくれていた。他の国の教育事情は知らないけど、おそらく似たような感じだと思う。なお、この世界の貴族には乳母はいない。
そうして教育を受けてきて、いざ学院の入学試験を受けて、驚愕した。
学問のレベルが低い!ものすごく低い!
高校入試の感覚で望んだら、試験の内容はまるで小学校の五年生から六年生で習うようなものばかり。その事を知って以来、私はこの世界の未来が心配でしょうがない。
ちなみに、クラスの案内や試験結果の内容や順位等は入学式当日に知らされる。けど試験内容のレベルが低すぎたから、わざと問題を間違えるのに苦労した。じゃないと主席入学になってしまう。
主席が嫌な理由、それはただ一つ…。
目立つのが嫌だから!!
「はぁ~、主席になってなきゃいいけど…て私、他の受験生から見ればすごく腹の立つ悩みしてるよね」
そんなことをつぶやいているとドアがノックされ、シャロルが入ってきた。
「失礼します。お嬢様、今お時間よろしいでしょうか?」
「うん、平気だよ。どうかした?」
「実は先程、私の実家より手紙が届きまして」
「実家?シャロルのご両親から?」
「はい…」
手紙が届いたと言うシャロルの表情は明るくない。もしかして家族に何かあったのかしら?
「あの…、実は、私の妹が学院に入学するらしいのです」
おー、妹さんも学院に入るのかー。同級生になるんだな~。
ずっとリースタイン邸にいるシャロルだけど、稀に実家へ帰っている。屋敷へ戻ってくるとよく妹話をしてくれるけど、その妹さんと会えるとは少し楽しみ。
「おめでとう。良かったじゃないの。私とは同級生になるし、楽しみだわ」
「まさか妹が入学試験を受けていたとは知らず驚きました」
学院に入るかどうかは自由で、入らずにどこかへ就職という人の方が割合多い。現にシャロルもその一人。入らなかったといって、日常生活に支障をきたす事はない。
シャロルは妹が働くと思っていたらしく、驚きだったようだ。
「はぁ、私は心配でなりません。かなりドジなので…。学院寮に入るようですし、何かやらかさなければ良いのですが…」
(なるほど。それを気にして心配してるから表情が暗いのか)
前世も今世でも一人っ子である私にとっては、心配する程仲の良い兄弟や姉妹がいるのは少し羨ましい。
「親元を離れて寮で暮らせば自立心も付くはずよ。学院が運営する寮である以上学院側のサポートも付くはずだし、きっと大丈夫よ」
「だと良いのですが…」
「あまり気にしすぎるのも妹さんに良くないわ。姉として信じてあげないと」
「…そうですね。お嬢様のおっしゃる通りかもしれません。お嬢様、妹がなにかとご迷惑をおかけするかもしれませんが、どうかよろしくお願い致します」
「うん。わかった」
深々と頭を下げるシャロルに、私は一言だけ返して微笑んだ。
そしていよいよ入学式当日を迎えた。
髪型は普段の三つ編み一本結びではなくストレートに流した状態で、ドレスは胸の部分が大胆に開いて、胸から上は肌を露出させた作りの物を選んだ。実はお母様のおさがり。
馬車に乗り込み、学院へ向かう。
学院の名はサブエル学院。ここに三年間通うことになる。クラスは『エルス』『マルス』『ザウス』の3クラスに別れる。
エルスは成績優秀者、マルスが平均的、ザウスがその下。どこに入るかは今日分かることになる。ただし武闘系や魔法系や事務系の授業で別れる時だけクラスは関係なくなる。
ちなみに昨日お父様から急に聞かされたのだけど、今年の新入生の中にアストラント王国王子のリベルト王子殿下と、その婚約者候補と言われていて貴族令嬢の中でも特に力を持っている、ティナ・アルテミア公爵令嬢と、ホウ・テミナガ侯爵令嬢がいるんだとか。
会ったら挨拶しておくようにお父様に言われたけど、できれば会いたくないなぁ。入学試験の時に試験問題わざと間違えて良かった。もし主席だったら、私王子越えしちゃってヤバかったよ。王子が学院に入れば絶対主席って異世界話じゃお決まりだからね。…あくまで私の偏見だけど。
「お嬢様、学院に到着致しました」
シャロルに言われて馬車を降りる。
校門から校舎へは長い石畳の道が伸びていて、奥に見える校舎は赤茶色と白色の「まさに学校!」という感じの雰囲気。校内案内地図によるとその校舎の横に講堂があって、そこが入学式の会場となる。
「では、お嬢様。私と使いの者は学院指定の場所で待機しております。どうかお気を付けて、周りの方々にご迷惑お掛けしませんよう。それと妹の事、かさねがさねよろしくお願い致します」
「待機するのはわかったけど、私をトラブルメーカーみたいに言わないでくれる?それと妹の事気にしすぎ」
私にも妹さんにも失礼だわ。まったく。
「じゃ、行ってくる」
私はシャロルに背を向け歩き始める。ここから先は一人で行動することになる。
講堂前に到着後、入り口近くの受付のとなりに試験結果の順位が貼り出されていたので、自分の名前を探す。
成績が低かった所から見ているのだけど、自分の名前が見当たらない。探しまくってようやく自分の名前を発見したのだけど、私は何度も見かえしていた。驚きがゆえに。
「私…二番目?マジで?」
主席はリベルト王子殿下。それは別に良い。問題なのは王子の婚約者候補であるティナ令嬢とホウ令嬢を三位と四位におさえて、私が二位に割り込んでいたということ。
(うわあぁぁぁ!!確実に二人から目つけられるよおぉぉぉ!!)
私は心の中で思いっきり叫んだ。声に出そうになったけどギリギリ堪えた。
(うぅ……。さよなら、私の普通の学院生活…)
私が心の中で密かに望んでいた平民の友達との普通の学院生活という希望が入学早々消えることになってしまったことに、深く落ち込む私であった。